IODPジオハザードワークショップとセントヘレンズ山巡検

 

IODPジオハザードワークショップとセントヘレンズ山巡検
IODP Geohazard Workshop and Field excursion to Mt. St. Helens IODP Geohazard Workshop and Field excursion to Mt. St. Helens

写真:川村喜一郎(深田地質研究所),山田泰広・宮川歩夢(京都大学))


写真1:セントヘレンズ山(Johnston Ridge観測所から)


写真2 :爆風によってなぎ倒された森林


写真3:爆風でなぎ倒された森林(拡大)


写真4

解説:

8月26日から31日までの6日間,米国オレゴン州ポートランドの宿泊施設McMenamins Edgefieldにて,IODPジオハザードワークショップが開催された.このワークショップには60名を超える参加があり,海洋における今後のジオハザード,特に海底地すべりに関する様々な課題が議論された.海底地すべりは,沈み込み帯で発生するもの,非活動的縁辺部で発生するもの,その他(主として火山体崩壊によるもの)の3つに分類される.まずハワイ島周辺海域やエトナ火山を例とした火山体崩壊に伴う海底地すべりの可能性について議論された.日本にも多くの山体崩壊の事例やそれに伴う津波の発生の事例がある.特に,寛政4年の雲仙普賢岳周辺の眉山の崩壊とそれに伴う津波の発生は,島原大変として絵図に記録されており,今後のこのような研究において重要な物証であると考えられる.次に非活動的縁辺部の例として,大西洋沿岸での大規模海底地すべりの発生要因(主として海水準低下に伴うメタンハイドレートの崩壊)やその発生頻度,発生間隔などが議論された.海底地すべりが小規模であったとしても,その運動速度や発生水深によって津波が増幅される可能性があることが議論された.日本周辺などの沈み込み帯でも,海山衝突に伴う付加体の巨大崩壊が考えられているが,話題の中心ではなかった.しかし,海底活断層の活動頻度などを議論する上で,最近,沈み込み帯での小規模海底地すべりが注目されており,招待講演者の一人である山田のモデリング結果を例にして活発な議論がなされた.参加を通じて,日本から発信できる海底地すべりの情報は多い,と感じた. 28日には会場近くのセントヘレンズ山を巡検し,噴火に伴う山体崩壊地形と崩壊堆積物を観察した.セントヘレンズ山は,1980年に大規模な山体崩壊を引き起こしたことで世界的に有名である.まず同年3月中旬頃,地震が観測されはじめ,3月27日に最初の噴火が山頂部で発生した.その後,5月18日午前8時32分にM5.1の地震が発生し,山体北側が3回に分けて大規模に崩壊した.山体を構成していた岩石は岩なだれ(debris avalanche)となって流下し,爆風によって周囲の森林がなぎ倒されたとの説明があった.

 

片や陸上,片や海底.しかし両者は地すべりであり,空気と海水で媒質は異なるが,共通するところも多い.我々は陸海を越えてお互いに学ぶ必要があり,それこそが未知の,そして謎の多い海底地すべりへの最善のアプローチであると信じている.

参考文献
須藤茂,2007,セントヘレンズとフッドーポートランド近辺の火山.地質ニュース,636,10-34.