地学露頭紹介

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変形構造から読み解くテクトニクス
竹下 徹(北海道大)
 
図1 新居浜市付近の三波川変成岩中に形成されたD2正断層.本正断層はほぼ垂直で現在の姿勢では横ずれ断層と見なされるが,D3褶曲をもとに戻すと正断層となる.

  今回の地質学露頭紹介では「変形構造から読み解くテクトニクス」と題して,短縮と伸張テクトニクスを示す地質構造の露頭の例を紹介した.実際には露頭に現れている短縮テクトニクスを示す地質構造を1つ,伸張テクトニクスを示す地質構造を2つ紹介した.伸張テクトニクスを示す1つの地質構造は,その露頭写真が構造地質部会が作成した『日本の地質構造100選』 (朝倉書店)に掲載されている.また,そのWEB写真集(リンクはこちら)に,短縮テクトニクスを示す地質構造は掲載されている.短縮テクトニクスを示す地質構造は,島根県大社町の大社漁港付近の海岸沿いに位置する.ここは,出雲大社や島根ワイナリーの近くでアクセスが良く,巡検に適している.短縮テクトニクスは,日本海拡大時最盛期に堆積した成相寺層(17.75 Maの有孔虫年代が得られている;野村ほか, 2018, 地質雑)の転倒褶曲構造とそれを切断する逆断層で示され,宍道褶曲帯(例えば,鹿野ほか,1998, 大社地域の地質,5万分の1地質図幅)の一部を構成する.この露頭の成相寺層は良く成層した流紋岩質の凝灰岩で構成され,逆断層部で地層は逆転している.したがって,この転倒褶 曲構造・逆断層は日本海拡大後のインバージョンテクトニクスを示す.なお,この大社漁港付近の露頭を含んで,周囲の地質および露頭は島根大学大学院教育学研究科(当時)の成相俊之氏が作成されたホームページ( 出雲の地質:リンクはこちら)に大変詳しく纏められている.
 一方,伸張テクトニクスを示す地質構造については,紹介者が長年研究して来た四国中央部新居浜市付近の三波川変成岩上昇時のそれを示す露頭を紹介した.最初の露頭は国領川沿いの露頭で,既に『日本の地質構造100選』に報告したものである.三波川変成岩は上昇時に最初は流動変形を被ったが,脆性―塑 性転移を越えてさらに上昇した時,正断層形成による伸張テクトニクスを被った(e.g., El-Fakharani and Takeshita, 2008). この露頭は伸張デユープレックス(extensional duplex,
https://kotobank.jp/word/伸張デュープレックス-1547364,村田明広氏による)と呼べる構造を示すが,上下をルーフおよびフロアー正断層に挟まれ,その間でレイヤーが数多くの小正断層で切られている.薄片スケールのシェアバンドと同一の構造である.ここでは,ルーフ正断層に沿って厚さ15 cmの石灰岩レイヤーが存在する.最後の露頭写真(図1)は流動変形を伴う正断層を示し,脆性―塑性転移の条件(温度約300℃)で形成されたと推察される.変成した砂岩レイヤーが断層によってドラッグされ,著しく薄化していることに注目して欲しい.
2021.10.25掲載
 
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