「地質学の復権を念う:GAC/MAC年会 in Fredericton, Canadaにて

楡井 久(地質汚染診断士・地層液流動化診断士)

図1
図2


大西洋に面するカナダのファンデイ湾にセントジョンズ川が注ぐ.遡るとカナダのニュー・ブルンスウイク州(総面積73,500km²,州人口は75万1,171人)の州都フィデリクトン(Fredericton)市がある.日本の一般的地図帳には地名も無い市であるが,「赤毛のアン」物語の発祥地に近い.河川・大地は,大陸氷河が削った氷河地形そのものである(図‐1).豊かな環境と,ゆったりした生活環境が羨ましくも感じる.また、寿司バーもあり Cool Japan はこんなところにまでここまでにも普及している.ただし,経営・店員は全て韓国人である.また,歴史的遺産も環境資源として生かす努力がなされている(図‐2).
ここで,カナダ地質学協会(Geological Association of Canada:GAC),カナダ鉱物学協会(Mineralogical Association of Canada:MAC),大西洋地球科学会(Atlantic Geoscience Society),UNB大学(University of New Brunswick)主催によるGAC/MAC年会が, 今年(20152014)の5月3日〜7日にかけて開催された.GAC/MAC年会は175回目のようである.この年会に国際地質科学連合(IUGS)環境科学研究委員会(GEM)の地質環境sessionも設けられた.IUGS-GEMの委員会も,UNB大学の地球科学部の会議室でおこなわれた(図‐3).日本からは,古野邦雄氏(Secretary, Japan of Branch, IUGS-GEM)と私が出席した.


帰り際に,Faculty & Staff 掲示版が目に留まる.この学部の前身は,地質学部(創立1922年)であるが,教授団は以下のようである.
 

図3
図4


水文地質学(Hydrogeology)/環境地球化学(Environmental Geochemistry)・応用氷河地質学/地質工学(Engineering Geology)・応用地球物理学(Applied Geophysic)/岩石力学(Rock Physics)・堆積学(Sedimentology)/石油地質学(Petroleum Geology)・経済地質学(Economic Geology)・変成岩岩石学(Metamorphic petrology)/地質編年学(Geochronology)・古生物学(Palaeontology)/堆積学(Sedimentology)・火成山岩岩石学(Igneous Petrology)/ 火山学(Volcanology)・隕石衝突地質学(Impact Geology)/衝突変成学(Shock Metamorphism)・水成地球化学(Aqueous Geochemistry)・構造地質学(Structural Geology)/電子顕微鏡技術(Electron Microscopy)・構造地質学(Structural Geology)/テクトニクス(Tectonics).

教授団による教授・研究は地域的であり国際的な内容である.さらに調査研究Staffによる協力体制からも,それが良く理解できる(図‐4).地質学から地球科学へのパラダイムシフトも地域性を熟慮したシフトである.

各国の地質学に対する社会的背景が変化し,国際的にも地質学,地球科学,地球環境学,地球・惑星学といったそれぞれの学科・学部名を見るが,わが国でも地質学科や地質鉱物学科も他の体系も含め地質学,地球科学,地球環境学,地球・惑星学といったそれぞれの学科・学部名に変わったが,はたして日本列島や日本の人間活動をも考慮した教授・研究内容のシフトであったろうか.我が国の国状を理解したなら,地質環境学・人工地質学・地質汚染科学・水文地質学・医療地質学・法地質学などの教授・研究内容も正座してなければならない.むしろ,このような内容は,工学系が占拠し,負の技術体系を形成してきているとも思われる.抑圧移譲にもみられる.その負の技術体系が,福島第1原発での放射性物質汚染地下水漏洩の阻止を難儀させているとも思われる.国外から見たらみっともない.我が国には,もっとまともな技術体系がある.今こそ地質学の復権の時期であり,そうなければならない.

 

(2014.9.8)