The 2nd G-EVER International Symposium and the 1st IUGS & SCJ International Workshop on Natural Hazards and Risk Management in Asia-Pacific Region: Earthquake, Tsunami, Volcanic Eruption and Landslide in Subduction Zones
第2回G-EVER国際シンポジウム・第1回IUGS・日本学術会議国際ワークショップ
2013年10月19-20日、仙台市情報・産業プラザ(仙台駅西口前アエル6階)
主催:G-EVERコンソーシアム、 産総研地質調査総合センター、国際地質科学連合(IUGS)、日本学術会議(SCJ)
共催:日本地質学会、Coordinating Committee for Geoscience Programmes in East and Southeast Asia (CCOP, 東・東南アジア地球科学計画調整会議)
後援:東北大学、京都大学防災研究所、防災科学技術研究所、フィリピン火山・地震研究所、日本地震学会、日本火山学会、日本第四紀学会、日本活断層学会、応用地質学会、東京地学協会
石渡 明(東北大学東北アジア研究センター)
この国際シンポジウムは2012年2月22-24日につくば市で開催された第1回G-EVERワークショップ及び2013年3月11日に同市で開催されたG-EVER国際シンポジウムに次ぐもので、今回は2011年の東日本大震災の被災地の中心にある仙台市で2013年10月19-20日に開催された。2日間で口頭34件(あいさつを含む)とポスター26件の発表があり、翌21日には津波被災地域への巡検が行われた。G-EVERというのはGlobal Earthquake and Volcanic Eruption Risk Management(国際地震・火山噴火危機管理)の略である。また、21日からは仙台市国際センターでCCOP(東・東南アジア地球科学計画調整会議)が開催された。G-EVERは学術的、CCOPは実務的・政策的という印象だった。
冒頭、産総研地質調査総合センター所長でG-EVERコソーシアム会長の佃栄吉氏、IUGSのRoland Oberhänsli会長(ドイツ)、日本学術会議のIUGS日本支部代表松本良氏、CCOP事務局長のAdichat Surinkum氏の開会あいさつがあった。第1セッションは「自然災害への科学的挑戦と減災」と題して、IUGS事務局長のIan Labmert氏(オーストラリア)(地震・津波災害の減災に向けて)、日本地質学会会長の石渡明(東北大学)(東日本大震災の体験:地震・津波・原発事故)、水災害・リスクマネジメント国際センター(ICHARM) ・土木研究所(PWRI)の竹内邦良氏(2000年のMillenium Development Goalから2015年以後のSustainable Development Goalへ)、アラスカ大学・G-EVER副会長のJohn Eichelberger氏(遠隔地の火山噴火と航空機の安全)、シンガポールのChris Newhall氏(VEI≧7噴火予測への科学的・社会的挑戦)、産総研の宝田晋治氏(次世代火山災害評価システムとアジア太平洋地域災害予測地図)が講演した。
午後の第2セッションは「火山噴火、地すべり、地震災害」と題して、地震研の中田節也氏(霧島新燃岳2011年噴火)、カナダSimon Fraser大学のPeter Bobrowsky氏(オレゴンやアラスカの沈み込み帯地震に伴う地すべり)、山口大学の川村喜一郎氏(海底地すべりとその災害)、京都大学防災研の千木良雅弘氏(地震・降雨によって引き起こされる地すべり)、台湾の中国科学院のLin, Chen-Hong氏(地震観測網による地すべりの検知)、中国国家地震局の温瑞智氏(2013年4月20日の四川省廬山地震)、産総研の石川有三氏(ISC-GEM地震カタログ)、ベトナム科学技術アカデミーのNguyen Hong Phuong氏(フィリピン西方で発生する南シナ海の地震津波)が講演した。中国地質科学院(北京)のDong, Shuwen氏(四川省西部の2013年地震の地震テクトニクス)は欠席だった。この日の夕刻に仙台駅前の居酒屋で懇親会があった。
2日目の第3セッションは「災害評価、2011東北沖地震と沈み込みテクトニクス」と題してPilar Villamor氏(GEM全地球活断層データベース)、防災科学技術研究所のKen Xiansheng Hao氏(東アジア地域の地震災害評価図)(以上2件は前日に講演)、東北大学の松沢暢氏(東北沖地震前後の地震活動)、北海道大学地震火山研究観測センター所長の谷岡勇市郎氏(津波発生機構と迅速な津波予測、東北沖地震津波高の85%は断層運動、15%は地すべりによる)、テキサス大学のMark Cloos氏(沈み込み帯のタイプと東北沖地震)、京都大学防災研の西村卓也氏(東北沖地震を含む過去100年間の東北地方の地殻変動)、東京大学の池田安隆氏(中新世以後の東北日本のテクトニクスと東北沖地震)が講演した。
そして最後の第4セッションは「東北沖地震と津波」と題し、東北大学の後藤和久氏(津波堆積物の確認限界)、菅原大助氏(仙台平野の津波シミュレーション、津波堆積物の厚さは津波高の2%)、ニューサウスウェールズ大学のJames Goff氏(津波堆積物)、静岡大学の安藤雅孝氏(東北沖地震津波とその人的被害、浸水地域の平均死亡率5%、夜間だったら10万人死亡?)、オーストラリア国立大学のPhil Cummins氏(東北沖地震をジャワ、トンガに適用する)、米国Brigham Young大学のRonald Harris氏(インドネシア東部での大津波の可能性)、そして米国マイアミ大学のYildirim Dilek氏(Geopolitics: 自然災害が世界史を変えた…地中海での火山噴火による青銅器時代の終焉、アラビアの乾燥化によるイスラムの勃興と拡張、アイスランドの火山噴火によるフランス革命など)が講演した。最後に産総研地質調査総合センター元所長の加藤碵一氏が閉会のあいさつを行った。その後、1時間半をかけて、総合討論が持たれた。発表された研究のまとめと、強調すべき事柄の整理が各自から簡単に発表され、今後の研究の焦点や方向性などが議論された。会議後、Sendai Agreement が宣言されるとのことである。ポスター発表にも興味深いものが多数あったが、紙数の関係で割愛する。
図1.G-EVER会議のBobrowsky氏の講演で示された20世紀の「災害」による米国の死者数(John Pike氏作成。http://www.astrobio.net/debate/378/much-ado-about-nothing)。世界全体の災害や戦争による死者数の統計は、例えば次のウェブサイトを参照。 http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/4367.html http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/5228.html |
今回の講演で私が特に印象に残ったのは、カナダのBobrowsky氏が紹介した20世紀の米国の「災害」による死者数を示した円グラフである(図1)。データの根拠ははっきりしないが、伝染病、飢餓、戦争、気象災害、地震、火山噴火による死者数を比べると、戦争による死者が2/3を占め、残りの大部分は伝染病と飢餓による死者で、自然災害による死者は全部合わせても5%に満たないが、その中では気象災害による死者が多いとされている。しかし、20世紀の世界全体の統計を見ると、地震・地すべり・津波・火山噴火による死者は130万人以上に達し、気象災害による死者(約95万人)はこれより少ない。従って上の米国の統計は、地震が少なくハリケーン・竜巻などの気象災害が多いこの国の事情を反映していると考えられる。また、二度の世界大戦があった20世紀の戦争による世界の死者は約1億人に達するという統計があり、そうだとすると自然災害による死者は災害全体の2%弱になるはずである。これが図1で約5%になっているのは、米国が戦勝国で自国が戦場にならなかったため、戦争の死者が相対的に少なかったことが理由と思われる。また、この図には「犯罪(殺人、正当防衛も含む)」が入っていないが、これを加えるとグラフの様相が一変するようにも思う。戦争が災害なら犯罪も災害だろう。21世紀に入ってからの地震と津波による世界の死者は既に60万人を超えており、特に2004年スマトラ沖地震によるインド洋大津波と2010年ハイチ地震による死者がその2/3を占める。つまり、地震などの「プレート災害」による死者数は、21世紀が始まってからまだ13年しか経過していないのに、20世紀全体の死者数の半分近くに達している。20世紀と同様に21世紀も世界規模の大戦争が勃発し、一方で地球温暖化の影響により気象災害が著しく増加すると考えると、21世紀の世界の「災害」による死者数の割合は図1の円グラフに類似した比率になる可能性がある。人類全体の福祉のためには、戦争・飢餓・伝染病を防ぐことの方が重要であり、それには文系・理系の学問の総力を結集して当たらなくてはならないが、我々の分野の守備範囲としては、少しでも「プレート災害」による死者数を減らすことにつながる研究を展開していく必要がある。その意味で、今回の第2回G-EVER国際シンポジウム・第1回IUGS・日本学術会議国際ワークショップ(図2)は、東日本大震災の教訓を組み込んだ最新の研究成果が多数発表され、非常に有意義なものだったと思う。今回の会議で発表された研究は、IUGS発行の国際誌Episodesと、もう一つの国際誌に特集号として発表されるという。
拙稿を校閲して貴重な改善意見を寄せられた小川勇二郎先生と宝田晋治氏に感謝する。
図2.第2回G-EVER国際シンポジウム・第1回IUGS・日本学術会議国際ワークショップの参加者 |
(2013.11.5)