手動式ポイントカウンターとエクセルの計数マクロの紹介 石渡 明(東北大学東北アジア研究センター)

岩石学、火山学、堆積学などの分野では、岩石薄片の顕微鏡観察により、鉱物(斑晶)、ガラス(石基)、気泡、砕屑粒子などの量比をポイントカウンティングにより計測する作業が普通に行われる.従来は英国Swift社製のポイントカウンターが世界各国で使われていたが、これは高価で(1式60万円程度)、自動的なステージ移動はX方向片道のみ、しかも数年前の同社の倒産により新製品の入手が困難になった.この状況に対応するため、日本では2005年に茨城大学の田切美智雄先生を中心に、パソコンと接続してX・Y方向のステージ移動を自動で行う装置が開発され、Swift社製品と同程度の価格で注文生産されている(有限会社アクティブコンピュータ(代表取締役 鈴木宏治氏)製、製品名:Micro Topper 偏光顕微鏡用X-Yステージコントロールシステムhttp://blog.livedoor.jp:80/active_computer/archives/50946615.html).


メイジテクノ社製のポイントカウンターつきメカニカルステージを偏光顕微鏡に取り付けた様子.手前の0.1と書かれた黒いつまみを付属の他のつまみと交換すれば、0.2, 0.5 mm刻み及び無段階(連続移動)に変更できる.岩石薄片の大きさは48 x 28 mm.

しかし、昔から顕微鏡取り付け用の手動式ポイントカウンターは存在しており、現在もメイジテクノ社から販売されている(製品番号MA954, 製品名 ポイントカウンター付メカニカルステージ.2008年の定価は121,000円)(第1図).この製品は手でつまみを回すと、クリックの感覚により、X・Y方向に0.1, 0.2, 0.5 mm刻みに一定間隔で(または無段階に)動かすことができ、48 x 28 mmの岩石薄片や生物用の細長い薄片を載せることができる.この製品はメイジテクノ社製の顕微鏡にはそのまま取り付け可能だが、他のメーカーの顕微鏡の場合はステージの下面に出ている2つの留めピンの位置が合わない.しかし、2つの留めピンをネジ回しで外せば、1つの留めネジだけで取り付けることも可能であり、実用上はこれで差し支えない.ただし、顕微鏡の機種によってはネジ径(4 mm)が合わないものもあるので、購入前にチェックが必要である.手動式の利点は反対方向のステップ移動も可能なことで、X方向に薄片の端まで数えたら、少しY方向にずらして逆向き(−X方向)に折り返して(または渦巻き式に)計数することができ、一方向にしかステップ移動ができない自動式に比べて計数時間を短縮できる.もちろん自動式の方が作業は楽だが、経済性と能率を重視し労力を惜しまないに人は手動式も有用である.

 

パソコンを用いた計数プログラムは、BASICなどのプログラム言語を知っている人なら簡単に組むことができるが、私はマイクロソフト社の表計算ソフト「Excel」を用いた12成分カウンターのマクロ(Visual BASICプログラム)を作成してみた.このマクロはWindowsでもMacでも問題なく動く.このマクロはキーボードのM, J, K, L, U, I, O, P, 7, 8, 9, 0の12個の計数キーのいずれかを押すと、それぞれのキーに対応するエクセルのセルの値が1ずつ増加するもので、全ての計数キーは右手だけで操作できるので左手は同時にステージ移動操作ができ、かなり早打ちしても正確に計数できる.常に総数も表示され、任意の時点でCキーを押せば%値が表示され(もう一度押せば%値は消える)、間違えた場合はXキーを押してからいずれかの計数キーを押せばその値が1だけ減少するようになっている.1成分を除外した%値(Vキー)や全数消去(Zキー)機能もついている.エクセルの表なので、計数結果はそのまま別のシートあるいは他のワープロソフトなどにコピーできる.

12成分ポイントカウンター用エクセル・マクロの画面表示(石渡作成).計数中なのでいくつかの「カウント」欄に数値が入っている.「成分」欄には任意の鉱物名を記入できる.Cキーを押すと「%」欄に%値が表示される.詳しくは本文と図中の説明を参照.

この12成分ポイントカウンター用マクロつきエクセルファイルは地質学会のホームページ(HP)からダウンロードできる(ダウンロードとオンラインマニュアルはこちら).これを開くと、通常のエクセル画面に計数表と注意書きが表示され(その前に「マクロを有効にする」をクリックしなければならないこともある)、CrtlキーとAキーを同時に押すと赤字で「計数中」と表示されて計数を開始できる(第2図).エクセル画面の色やセルの大きさ、文字のフォントなどは、セルの位置(セル番号)を変えない限り、自分の好みに合わせ改変して差し支えない.ただし、行や列の挿入・削除などを行ってセルの位置を変更するとプログラムに不具合が生じる.セキュリティーの関係などでマクロがうまく動かない場合は、エクセルのマクロのセキュリティーを最低レベルに設定し、HP上にあるテキスト形式で書かれたマクロプログラムをコピーして自分のエクセルのマクロに貼り付けるとよい.また、他人からもらったエクセルのファイルには、悪意を持ったプログラムがマクロに書き加えられている可能性もあるので、必ず地質学会のHPから自分で直接ダウンロードしたものを使っていただきたい.なお、昔のNECパソコンなどで使われていたN88BASIC用のプログラムも用意してあるので、必要な人は著者にご連絡いただきたい.(有)電脳組のBASIC/98ソフトを用いればWindows上でN88BASICを動かすことができる(現在はWindows Vista対応のVer. 5.1が販売中http://www.dennougumi.co.jp/).


Micro Topperについてご教示いただいた金沢大学フロンティアサイエンス機構の森下知晃准教授に感謝する.わかりやすいオンラインマニュアルを作成していただいた(独)海洋研究開発機構地球内部変動研究センターの坂口有人博士に感謝する.