地球史Q&A

注:これは地質学会としての統一見解ではなく、読者の理解の一助として広報委員会が整備したものです

    地球史に関するQ&A

Q1.第四紀の時代区分が変わるってどういうことですか?
Q2.なぜ258万年前なの?
Q3.年代の定義の変更と数値の改訂の違いとは??
Q4.第四紀とはどんな時代なの?
Q5.活断層とは第四紀に動いたものだと聞きました.第四紀の年代が遡ると活断層が増えるのですか? 危険性は?
Q6.法令に「第四紀」は使われているの?
Q7.建築物への影響は?
Q8.第三紀はどうなりますか?


Q1.第四紀の時代区分が変わるってどういうことですか?

A.旧来の鮮新世の一部まで第四紀になります

 これまで新第三紀 鮮新世に入れられていたジェラ期(中生代のジュラ紀ではありません)が,第四紀の更新世に含まれることに変更されました.これは,新生代末期の顕著な寒冷化および数万年周期の氷期・間氷期の繰り返しが.ジェラ期には既に始まっていたことがはっきりしたためです.また,松山逆磁極期の始まり(258万年前)をもって第四紀の始まりとすることになりました. 2009年6月30日、国際地質科学連合(IUGS)執行委員会は長年、地質区分として不確定であった第四紀を正式な紀/系として認め、その始まりをこれまでの181万年前から258万年前に変更する新たな定義を批准しました。日本においてもこの新しい定義を受け入れ,普及させる必要があります.


ちなみに松山逆磁極期とは,松山基範先生(1884-1958)が,地質時代において地球磁場が逆転していたことを世界で初めて発見し,その2功績からが名づけられたものです。これがひとつの指標となったということは,日本の地球科学にとって嬉ばしいことです.


Q2.なぜ258万年前なの?

A.各時代区分は,それぞれその時代を特徴づける現象によって区切られています.

 第四紀は,地球が全体的に寒冷化に向かった時代です.古気温の指標である酸素同位体比は,鮮新世から更新世にかけて大きく変動しつつも,この時代から明らかに現在のレベルよりも下がっていきます.そしてそれ以降,氷期と間氷期の4.1万年の周期性が明瞭に表れてきます.かつガウス正磁極期から松山逆磁極期への逆転の時期に当たるので,これを凡世界的な境界として使うことができます.


Q3.年代の定義の変更と数値の改訂の違いとは?

A.分析技術の進展により,年代の数値が変わることはたびたびあります.

 しかし時代区分の定義の変更はめったにありません.しかも私たちが生活している第四紀という時代の区分が変更されるというのは,他の時代区分とは全く違った意味を持っています.


Q4.第四紀とはどんな時代なの?

A.寒冷化と人類が進化した時代です.

 地球規模で寒冷化がすすみ,中緯度地域に達する大規模な氷河の出現が顕著となり,現在も継続する地球規模の激しい環境変動の中で人類が発生して進化してきた最新の地質時代です.人類の出現はもっと以前ですが,ホモ属が世界各地に拡散・多様化し,現代人に至る進化を行ってきた時代です.また,氷床の拡大・縮小、氷期・間氷期等のサイクルが明瞭で,気候変動・環境変動に関わる膨大な情報が残されており,近未来の地球環境を合理的に予測するための重要な資料として活用されています.こういった特徴が第四紀を他の時代と画する重要な特徴です.


Q5.活断層とは第四紀に動いたものだと聞きました.第四紀の年代が遡ると活断層が増えるのですか? 危険性は?

A.時代区分が変更されたからといって急に危険性が増したりはしません.

 活断層とは,最近の時代に活動した断層で,将来も動く可能性がある点が重要です.基本的には個々の断層において,トレンチ調査等によって再来周期と最新イベントを認定し,それを基づいて活動度評価がなされます.つまり,いつ,どれくらいの地震が繰り返されたか,という前歴を明らかにして,そこから将来を推測するのです.それに対して,断層が第四紀の地層・地形を切っているかどうか,というのは大まかな目安とすぎません.調査の最初のステップとして,第四紀の地層を切っているかとうかというのは注目されますが,最近では特に後期更新世以降の地層を切っているかどうか(すなわちここ10万年くらいの活動)が重要視されるようになっていますので,今回の変更により活断層の調査や評価が大きく変わるものではありません.


Q6.法令に「第四紀」は使われているの?

A.使われています.

 たとえば 特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律施行規則(平成十二年八月三十一日通商産業省令第百五十一号)です.詳しくは電子政府のホームページから閲覧できます.ここからリンク


Q7.建築物への影響は?

A.ありません

 大きな構造物の建設が検討される場合に、地盤の目安として第四紀の地層の有無が、大まかな目安として使われる場合があります。しかしこれはあくまでも第四紀より古い地層は固まっているだろうという、便利な目安にすぎません。実際に建設する場合には地盤の力学試験に基づいて安全評価が行われます。第四紀の定義が変更されるからといって、既存の構造物の安全性が損なわれるものではありません.


Q8:第三紀はどうなりますか?

A: 用語としては国際的には使われなくなっています.

 アメリカと日本を除き,国際的なスタンダードとして Tertiaryは すでに 使われていませんので,国内でもそれに従い今後「第三紀」は使うべきではな いと話し合われています.それに代わり,Paleogene, Neogene の和訳として,今の所は従来の和訳(古第三紀,新第三紀)を踏襲するという提案がなさ れています.いずれにせよ,新学習指導要領に則った高等学校の地学教科書の 改訂のこともありますので,地質学会の方針を早めに決定し,速やかに広報す る予定です.