◇各地の天然記念物◇
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和歌山県にある以下の国指定天然記念物のう ち、(1)〜(6)と(8)について、石井和彦(大阪府立大学)が報告します。多くは(6、8以外) 初めていく場所ではないので(というより、単に報告者の性格の違いのた め)、前2回の記事とはかなり趣が異なると思います。
(1)橋杭岩(1924年指定)東牟婁郡串本町
(2)高池の虫喰岩(1935年指定)東牟婁郡古座川町
(3)古座川の一枚岩(1941年指定)東牟婁郡古座川町
(4)白浜の化石漣痕(1931年指定)西牟婁郡白浜町
(5)白浜の泥岩岩脈(1931年指定)西牟婁郡白浜町
(6)鳥巣半島の泥岩岩脈(1936年指定)田辺市
(7)神島(1935年指定)田辺市
(8)栗栖川亀甲石包含層(1937年指定)田辺市
(9)門前の大岩(1935年指定)日高郡由良町
(10)瀞八丁(1928年指定)和歌山県新宮市・三重県熊野市・奈良県吉野郡十津川村
これらはすべて、中期中新世に貫入した酸性火成岩脈です。(1)はNNW方向に貫入した石英斑岩で、(2)と(3)は東西方向に貫入した凝灰岩と花崗斑岩からなる古座川弧状岩脈の一部で、指定された部分はどちらも凝灰岩岩脈のようです。
20万分の1日本シームレス地質図データベース 2005年2月1日版、産業技術総合研究所地質調査総合センター (編) を利用(承認番号 第63500-A-20080115-002号)。
(1)橋杭岩
橋杭岩は、天然記念物だけでなく名勝にも指定されている有名な観光地で、ほとんどの地図に載っており、かつ幹線道路(国道42号)に面していることから、迷うことはありません。また、案内板による簡単な解説もあります。
手前は熊野層群の泥岩 |
写真をクリックすると拡大されます。(以下同様)
(2)高池の虫喰岩
虫 喰岩の載っている地図は少なく、道路沿いの案内表示も私が見つけたのは、町内の何ヶ所かにある観光案内板(写真)を除くと、古座川町役場から虫喰岩に向か う道路沿い(県道227田原古座線)のガードレール(写真)の一ヶ所だけでした。現地に天然記念物という表示はありますが、とくに説明はありません。
観光案内板の一例。 赤線枠は右図の範囲 |
(3)古座川の一枚岩
一 枚岩は、たいていの地図に載っており、道路案内表示も分かりやすく容易に辿り着けます。国道42号の高富から国道371号を北上(写真)、あるいは上記の 古座川町役場から古座川沿いに行くこともできます。道路沿いに一枚岩観光物産センターがあり、河原ではキャンプなどもできるようです。しかし、天然記念物 であることを示す表示は見つけられませんでした。
観 光パンフレットをみると、串本町は、「本州最南端」潮岬や「ラムサール条約」にも登録されたサンゴ群集をはじめとする沿岸生態系、古座川町は、「清流」古 座川のカヌーや奇岩奇石(一枚岩・虫喰岩以外にもたくさんあります)にまつわる伝説などをウリにしているようです。橋杭岩・一枚岩・虫喰岩を個別に扱うだ けでは物語性がなく、民話・伝説にかないません。地質に関する簡単な解説、とくに紀伊半島全域の火成岩類の分布を含めた全体の文脈(昔、このあたりに大き なカルデラがあって大規模な噴火をしたことなど)を含む解説が観光パンフレットや現地の案内板などにあると、少しは身近に感じてもらえるのではないでしょ うか。
観光案内板や観光地図には、これらに関する記載はありません。また、道路案内表示もないので、前もって位置を調べて行くか、偶然立ち寄ることになるかと思います。
(4)白浜の化石漣痕
白浜温泉の中心部に近く、マリンスポーツなど観光客の多い場所です。ただ、下記のように案内板と露頭の位置が離れているので一般の人には見つけられないかもしれません。
これらの案内板は江津良浜の西端にあり、露頭(右図)は、浜の東端(約200m東)にある | 天然記念物を示す石碑と露頭。背景は江津良浜。 | 左図の右下の部分の拡大 |
(5)白浜の泥岩岩脈
白浜温泉の中心部、白砂で有名な白良浜の北、権現崎北岸にあり、白良浜から続く遊歩道もあるので、立ち寄る人は多いと思います。
案内板の露頭は干潮時にしか観察できない。 | 遊歩道沿いの露頭。 |
(6)鳥巣半島の泥岩岩脈
田辺市と白浜町の境界に近い位置ですが、半島の先にあるので、立ち寄る人は少ないのではないかと思います。岩脈は、この付近一帯にあるようですが、観察には潮が大きく引く春から夏が良いようです。
ここから約100m右図 | 天然記念物を示す石碑。背景は国指定天然記念物の神島。 | 上から見下ろしている。 |
南 紀白浜は、温泉を中心とする近畿地方有数の観光地で、温泉以外にも多くの観光スポットがあり、天然記念物を地図やパンフレットに載せる余裕はないようで す。白浜周辺では、上記以外にも多くの場所で泥岩岩脈やさまざまな堆積構造を観察することができます。とくに円月島の対岸と千畳敷は多くの観光客が立ち寄 る場所で、いろいろな堆積構造が観察できるので、お薦めです。何の説明もありませんが、地層の中のいろいろな幾何学模様が楽しめます。
国 道311号を白浜方面から10数km行ったところの山腹にあり、インターネット(マピオン)から印刷した地図をもって探しましたが、何の手がかりもありま せん。幸運にも、戦後すぐの子供の頃、調査に来た京大教授といっしょに現地に行った経験があるという方に現地まで案内してもらいました。以前は案内表示が あったそうですが、今は何もないそうです。また、亀甲石が見つかることは、今ではほとんどないそうです。なお、インターネットで検索してみると、亀甲石は もともと海藻の化石と考えられてコダイアミモと名付けられたが、現在では原生動物の一種と考えられているようです。
案内してもらった場所の露頭(成層した砂岩) |
このあたり(旧中辺路町、2005年田辺市に合併)は、観光と言えば、世界遺産に登録された「熊野古道」一色のようです。
後日、インターネットで検索していたら、和歌山県立自然博物館のホームページに「和歌山の珍石」というコーナーがあり、そこで亀甲石と梅干し石(天然記念物「門前の大岩」に含まれるウニのトゲの化石)を紹介していました。