国際学術用語となった“人自不整合”
 

上砂正一(環境地質コンサルタント、NPO法人日本地質汚染審査機構副理事長


    25年前の日本地質学会富山大会の夜間小集会「都市地質学全国協議会」で、地質汚染などで問題となっていた自然地層と人工地層との境界“人自不整合”について、地質学用語の提唱とその重要性が指摘された。提唱者の楡井久氏達をはじめとした参加者間で大議論となり、“人自不整合”が環境地質研究員会で採択されたものの、この新概念は国内で意味が深まらずに休眠状態であった。同氏は、京都で開催された29th IGC以来、 IUGS-COGEO, IUGS-GEMで長く活躍し、国際的に高い科学レベルにある日本の環境地質学の国外紹介に尽力してきている。国際GEO-PARK創立に関わるIUGS-COGEO側からのコメントにも関わっていたようである。

このような背景があったのか、”人自不整合“の用語が国際誌「The Anthropocene Review、2015」に、
The most important aspect of the declaration from the standpoint of this paper is the significance accorded to the lower bounding surface – marking the division between anthropogenically modified layers and natural geological deposits – that is known by Japanese geologists as the Jinji(人自) unconformity or discontinuity. The Chinese character for ‘Jin’ (人) means human being and that for ‘Ji’ (自) means ‘natural’. Although of particular relevance to the understanding of artificial ground in geologically unstable regions on the Japanese east coast, the boundary is also held to demarcate the lower bounding surface of humanly modified ground elsewhere in Japan and in other parts of the world. It marks the base of cultural layers of historic and ancient origin as well as heavily contaminated layers of the industrial age (Nirei et al., 2012). It is coincident with Boundary A, the lower boundary of the archaeosphere, as referred to in this paper and in Edgeworth (2014).
http://anr.sagepub.com/content/early/2015/01/07/2053019614565394.full.pdf+html
として掲載されている。”人自不整合“は、東日本大震災を契機にその概念の重要性が国外で認識され、国際学術用語として使われているのではないかと思われる。

はたして日本発の地質学的概念が、英語論文中にその用語の「漢字」がちりばめられて紹介された例は、これまでの日本地質学史の中にあったであろうか?このような事例は今後の日本地質学史の編纂に寄与すると思われる。特に、古参の地質学会会員の方々が記憶を呼び起こし、地質学会会員の共有情報にしておくことは、若手から独創的発想の研究成果が生まれる機会にもなろう。

記事を書くに当たって、八木アンテナのことを思い出した。世界的な発見・発明である指向性の八木アンテナは発明当初日本の科学界には西洋崇拝が強く、日本の発明は重要でないと受け入れられず八木の論文は、日本では埋もれてしまった。日本の特許がアメリカ軍によって利用され、戦後まもなくテレビが世界中に普及し、同時に八木アンテナも世界中に普及した。なぜか、このような構図が地質学の世界と重なっているように感じ筆を執った次第である。

引用文献
Matt Edgeworth, Dan deB Richter, Colin Waters, Peter Haff, Cath Neal and Simon James Price,2015,Diachronous beginnings of the Anthropocene: The lower bounding surface of anthropogenic deposits,The Anthropocene Review,1–26.

(2015.5.19掲載)