私はこのたび、地球深部探査船「ちきゅ う」による南海トラフの研究航海・IODP Expedition 316 (NanTroSEIZE Stage1) に乗船研究者として参加する機会に恵まれました。日程も残り少なくなり、コアの記載や下船後の研究に関するミーティングなどで慌しい日々が続いている船上 の様子を少しご紹介します。

・船上生活について

  船上の夜明け

 「ちきゅう」はほんとうに大きな船です。居住区画は9階建て、研究区画も4階建てで、居住区画の中にはシネマルームや茶室、ジャグジーまであります。
居 室は1人部屋で非常に快適!トイレとシャワーがついていて、毎日ベッドメイキングや洗濯をやってくれます。そして、食事も大変美味。補給船が来るので生の野菜やくだものも食べられるし、日替わりでスイーツもあります。クリスマスやお正月には、七面鳥の丸焼き、塊のローストビーフ、カニ、ロブスターなどの特別メニューが食卓に並びました。
お酒が飲めないことと、1ヶ月を過ぎると少々飽きてくることとを除けば、非常に快適な生活を送ることができます。

・作業の流れ

structural geology groupのメンバー。左からChun-Feng Li, Frederick M. Chester, 氏家恒太郎, Olivier Fabbri, 山口飛鳥

 船上では、採取したコアの記載・分析を乗船研究者全員で手分けして行います。作業は12時間交代で休みなく行われ、私は0:00-12:00の夜シフトに配属されています。
全体の作業の流れとしては、船上に上がってきたコアをまずCTスキャナにかけて内部の構造を観察し、それから地球化学者や微生物学者が間隙水や微生物用の whole roundサンプルを抜き取ります。そのあとコアを半裁し、Archive halfは岩相の記載ののち永久保存、Working halfは変形構造の記載・物性の測定後にサンプリングが行われます。サンプリングは半裁したコア(Working half)の横に各自の採取箇所を示す旗を立ててから行われます。重要な箇所には数cmおきにたくさんの旗が立ってなかなか壮観です。
私はstructural geologistとして乗船しているので、コアの構造の記載と方位測定(あとで古地磁気のデータを使って真の方位を復元することができます)が主な仕事 です。非変形の地層は記載事項が少なく作業も比較的楽なのですが、断層帯は記載することが多くて残業が続くこともしばしばです。そのぶん、やり甲斐がある のはもちろんですが。

・IODPについて

 直径7cm弱のコアは陸上の全面露頭と比べるといかにも貧弱です。しかし「現世の連続サンプリング」というその威力は強大です。科学が前に進むまさにその瞬間に自分が立ち会っていることを実感します。新しいデータやサンプルを前に、鳥肌が立つことすらあります。
多様なバックグラウンドをもつ10カ国・26人の研究者が、それぞれのデータを持ち寄って考え、公の場で全て議論する。この船の中では、科学の意思決定プロ セスが早送りで進められているように感じます。昼夜のシフトチェンジの時間に開かれるミーティングでは、議論に熱中するあまり食事の時間を逃してしまうこ ともしばしばですが、全く苦になりません。

 このメールマガジンが配信される日には「ちきゅう」は新宮に入港します。今回、乗船の機会を与えていただいたことに感謝するとともに、船上・陸上を問わず、たくさんの方々のご支援のもとに私たちの研究が成り立っていることに改めて感謝申し上げる次第です。
多くの方々、特に若い学生・院生の皆さんにとって、IODPの乗船研究は必ず有意義なものになると信じています。この貴重な経験を共有される方が今後ますます増えることを祈りつつ、筆を置きたいと思います。

2008年2月 熊野沖洋上にて

<写真タイトルバック:デリック(掘削やぐら)の頂上から眺めたヘリデッキ。船内ツアーにて>