掲載日:2025年07月01日
新刊紹介『大地と人の物語−地質学でよみとく日本の伝承』日本地質学会編,創元社2025年6月10日発行,判型:A5判,168頁,ISBN:978-4-422-44047-7,定価:2,860円(税込)
本書の出版のきっかけは,2023年1月に日本地質学会のジオパーク支援委員会が開催したオンラインシンポジウム『ジオパーク地域に伝わる伝承と地質学―古代からの自然観を今に活かす』でした.このイベントに参加してくださった創元社の方から,「本にしませんか?」という声がかかり,内容をさらに充実させて出版することになりました.このアイデアのもとは,2021年に行われた全国ジオパーク大会で,日本各地に伝わる伝承や神話と自然とのつながりが紹介されたことにあります.
これまで本学会で,伝承や神話のような話を科学の視点からとらえる試みはありませんでした.今回のシンポジウム,本書の出版ともに,文化人類学や民俗学で扱われてきたようなテーマを,自然科学の目で読み解こうとする新しいチャレンジです.最近では文化地質学という分野も注目されていて,地質学が理系・文系の枠をこえて,さまざまな分野をつなぐ役割を果たしつつあります.本書もその一例です.
伝承や神話が長く語り継がれてきた背景には,話す人と聞く人の間で「この話には意味がある」と共有される理解があったのではないかと,私たちは考えています.フランスの人類学者レヴィ=ストロースも,昔の人たちも自然をよく観察し,自然現象を深く理解していたと述べています.
地震や火山の噴火など,自然災害が多い日本では,こうした伝承・神話が自然との付き合い方を伝えていることもあります.そうした知恵や経験を,現代の科学と組み合わせて見直すことは,私たち地質学者にとっても大切な課題です.日本列島は変動帯にあり,地震や火山など地質的な変化が多く見られます.だからこそ,全国各地にユニークなジオパークがあり,そこには地域の自然と関わる多くの伝承や神話が残っています.本書の著者は,そうしたジオパークに関わった活動をしている地質学者や専門員です.多くの方々に,伝承や神話を通して地質学にも関心を持ってもらえるように願っています.
本書は2部構成です.第1部(総論)では,神話と地質学をつなぐ地球神話という新しい考え方を紹介し,ジオパークが大切にしている地球の記憶や地質遺産について解説します.第2部(各論)では,主に全国のジオパークを舞台に,自然と人々の暮らしがどのように物語として語り継がれてきたかを,カラー写真や図を使って紹介しました.
総論
- 第1章:大地から生まれる物語〜地球神話への誘い〜
- 第2章:地球をよみとくストーリー〜ジオパークの歴史と活動〜
各論
- 第1章 アイヌ民族の伝承とジオパーク〜神々と人間の交わる世界〜
- 第2章 磐梯山の岩なだれが造りだした地形・奇岩〜「宝の山」に伝わる伝説と昔話〜
- 第3章 関東地方の大地震と鯰伝説〜地震を起こした鯰の正体は?〜
- 第4章 大男が射抜いた穴 星穴伝説〜奇岩の山・妙義山にまつわる伝説〜
- 第5章 浅間山と鬼伝説〜火山の噴火は鬼のしわざ?〜
- 第6章 糸魚川ジオパークの景観〜奴奈川姫と大国主命の伝説からたどる〜
- 第7章 熊野の神話と火成岩〜古事記・日本書紀からみる〜
- 第8章 豊岡盆地の成り立ちとアメノヒボコ伝説〜日本海形成と玄武洞〜
- 第9章 わら蛇の祭と伝説〜大蛇が語りかける〜
- 第10章 「こし」のヤマタノオロチ 火山説の再考〜洪水の化身か,火山噴火の化身か〜
- 第11章 国引き神話と島根半島〜神が土地を引っ張ってきた!〜
- 第12章 阿蘇カルデラの歴史と神話〜地形・地質の特徴からひもとく地震・地球の動き〜
コラム
- ジオパークことはじめ
- 災害教訓を伝える自然災害伝承碑
- ‟さざれ石“と‟たもと石”
- 身近にもある?化け物と化石の接点
- 自然災害と天然記念物
(文責:野村律夫・天野一男)