三浦・房総半島の付加体巡検に参加して   2008.2.19UP


静岡大学大学院理学研究科修士課程1年
地球科学専攻  原 勝宏

 2月13日から15日にかけて,Kanto Asperity Projectワークショップ参加のため来日したJ. Casey Moore教授(カリフォルニア州立大学サンタクルズ校)をむかえ,ワークショップに先立ち三浦・房総半島の付加体巡検が行われました.案内者は山本由弦さん(産総研),参加者はJ. Casey Moore教授ほか,山口はるかさん(JAMSTEC),平内健一さん(筑波大学),山口飛鳥さん(東京大学),北條愛さん(東京大学),辻智大さん(愛媛大学),原(静岡大学)の7名.

 三浦・房総半島南部は伊豆孤の衝突に伴う急激な上昇により,陸上に見られる付加体としては最も若く(6Ma〜4Ma),埋没深度の浅い(1〜2km)部分を見ることのできる世界的に見ても珍しい地域です.三浦・房総半島の付加体は剥ぎ取り付加型で,付加時のデタッチメントスラストの周囲にはスラストユニットと呼ばれる変形帯,その上位は整然層と乱堆積層からなる,という構造が特徴的なスラストシートの積み重なりを見ることができます.今回の巡検は埋没深度の浅い部分から深い部分へ堆積物の変形や物性がどのように変化していくのかを見ることを主なねらいとして,1日目から2日目にかけてはまず,三浦・房総それぞれで見られる埋没深度1kmのスラストユニットを観察し,3日目に房総半島の埋没深度2kmのスラストユニットを観察する,というコースでした.

 見学地点ごとに,露頭での産状に加え,定方位サンプルの研磨面,顕微鏡写真の観察,堆積物中の間隙率の変化,磁性鉱物の配列の特徴など様々なデータに基づいた解説がなされ,熱い議論が巻き起こりました.私が特に強い印象を受けたのは,埋没深度によるスラストユニット中の変形の違いです.深度1kmのスラスト沿いでは剪断による非対称な組織が見られますが,それに伴う粘土鉱物の配列が不明瞭です.それに対し,深度2kmのスラスト沿いでは異常なほどの粘土鉱物の定向配列が見られます.そして,スラストに沿って今まさにでき始めた,いわゆる「生メランジュ」を見ることができます.私の研究地域は美濃帯のジュラ紀付加体であり,厚さ1kmを超えるメランジュが主体です.これほど厚い混在岩相がどのような過程で形成されるのかいつも不思議に思っています.ここで見られる「生メランジュ」の幅は非常に薄いものですが,変形組織は美濃帯,また白亜紀付加体である四万十帯などに見られるメランジュそのものです.これほど浅い埋没深度,薄い幅でメランジュができ始めているということは私の研究を進めていく上でも非常に興味深く,房総半島の付加体はまだまだ謎の多いメランジュの形成過程の解明に向けて大きな期待が持てる場所なのだと感じました.

 また,今回の巡検で,案内者の山本さんの研究に強い衝撃をうけた思いです.広域かつ詳細なマッピング,丁寧なサンプル採取と処理,様々な分析データ,それらから組み立てられる緻密かつダイナミックな考察.そして参加された皆さんと白熱した議論をする姿勢.驚かされるばかりでした.それと同時に自分の未熟さを痛感しました.しかし,だからこそ私はこの巡検に参加できて本当によかったと感じます.今後の研究に向けて,大きな刺激になりそうです.

 今回の巡検は最高の天気に恵まれ,様々な角度から望む富士山にも感動の連続でした.三浦半島で見た海の向こうの富士山を背景とした見事なデュープレックス構造はまさに日本を代表する露頭風景だったのではないでしょうか.そして2日目の夜は,山本さんおすすめの居酒屋での楽しい宴会となりました.実はこのお店に来るのが楽しみで巡検に参加された方もいらっしゃったようですが・・・,なるほど,本当に美味しい料理の数々,私も含めて皆さん感動の連続でした.本当にまた来たいと思ってしまいます.研究に訪れる地域でその土地の味を楽しむことも研究の醍醐味.山本さんのそんな姿勢にも感銘を受けました.

 あっという間の3日間でしたが,私の人生において実り多い旅になったと感じています.この道に進んだことに誇りを持ち,もっともっと地球科学を楽しみたいと思います.最後に,今回案内して頂いた山本さん,そして参加された皆さん,本当にお世話になりました.心から感謝申し上げます.

写真:巡検参加者(左から辻智大,山口飛鳥,原勝宏,J. Casey Moore,山口はるか,山本由弦,平内健一)