日本地質学会会長賞:上五島で新たに見出された海底地滑り構造
写真:川原和博(長崎県)
撮影場所:長崎県 五島列島中通島 南松浦郡新上五島町 砕石場【撮影者より】
五島列島中通島の基盤は中新世中期に堆積した非海成の五島層群です.その五島層群を中新世後期の有川層が不整合に覆っています.有川層は下位から上位へ火砕流堆積物,細粒砂岩,泥岩,火砕流堆積物と遷移しています.写真は上部の火砕流堆積物(白色)の一部が下位の泥岩(黒色)へ乱雑に再堆積した海底地滑り堆積物の構造を示しています.
2020年(令和2年)10月24日午前10時撮影.採石場の加藤産業(株)の職員の方に案内してもらい,この露頭を見た瞬間,同行の武内浩一氏(長崎県地学会)と思わず声を上げてしまいました.高さ130m,幅150m以上の大露頭です.右下に削岩機とパワーショベル,重ダンプトラックが写っています.45年前(1976年)この露頭近くのつづら折りの急な町道でルートマップを作成し,有川層の層序を立て,海棲貝化石を採取しました.当時,採石場はまだ稼業していなく,その付近の海岸線は切り立った海食崖の連続で踏査できませんでした.(21.4.26追加)
【審査委員長講評】
巨大な採石場を撮影した作品で,その大きさは右下のパワーショベルからよくわかります.露頭は砂塵などによって不明瞭になってしまうことが多いのですが,この露頭では地質構造が明瞭です.露頭のスケッチと合わせてこの作品をじっくりと眺めたいものです.高い位置から撮影していますが,ドローンでの撮影でしょうか.地質関係者でなければとれない作品です.
【地質的背景】
本層は,上五島の中央部にみられる不思議な礫岩層の巨大露頭である.五島列島では中新世の砂岩泥岩やグリーンタフ火山岩類を基盤としており,本層はこれらの地層を不整合で覆う堆積物である.この上位には厚い流紋岩質の火山砕屑岩が重なっている.どのような場所でどのようなイベントが起こってこの分厚い堆積物ができたか不明であり,特に陸上堆積環境の五島層群に海洋環境なったかどうかを示すカギとなる地層である.古くから採石によりできた巨大露頭は地質事件を示す重要な証拠写真となり,是非とも保存してほしいところである.(清川昌一:九州大学)