写真:沖村雄二・土岡健太・船越雄治(東広島市自然研究会)
解説:沖村雄二・後藤益巳・矢原大和(広島県立教育センター)
写真1
写真2写真3
解説:
広島県東広島市安芸津町赤碕の沖にある小さな島,ホボロ島は,ここ数十年の間にみるみる小さくなり,若いころに遊んだ島の面影は全くなくなったと語る老年の方々は少なくない.台風のたびに目だって小さくなるし,どうしてこの島だけが急速に小さくなるのだろうか?と,理由がわからないまま,ホボロを売るという民話ともあいまって,わびしく見守られてきた.明治30年と大正14年に測図され,昭和3年と31年に発行された2万5千の分地形図,三津図幅では,この島の高さは21.9mと標記され,長径が120m+と読み取れるが,現在,高潮位時の海面上に見られる部分は,高さ6m・幅が8m×3mに足りない搭状の岩石が島の西端に一つあるにすぎない(写真1).ちなみに周辺の島の規模はほとんど変化していない.島がなくなるのではと言われる中,安芸津町木谷小学校5年生の環境学習テーマとして島の自然がとりあげられ,コスモ石油エコカード基金(学校の環境教育プロゼクト)と父兄の助けを借り,海浜の生態系を中心に調べる上陸作戦がおこなわれた.筆者らは,同行の機会をいただいて,地質調査を行った.構成岩石は,デイサイト溶結結晶凝灰岩(松浦,2001)で,赤色化の激しい風化作用のために軟岩化がすすみ,島全域の潮間帯に無数の穴があることに気がついた.調査がすすむにつれて,10mm±くらいの“ダンゴムシ”よう生物がこの穴に棲んでいることが確認され,その頻度は表面積の50%以上(写真2)にたっし,明らかに生物侵食作用であることを伝えた.潮間帯上部では穴がこわれて連続して巻貝やカニの棲みかとして利用され,波のエネルギーによるムシの棲みかの崩壊が容易に考えられる.それによって引き起こされる潮間帯の軟岩の崩壊が,上位の岩石の崩落をまねき,島が小さくなる大きな原因であることは間違いない.実際に潮間帯の穿孔穴が発達する軟岩化した基盤岩の上には,風化作用を受けていない巨〜小礫岩が散在している.詳しくは,本誌に発表する作業をすすめているが,このムシが,凝灰岩に穿孔することが知られている「ナナツバコツブムシ」(写真3)であることを,北九州自然史博物館,下村通誉学芸員に鑑定していただいた.生物侵食作用(bioerosion)という学術用語は知られているが,ほとんどが生痕として観察・記載されたもので,島が消失するという規模とその速度からして,この島の現象はきわめて異質であり報告する(2007,2,10,日本地質学会西日本支部例会でポスター発表)