鳥が首岬の謎

高山 信紀 ((株)JPビジネスサービス)


1.鳥が首岬の謎
以前、米国ユタ州サンファン川(San Juan River)の「Gooseneck」や、愛媛県を流れる肱川中流の「鳥首」を訪れたことがあるが、いずれも地名は河川の蛇行を鳥の首に例えたことに由来する。

「Gooseneck」( © Google earthより)  「鳥首」( © Google earthより) 

 

「鳥が首岬」( © Google earthより) 


鳥が首岬は、新潟県上越市西方(糸魚川市寄り)に位置し、全国的にはそれほど有名では無いが国土地理院発行の20万分の1地形図や2万5千分の1地形図にはその名が記載されている。鳥が首岬の地名は何に由来するのだろう?国土地理院発行の2万5千分の1地形図では、鳥が首岬周辺に「Gooseneck」や「鳥首」のような河川の蛇行は見当たらなかった。また、岬を上空から見た地形も鳥の首とは関係なさそうだった。鳥が落ちたというような伝説でもあるのだろうかとインターネットで調べたが地名の由来は分からず、前から気になっていた。そこで、糸魚川・焼山温泉を巡る地質とサイクリングの旅に出かけたおり、Hさんの車で鳥が首岬を往復してもらった。しかし、それらしい地形は分からなかった。謎は深まった。

 

2.謎が解けた!
仕方がないので、旅から帰った後、上越市観光振興課に鳥が首岬の地名の由来を電話で聞いてみた。「分からないので調べてみます」ということだった。数日後、同課から携帯に電話が入っていた。翌朝こちらから観光振興課に電話したところ、「『鳥が首岬は名立川、桑取川の水源をなす粟立、三峰等の山々の尾根が北に延びて来て名立村大菅の東部で一旦標高200mに下り、更に頭を上げた様に高さを増し313m5となり下って段を作って海に入るその形が遠方より見ると鴨等の鳥の首を平らに置いたのに似ているからつけられた名称である』という文献がありました。」と教えて頂いた。また、上越市立高田図書館から、その文献は月橋正樹著『名立崩・親不知・上路の山姥』(1942年)であるとメールを頂いた。担当された方々の親切な対応に深く感謝した。

その週末に © Google earthを操作してみた。本当だ、鴨が首を伸ばしているように見える! 「Gooseneck」や「鳥首」は河川の蛇行を高所から俯瞰して鳥の首に例えたのに対し、「鳥が首岬」は地形を横から見て鳥が首を伸ばしているように見たてたのだ(岬は嘴の先端)。昔の人たちにとって、鴨は季節を知らせる身近で大切な鳥で、鳥と言えば鴨を意味したのかもしれない。 「首」が頭部を指す場合もあることから、岬南方の鴨の頭部にあたる標高約300mの台を「鳥が首」と呼んでいるか図書館に問い合わせたところ、上越市名立区総合事務所に連絡して頂き、同事務所より「地元ではその台を鳥が首とは呼んでいないようです。鳥が首という地名は岬しかありません。なお、地名ではありませんが、その岬にある灯台にも鳥が首という名称がついています。」と、またも親切な回答を頂き、再度深く感謝した。なお、国土地理院発行の2万5千分の1地形図では、その台は三角点が設置され無機的に「三角台」と記載されている。 どこから見れば鳥の首のように見えるのだろう? © Google earthで見ると、陸上からでは難しいように思う。漁師などが岬西方の海上から陸地を見て鴨の姿を想い、鳥が首岬と呼ぶようになったのではないだろうか。

鳥が首岬(左端)の西方海上より岬方向を見た画像( © Google earthより) 

右の画像のように首を伸ばした状態の鴨の写真をインターネットで探したが、大半は鴨が頭を上げて泳いでいる姿であった。昔の人たちは、鴨が首を伸ばしている姿(飛んでいる姿か、水に潜る直前の姿?)をよく見ていたのだろう。その観察力と想像力の豊かさを想う。

 

【文献】

月橋正樹(1942), 名立崩・親不知・上路の山姥, p4

竹内圭史・加藤碵一・柳沢幸夫・広島俊男(1994), 20万分の1地質図幅「高田」, 地質調査所

 

 

(2013.6.16)