ジオ鉄賞:海岸線を行く
写真:大宮 知(北海道)
撮影場所:北海道小樽市張碓町の海岸(恵比寿島付近) JR北海道・函館本線(朝里〜銭函)
【撮影者より】
小樽市の海沿いを走るこの鉄路は,北海道で最初に開業した路線であり,雄大な海を眺めながら,乗っても撮っても楽しい区間.こうして上から見てみると,トンネルや橋など大きな土木工事が難しかった時代に,山塊が海へと沈み込む境目のわずかなスペースを巧みに利用して鉄道を敷いた,当時の技術者の苦労が忍ばれる風景とも言えるでしょう.
【審査委員長講評】
鏡のような海面,浅瀬の模様,礫岩からなる海岸,緑鮮やかな山腹,その間にS字を描いて走る赤い列車.ジオ鉄部門で難しいのは,ジオと鉄道の要素の割合です.この写真では鉄道が8割,ジオが2割というところですが,構図や色彩が整理され,清々しい作品なので,ジオ鉄賞としました.
【地質的背景】
石狩湾に面した銭函海岸。新第三紀の火砕岩からなる海食崖の下を、海岸地形に沿うように走る函館本線。地形的制約を受け限られた場所に敷設された線路の特徴を、俯瞰の構図が見事に捉えています。急峻な海食崖を覆う緑と、海底 地形をも写し込む透き通る石狩湾の青、その間を縫うように6両編成でやってきたのは朱色のボディーが映える国鉄型711系電車です。国鉄時代の昭和43年より活躍した711系は平成27年春に営業運転を終えたことからも記憶に残る一枚に。また道内初の開業路線であり当時の難工事を思う撮影者の説明がジオ鉄写真の魅力を一層引き立てています。手宮(現小樽市内)〜札幌間の開業は明治13年。当地は明治大正期に鰊漁が盛んで、鉄道運行が漁の不振原因になるとして論争の絶えない場所でもありました。写真遠方に見える高島岬には現在登録有形文化財の「にしん御殿」が建っています。ジオ鉄のある美しい風景から鉄道開拓時代のエピソードを読み解きたくなる「ジオ鉄賞」に相応しい魅力ある作品でした。(藤田勝代:深田研ジオ鉄普及委員会)
※「ジオ鉄賞」:第6回より深田研ジオ鉄普及委員会より本コンテストに後援を頂き,あらたに「ジオ鉄」賞を創設しました.鉄道と地球の姿を組み合わせた優れた「ジオ鉄」作品を表彰します.