堀江憲路(国立極地研究所)
富山県黒部市宇奈月地域の花崗岩中に「日本最古の鉱物」が含まれることをが,国立極地研究所・広島大学及び国立科学博物館を中心とする研究グループにより発表された.宇奈月地域は,飛騨帯の東縁部に位置し,含十字石結晶片岩に代表される中圧型変成作用を経験した地域として知られており,また日本列島と韓半島や中国大陸との関係を探る上で鍵となる地域である.
本地域の調査の一環として,宇奈月地域の変成岩に貫入する花崗岩から,〜0.2 mm程度の大きさのジルコン(化学式ZrSiO4)を多数取り出した.1つの花崗岩試料中には,角ばったジルコンとともに,丸みを帯びたジルコンが多数存在した.ジルコンは放射性元素であるウランを含んでおり,ウランが一定のペースで鉛に変化(壊変)していくことを利用することにより,ジルコンが形成した年代を決定することが可能である.そこで個々のジルコンについて,国立極地研究所と広島大学に設置されている高感度高分解能イオンマイクロプローブ(SHRIMP II)を用いてウラン−鉛年代測定を行った.SHRIMPは〜0.2 mm程度のジルコンに対して,0.01〜0.02 mm程度の領域の分析が可能である.角ばったジルコンは,花崗岩が形成する際に結晶化したものと考えられ,つまり2億5600万年前に花崗岩が形成したことを示している.一方,丸みを帯びたジルコンは外来性の粒子であり,全て34億5000万年よりも古く,最古のものは37億5000万年前という年代を示した.これまで報告されていた「日本最古の鉱物」は,岐阜県の天生峠から採取した飛騨片麻岩中のジルコンから得られた33〜34億年前のものであった.したがって,今回発見された37億5000万年前のジルコンは「日本最古の鉱物」となる.
ジルコンは物理化学的に安定な鉱物であり,つまり風化作用や変質作用の影響を受け難く,古い大陸の情報を保持することがあることが知られている.36億年以前の大陸の情報はジルコンから報告されており,カナダやグリーンランド,オーストラリア,東南極で発見されているが,東アジア地域では中国北東部からしか発見されていない.かつて中国大陸は北部と南部で別の小大陸であったが,約2億5000万年前に衝突し1つの大陸になったと考えられている.日本列島の大部分は,南中国大陸の縁でプレートが沈み込む際に巻き込まれた南中国大陸起源の物質から形成されたと考えられている.宇奈月花崗岩中に含まれる37億5000万年前のジルコンは,花崗岩を形成したマグマが,宇奈月地域の地下深部に存在していた北中国大陸由来の岩盤を貫くときに取り込まれたことを示唆する.このことは花崗岩形成時期の宇奈月地域の地理的位置を解明する手掛かりとなるであろう.
参考サイト:
国立科学博物館ホットニュース(2010.8.10):http://www.kahaku.go.jp/userguide/hotnews/theme.php?id=0001287564615961
(原稿受付 2011年2月5日)