もう一つの東京の石の博物館−清澄庭園と六義園に見られる庭石か ら地球科学を考える−2008.8.19UP


深田地質研究所 川村喜一郎

 

清澄庭園は, 都営大江戸線清澄白河駅から歩いて数分のところにあり,入園料,大人150円の石の博物館である.この庭園は,一説には,紀伊国屋文左衛門の屋敷跡と伝え られており,享保のころに,現在の庭園の基礎が形造られた.明治に入り,岩崎彌太郎が所有し,全国各地から名石を取り寄せ,現在,東京都の名勝として至っ ている.庭園に入ると,55個の全国各地の名石に出会える.それらの名石には,その産地と石の種類が書かれた立て札が立っており,石のいわれが簡単にわか る.庭園を一周するころには,北は泥岩の仙台石から,南は変成岩の伊予青石まで,観察することができる.

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写真1 生駒石(一覧表では花崗岩系となっている),清澄庭園. 写真2 秩父青石(一覧表では変成岩系となっている),清澄庭園.

 

 

 

 写真3 紀州青石(一覧表では変成岩系となっている),清澄庭園.  写真4 伊豆網代磯石(一覧表では安山岩系となっている),清澄庭園.  写真5 伊豆式根島石(一覧表では礫岩系となっている),清澄庭園.



さらに,サービスセンターに尋ねると,ガリ版刷りの清澄庭園の銘石一覧表を渡してくれた.この一覧表には,石の産地,由来,庭石としての程度,岩石の種類(花崗岩系,安山岩系,変成岩系,礫岩系,泥板岩系(おそらく粘板岩系のあやまり)が書かれている.庭園を回る前に入手しておくと,庭石を詳しく観察できる.東京のど真ん中の公園にも,このようなすばらしい石の野外展示がなされていることは驚きである.
 

同様に,東京都の名勝である駒込の六義園にも庭石がある.六義園の六義は,和歌の六体である,そえ歌,かぞえ歌,なぞらえ歌,たとえ歌,ただごと歌,いわい歌に由来する.庭石には和歌が詠まれており,庭石一つ一つに歴史が感じられる.都営三田線千石駅もしくはJR山手線駒込駅から歩いて数分のところにあり,入園料は300円である.私の勤務している研究所のすぐ近くにあり,春先にはしだれ桜でにぎわう.

 
写真6 伊予青石(一覧表では変成岩系となっている),清澄庭園.


 
写真7 武州三波青石(一覧表では変成岩系となっている),清澄庭園.


 
写真8 カモメ橋のたもとにある石.この石は江戸時代の書物の六義園記に記される桜波石と同じ場所にある.しかし,残念ながら,これが桜波石であるかは不明.
 

こちらの庭石には,清澄庭園のような解説が園内にはないが,サービスセンターで石の由来について親切に教えてくれる.さらに,東京都公園協会監修の東京公園文庫19六義園という本(森守著,1982,郷学舎)に,六義園記という江戸時代の書物に記されている石の由緒について詳しく書かれている.その中に,今現存するか不明であるが,カモメ橋のたもとに,桜波石(おうはせき)があるとされる(確かに,その位置にはそれらしい石がある).この石には「余りあれは桜とそおもふ春風の吹き上げはまにたてるしらなみ」と句が詠まれている.しだれ桜の咲く頃に,この石を見る事ができれば,六義園で「岩石」を通して春を感じることができるだろう.
 

いずれにせよ,どちらの庭園も日曜日の散歩コースとして,ふさわしい石の博物館であると思う.このような庭園が好きな方々(私が見受ける限り,家族連れやご年配の方々が多い)にとって,日常気軽に触れる事ができる,もしくは,休日という生活の一部に浸透している地球科学だろう.このような歴史や文学と融合した「石の博物館」は,私たちの手の届くところにある地球科学の一端であると思う.
 

(*同記事はニュース誌2008年6月号p.11 TOPICに掲載)