最優秀賞:太古の足跡
写真:鶴田重房(鹿児島県)
撮影場所:屋久島宮浦シーサイドホテル屋久島下の海岸
【撮影者より】
屋久島在住の中川正二郎氏によって2003年1月発見されたズーフィコス化石です.ユムシ類の摂食,排泄の跡という事ですが,大変保存状態が良く,今は天然記念物に指定されています.撮影した日は生憎の空模様.海風が強く飛沫に苦労しました.
【審査委員長講評】
左半分には海沿いの切り立った堆積岩層を,右半分に明るく照明を当てた生痕化石ズーフィコスを配置させることによって,わかりやすく美しい作品に仕上げています.撮影場所は屋久島宮之浦港の近くにあり,行きやすいので,実際に訪れて生痕化石ズーフィコスを残した太古の深海底での生物の営みを感じたくなります.
【地質的背景】
ズーフィコス(Zoophycos)は,カンブリア紀以降の海成堆積物から産出する生痕化石です.白亜紀以降は深海堆積物から産出します.円盤状でシート状の構造(スプライト)が,層理面に垂直な中心軸の周りを螺旋状に取り巻く特徴的形を示します.中心軸内で一生を過ごす形成者は,海底面上で摂食を行い,中心軸周囲の堆積物中に糞を規則的に排泄してスプライトを作ります.極めて大型で複雑な立体構造のため,露頭面で全体像を見ることは難しく,写真のような一巻き分のスプライトが観察できるのは大変珍しい例です.(小竹信宏:千葉大学)