地質学の大きな魅力は、「地球が経てきた歴史を理解する」ことを地球表層に岩石や堆積物として残された証拠から紐解くことができることにあります。特に過去の地球に起こった真実があきらかになることは、我々をまるでタイムマシーンに乗って過去の地球に連れて行ってくれることに他ありません。近年の年代測定技術の進歩で、非常に精度の高い時代解像度で研究が行われるようになり、地球におけるイベント的な変化が詳細に明らかになってきています。
本セッションでは、このような地球上に起こっていた変化の記録の解明についての最先端の研究を集結し、ここの時代の変化を詳細に明らかにするとともに、別の時代における変化との共通点や違いなどを学ぶことを目標におこなっております。
ここで地球の歴史のおさらいをしましょう。
地球の歴史(45才の働き盛りのおじさんにたとえると。)
冥王代(45.6億年—40億年):地球上に記録がない時代:人間も生まれたときから5才ぐらいまではほとんど記憶がないですね。そのころの地球の歴史は月にのこされたクレーターや岩石の痕跡から類推しています。ちなみに最古の鉱物は 西オーストラリア・ジャックヒルというところにおいて、変成した砕屑岩(砂岩)中に含まれるジルコン(ZrSiO2) という鉱物から44億400万年前 (たとえば、Wilde et al., 2001, Cavosie et al, 2006)が報告されています.
太古代の露頭 Barberton greenstone belt South Africa. 枕状溶岩上に珪質堆積物がたまっている。約35億年前の枕状溶岩 |
太古代(40億年—25億年前)(小学生から二十歳ぐらいまで)
この時代は地球がとても多感な頃です。小学生から二十歳ぐらいになるでしょうか。体力がついて、骨格もしっかりしてきます。記録も鮮明になってきます。
地球も同様で、このときにほかの太陽系惑星にない大陸地殻が形成されるのです。この時代は我々が住むことができる大陸を作っていった時代と行っても過言ではないでしょう。また、生物の発生もこの時代に始まります。どんな環境で・いかなる生物が住んでいたのかまだまだ謎の多い時代です。
雪玉(全球凍結)仮説のナミビアのダイアミクタイト露頭 |
原生代(25億年—5億4500万年前)(二十歳から四十歳)
人間的にはこの時代社会に入って、人間世界を思い知る時代でしょうか。人間社会のなかでも就職・結婚・倒産・破局・家を造る・出産・など様々なことが起こる時代です。
地球上でも超大陸の形成・分裂・地球環境の暴走と収束(スノーボールアース事件)・巨大生物の時代への移行期と実はいろいろなことが起こっております。それぞれのところで、いろいろな出来事が起こっているようですが、その全貌はまだまだ謎です。
顕生代(5億4500万年前—現在) (おじさんの時代)
地球の歴史を考える上で、二十年前まではこの時代までが地球の歴史で、それ以前を先カンブリア時代と呼んでいました。顕生代は古生代・中生代・新生代と分かれており、三つの時代の境界はPT, KT境界と呼ばれ生物の大量絶滅がおこっています。また、古生代の後半は世界的な寒冷化におそわれており、白亜紀は世界中が急激な温暖化を起こしています。特に、ジュラ紀後期以降(約18000万年)より新しい時代では海洋底にも地質証拠が残っており、格段に精度の良い歴史復元が可能になっています。
KT境界層(中生代/新生代境界、いわゆる恐竜大絶滅)。ユカタン半島 Belize (Kiyokawa et al., 2006 地質学会口絵より)のイジェクター堆積物。 |
清川昌一(九州大学)
本トピックセッションは現在まで3年間おこなっており、以下のようなテーマの発表がおこなわれています。
1) 太古代の地球:大陸の成長・初期生物・環境:
2) 酸化的地球への移行問題(太古代—原生代境界)
3) スノーボールアース時代と原生代後期—カンブリア時代への移行(原生代—顕世代境界)
4) PT境界(古生代—中生代境界問題)
5) OAE問題(海洋無酸素状態事件)
6) KT境界(白亜紀—第三紀境界問題)
文献
G. Brent Dalrymple's, The Age of the Earth, published by the Stanford University Press (Stanford, Calif.) in 1991 (492 p.)
A.J. Cavosie, J.W. Valley, S.A. Wilde, 2006. Correlated microanalysis of zircon: Trace elemnet, d18O, and U^Th-Pb sotopic constraints on the igneous origin of complex >3900Ma detrital grain. Geochimica Cosmo. Acta 70 5601-5616.
K. Condie and R. Sloan, Origin and Evolution of Earth, Principles of Historical Geology, published by the Prentice-Hall, Inc. in 1997 (498p.)
S.A. Wilde, Valley, J.W., Peck W.H., Graham, C.M., 2001. Evidence form detrital zircons for the existence of continental crust and oceans on the Earth 4.4 Gyr ago. Nature 409, 175-178.
トピックセッション「地球史とイベント大事件3:地球の変化に迫る」は2007年9月に第114年学術大会(札幌大会)において以下の講演が行われました。