グランドキャニオンの巨大クロスベッド

 

写真提供:渡部芳夫(産業技術総合研究所)

解説:

  この斜交層理砂岩は,サハラ砂漠などの砂漠の砂丘構造に似ており,陸上の堆積物だと現在は考えられているようです.砂丘の砂が岩石になるには,砂粒を固めるセメント材が必要ですが,この砂岩にはココニノ石(Coconinoite)と呼ばれる鉱物が知られているように,鉄やアルミとウランが燐やケイ素と一緒に酸化して固結している事が知られています.

  過去には水の流れによるものとの強い意見もありましたが,それはノアの箱船の洪水と関係があります.実際,グランド・キャニオン(Grand Canyon)国立公園のビジターセンターでは,グランド・キャニオンはノアの箱船の大洪水によって創られたと説明している「Grand Canyon: A Different View」という本が置かれています.

  『旧約聖書』の『創世記』では,洪水は40日40夜続き,地上に生きていたものを滅ぼしつくした,そして水は150日の間,地上で勢いを失わなかったとされています.

  現在のグランドキャニオンの谷地形は,コロラド高原がコロラド川の侵食作用によって削り出されたもので,一般には4,000万年程かけて現在の1,800mに及ぶ浸食に至ったものです.従って,現在のグランドキャニオンの谷そのものが,旧約聖書にある大洪水で造られたとはピンと来ません.地形に残る浸食は,洪水が流れとして働くときにのみ生じると思われるからです.しかしながら,谷地形にそって大洪水が進んできたとすれば,何らかの記録が洪水堆積物として残されていても良さそうです.

  その時の洪水が押し寄せる流れで堆積した砂が,このココニノ砂岩だという見解では,広さ32万平方キロに100mの厚さで溜まった砂が,海からの大洪水の流れによって数日間でもたらされたと主張されています.堆積学的な条件から,斜交層理ができるためには,海流の速度は毎秒1.65m程度未満の必要がありますから,流速はかなり小さい見込みで,これもピンと来ません.

  これに対して,多くの地質学的論文が反論を提出してきました.たとえば,水流での斜交層理の角度は10度以上に傾くことは稀ですが,ココニノの斜交層理は25度にも達する事,リップルマークや砂丘構造の配列から,砂の移動は北からであって,当時西にあった海岸からではないこと,そして層理面に陸上動物の足跡等が残されている事などです.これらによって,陸上の砂丘堆積物との理解が広がっています.

  これらの論戦は,双方が科学的根拠だけでなく,宗教的な確信等も含めて交わされてきているもので,それを思いながらグランドキャニオンの渓谷を眺めると,地質自体のスケールの大きさに気づきます.