◇各地の天然記念物◇
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日本全国天然記念物めぐり(滋賀県編)

 

滋賀には国指定の天然記念物が4つある.

(1)石山寺硅灰石(1922年指定),大津市石山寺辺町石山寺

(2)綿向山麓の接触変質地帯(1942年指定),蒲生郡日野町音羽綿向山麓

(3)鎌掛の屏風岩(1943年指定),蒲生郡日野町鍵掛滝谷川左岸

(4)別所高師小僧(1944年指定),蒲生郡日野町別所字真窪
 

このうち,石山寺境内にある硅灰石は保存状態およびアクセスに関して検証する必要はないと考え,他の3つを目指して,現地に向かった.一般市民の目線で天然記念物を探し見学するという主旨であるため,道路マップおよび現地観光協会の観光マップに出きるだけ頼るようにした.また,ネットでの下調べは行なっていない.ただし,虎の巻として石原(1992, 地質ニュース, 454, p.6-14「近畿地方の天然記念物」)は携帯した(取材日:9月16日(日)).
石山寺硅灰石以外の天然記念物は,全て蒲生郡日野町にあり,町の観光マップ(図1)にも綿向山麓の接触変質地帯と鎌掛の屏風岩は載っている.別所高師小僧は載っていないが,これには理由がある(後述).


図1)日野町観光マップ(日野のまち,日野観光協会)の抜粋.綿向山麓の接触変質地帯と鎌掛の屏風岩の位置を赤丸で示した.
 

名神高速を八日市I.C.で降り,国道307号線を南下,先ずは鎌掛の屏風岩を目指す.筆者愛用の「昭文社マップルリング関西道路地図」には「屏風岩」として載っている.県道182号の道端に見過ごしそうなほど小さな標識が出ている(図2).



図2)屏風岩の存在を示す標識
 

この看板に従い進むが10mほどで舗装道路(農道)が終わり,山道となる.車から降り山道を進むと道が二手に分かれているが,当然のように屏風岩の在りかを示すものはない.虎の巻の石原(1992)に,滝谷川左岸と記載されているので,谷沿いの山道を進むと屏風岩を発見(図3).車から降りて5分とかからない距離であり,ルートも分かってしまえば簡単であるが,一般市民はおそらく,舗装道路の終わるところで引き返してしまうだろう.屏風岩は秩父帯のチャートの露頭であり,層理面と直交する節理が交互にみられるため屏風状を呈するもの(石原, 1992)とされているが,屏風には見えなかった(図3).なお,チャートは秩父帯ではなく美濃・丹波帯のものである.見学ポイントには,滋賀県教育委員会と日野観光協会(?)の説明碑がある(図4).

   
   

図3)屏風岩全景



 

図4)滋賀県教育委員会の説明碑(上)と日野観光協会(?)の説明碑(下)
 

次に,綿向山麓の接触変質地帯に向かう.「昭文社マップルリング関西道路地図」には記載されていないので,日野町観光マップ(図1)を頼りに綿向山の登山口を取りあえず目指す.綿向山登山道の入り口には,登山道のガイドマップがあり,登山道が良く整備されている様子が伺える(図5).このガイドマップに接触変質帯の所在が記されていた.このガイドマップ以外に,天然記念物の在りかを示すものは認められなかった.このガイドマップに従い,駐車場から登山道を歩いて10分くらいで,接触変質帯の露頭に到着した(図6).



図5)綿向山ガイドマップ.接触変質帯の位置を赤丸で示した.



図6)接触変質帯全景
 

綿向山の接触変質帯は,秩父帯の石灰岩に花崗岩が貫入し,それによりスカルン鉱物(珪灰石,透輝石,ベスブ石,ザクロ石)が形成され,両者の接触部も観察されるようである(石原, 1992).筆者は,一般市民として天然記念物を観察するという立場であるので,ハンマーや鎌等は持参しなかったが,9月中旬頃の露頭は草木が繁茂し,気軽に露頭に近づいて観察することは出来なかった.日野観光協会・西大路公民館および滋賀県教育委員会の説明碑がそれぞれあるが,両者の内容は微妙に異なる(図7).ここでも秩父帯となっているが,現在の知見では美濃・丹波帯とすべきであろう.

       

 

図7)日野観光協会・西大路公民館の説明碑(上)と滋賀県教育委員会の説明碑(下)
 

最後に,別所高師小僧に向かう.これは「昭文社マップルリング関西道路地図」にも日野町観光マップにも載っていないため,取りあえず別所の集落を目指す.そこで,真窪という字を探すが見当たらず住民に尋ねると,親切にも直接案内して頂けた.高師小僧は古琵琶湖層群中にあると予想していたので,丘陵地に連れていかれると思ったが,そこは田んぼの真ん中であった(図8).そこに至るまでは,当然のように案内板など存在しなかった.ちょうど稲の収穫後だったので,分かってしまえば遠方からでも確認できるが,刈り取り前だったら全く分からないであろう.


図8)別所高師小僧の所在地(国道307号線より撮影.写真中央に高師小僧の記念碑があるはず)
 

現地では,高師小僧は存在せず,石碑だけがあった(図9).高師小僧自体は現在,南比都佐公民館に保存されているようである.おそらくこのため,別所高師小僧は観光マップにも載っていないのであろう.事実,天然記念物ツアー(後述)には,別所ではなく南比都佐公民館がそのルートに含まれている.



図9)別所高師小僧記念碑
 

後日,ネット(滋賀報知新聞オンライン)で検索した結果,日野町と日野町グリーン・ツーリズム推進協議会は,日野町内5つの天然記念物を巡る「秋の自然を満喫!日野の天然記念物めぐりツアー」(2006年11月)や「親子で巡ろう!日野の天然記念物ツアー」(2007年8月)などを開催していることが分かった.このツアーには,ここで紹介した3つの地質鉱物の天然記念物も含まれている(他の2つは植物).今年は8月に開催したようであるが,参加者の意見が聞きたいところである.
 

最後に,今回滋賀県の記念物めぐりをした感想は,「オリエンテーリング的には楽しい」(筆者は,大学の時オリエンテーリング部だった)であって,地質鉱物学的に楽しいかどうかは判断できなかったし,少なくとも感動はしなかった(別所高師小僧はある意味感動したが..).良い悪いは別として,これが天然記念物の現状である.今後も,随時,天然記念物の現状把握(と物見遊山)のために,少なくとも近畿の天然記念物はめぐる予定である.近畿以外の天然記念物めぐりを記事として書いて頂ける方は,奥平までご連絡いただければ幸いである.