地質フォト:台湾北投温泉の地熱谷

 

写真・文 貴治康夫(大阪府立箕面東高等学校)

 

解説:
台北の中心から鉄道で北へ約40分の郊外に北投(Beitou)温泉がある.周辺は国家公園に指定され,大屯(Datun)山をはじめ,標高1000mを超える10以上の火山からなる大屯火山群(Datun volcano group)が分布する.地質は角閃石安山岩や輝石安山岩を主体とし,鮮新世後期から火山活動が活発であった.
北投地域は17世紀ころから硫黄の採掘がさかんであり,1894年,ドイツ人によって温泉の存在が確認された.大阪商人,平田源吾が金鉱脈探査中に負った傷をこの地で癒したことがきっかけとなり,台湾初の温泉旅館を開いたのが1896年のことである.日本の統治時代には一大温泉街として発展した.
北投温泉は北投石(Hokutolite)の産地として有名である.北投石は独立した鉱物ではなく,Baの一部をPbに置換した重晶石が沈殿したもので白色〜淡褐色の縞状構造を示す(写真左上、右中段).色の淡い部分がRaを多く含み,放射能が強い.すでに1898年,日本の秋田県渋黒温泉(現,玉川温泉)で同様の沈殿物が採取されていたが,本格的な研究は1905年に台湾総督府鉱物課技師・岡本要八郎が北投温泉「瀧の湯」で重い沈殿物を発見したことに始まる.当時,世界的に放射能鉱物に対する関心が高かったことや温泉医学的な見地から,この沈殿物が注目された.1912年11月,東京帝国大学教授・神保小虎により新鉱物「北投石」として報告された.
北投温泉にある地熱景観公園内の窪地(地熱谷)が泉源になっており,水温80〜100℃,pH1.2~1.6の強酸性緑礬泉が小さな池を形成し,湯煙を上げている.かつては自由に温泉卵をつくることができたこの池も現在は立ち入り禁止になっており(写真下段),学術的に貴重な北投石が保護されている.