◇各地の天然記念物◇
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今回は乾睦子(国士舘大学)が,福岡県の平尾台をルポします.
福岡県の天然記念物(地質鉱物)は下記のように7件ありますが,石灰岩台地としての(4)平尾台の他に,個別に指定されている(2)と(5)の鍾乳洞も平尾台の中にあります.(その他の4か所を取材する計画は立っていません.どなたかお願いします,の意味を込めて本稿は「その1」).
(1) 長垂の含紅雲母ペグマタイト岩脈(1934年指定)福岡市西区長垂
(2) 千仏鍾乳洞(1935年指定)北九州市小倉南区大字新道寺
(3) 鷹巣山(1941年指定)福岡県田川郡添田町・大分県下毛郡山国町
(4) 平尾台(1952年指定)北九州市小倉南区大字新道寺
(5) 青龍窟(1962年指定)京都郡苅田町
(6) 芥屋の大門(1966年指定)糸島郡志摩町
(7) 水縄断層(1997年指定)久留米市山川町
はじめに,このシリーズの主な目的であるところの「天然記念物の現状把握」という点について視察した結果です.ペルム紀の付加体中にある礁性石灰岩台地,平尾台は,日本有数の石灰岩台地のひとつです.白亜紀の火成作用を受けたため,ほぼ全体が大理石だそうです.この平尾台,私が短期間で見聞きした限り.地域における知名度は十分高く,道案内もきちんとされていましたし,子供の頃に遠足で行ったという声も聞かれるなど,地域での存在感を保っていました.観光洞になっている「千仏鍾乳洞」では,入り口付近や入場券に天然記念物である旨がきちんと記載されていました.
写真1.カルスト台地に散らばる羊達(石灰岩の). |
写真2.「千仏鍾乳洞」の入場券表.天然記念物との記載. |
写真3.同裏.入り口から1km程度に照明が設置されている. |
写真4.「千仏鍾乳洞」内.後半は川なので,足を取られないよう意外と真剣に歩かねばならなくなる. | 写真5.大理石の青い岩肌.建築石材として用いられたこともある. |
現在では「福岡県平尾台自然観察センター」(2000年オープン)や「北九州市平尾台自然の郷」(2003年オープン)などのビジター施設も備わっています.今回は「平尾台自然の郷」に行ってきましたが,カルスト地形の簡単な解説などがある他,もうひとつの天然記念物である「青龍窟」(通常は入れない)も予約すればケービングさせていただけるとのことでした.様々なイベントが開催(最近では日食も見えたよう)されている他,ウェブサイトも完備.観察対象の保存だけでなく積極的に情報発信も行われています.天然記念物が地域の貴重な自然資産として申し分なく活用されているように見えます.
写真6.平尾台自然の郷 入り口ゲート. | 写真7.平尾台の大理石が展示されている. | 写真8.ドリーネを見下ろす展望台も. |
以上が現状です.ところが,担当者にお話をうかがったところ,平尾台がかなり泥臭い歴史を背負っていることを教わりました.そもそも平尾台が天然記念物に指定された経緯からして,地域社会の大紛争の中で行われたことだというのです.
紛争というと,現在であれば「保護vs観光」といった図式がすぐに思い浮かびます(実際,今現在の平尾台の問題としてそれはあるようです)が,戦後すぐからの平尾台を巡る対立はもっと切実で複雑,農業vs鉱業(石灰石採掘)vs観光の三つ巴の土地争いだったようです.「天然記念物に指定する」ということも「観光(=カルスト台地の景観保護)」側であった小倉市が打った手の一つです.指定後に,さらに鉱区指定を巡ってかなり緊迫した応酬があったとのこと.
詳しい経緯はこちらにまとめられています(お話をうかがった「平尾台自然の郷」の久下さんのブログ.「平尾台の歴史」というカテゴリーでまとめて見ることができます).
最終的には,平尾台の半分が保護地域,半分が産業的採掘が可能な地域とされ,「観光」と「産業」が共存する形になりました.そして近年,逆に「産業」側が積極的に提案する形で緩衝地帯に「自然の郷」がつくられたそうです.今は,平尾台の自然をどうしたら活用できるかを「産業」と「観光」が協力して模索している段階と言っていいのかもしれません.
写真9.企画のひとつ,採掘後の洞窟で熟成した限定醸造の焼酎.オーナーになれます!
岩石は地下資源.岩石と人との関わりも,生活と無関係ではいられないことを考えさせてくれました.