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一般社団法人日本地質学会 会長 岡田 誠 ![]() |
みなさま,明けましておめでとうございます.日本地質学会創立130周年を迎えるにあたり,年頭の挨拶を申し上げます.
2020年初頭以降,世界的に猛威を振るってきたコロナウイルス感染症パンデミックによって,日常生活同様に学協会における活動も大幅な制限をせざるを得ない状況が続いてきました.そうした中,昨年9月には第129年学術大会を3年ぶりに対面により早稲田大学にて実施することができました.早稲田大学では同時に地質情報展も開催され,NHKでの報道もあったことから多くの一般市民が訪れ大変盛況でした.LOCの皆様を始め,大会および情報展開催にご尽力頂いた関係各位に深く感謝申し上げます.
さて,みなさまご存じの通り,日本地質学会の活性化は喫緊の課題です.振り返れば,1999年に5,323名を数えピークを迎えた本会の会員数は,そののち毎年平均で92名の減と,本年にいたるまでほぼ直線的に減少の一途をたどっております.この要因として思いつくのが日本全体の人口減少と,大学における地学教育の衰退,そして地球科学関連学会の増加などでしょう.このうち人口減少については,例えば日本における出生数から見た本会への入会タイミングである修士課程年齢の人口低下開始が1986年であること,そして大学生の人口自体が減っているわけではないことなどを考えると,人口減少が会員数減少の直接の要因ではないと言えます.想定される残り二つの要因ついての考察にはデータに基づいた分析が必要ですが,昨今の多くの地学系大学教員が所属する学会を見渡しても日本地質学会が主流を占めているわけではない現実を見ると,地学系関連学協会の増加が深く関わっていると考えてよさそうです.
地質学会を含め多くの関連学会への入会者のほとんどが,大学院在籍時(多くは修士課程の時)に学会発表するために入会しているのが現状と思われます.多くの大学院生にとって学会発表は,奨学金免除申請に有効なため必須となっています.しかし発表を行うためには入会が必要であり,入会すると年会費を支払う必要が生じます.奨学金免除申請に必要な情報として学会の種類は問われませんので,必然的になるべく年会費の安い学会での発表が好まれることになります.大学院での新規入会を促進し本会の活性化を図るためには,本会が大学院生に対して,関連学協会を上回る訴求力を発揮する必要がありますが,現状はかなり厳しい状況です.
しかしこのような目的で入会した大学院生の多くは,就職時に退会するか,退会手続きを忘れて会費滞納による除籍となっていると推察されます.本会の場合,コロナ直前の2019年では,入会者数131名に対し退会者数が126名,そして会費滞納による除籍者数が62名となっています.この現象は地質学会に限ったことではなく,むしろ学術系に特化した多くの関連学協会においてはさらに顕著になっていると思われます.なぜなら,多くの学協会において修士修了後に学会員として残るのは,博士課程へ進学し,研究職を目指す大学院生に限られるからです.では地質学会ではどうなっているのでしょうか.本会の会員構成を見ると,2022年における全会員数3,207名中,大学院生や退職者を除くと,大学や各種研究機関に所属する研究職の会員が1,000名弱であることに対して,地質調査業を始めとした民間企業に所属する会員が900名弱,小中高教員や博物館など教育・アウトリーチ関連業務を担う会員が500名弱と,幅広い職種にわたった構成となっており,会員職種においては実に豊かなダイバーシティーが確保されていることがわかります.そして現在民間企業に所属する会員であっても,その多くが大学院在籍時に入会していることから,大学院修了後に研究職に就かない場合においても,引き続き本会を支えて下さっているのです.これは,学術系に特化した他の関連学協会とは異なる本会の際立った特色と言えるでしょう.
本会の活性化を図るためには,大学院生への訴求力向上の他に,会員の満足度の向上を図る必要があります.上記に示した本会の特色を踏まえると,最先端分野などに関する活発な研究発表を促すと同時に,企業所属の会員に対するサービス向上が不可欠です.そのため過去2年間については,磯崎前会長のもと,地質学雑誌の完全電子化や各賞選考規則の変更などに加え,CPDが発行されるオンラインショートコースの実施や,地学系大学生などに対して地質調査業など関連業界への就職を促すためのキャリアビジョン誌の発行など様々な取組が進められて来ました.そして本年は学会活性化のための取組として,以下の施策を実施いたします.
1つめは,会員区分と会費の大幅な変更です.特に若手の入会を促進するために,大学院生の会費について,これまで年間 ¥8,000だった所を¥5,000へと大幅に減額するとともに,さらにお得なパック料金制度を用意しました.これは,最大3年間の会費 ¥9,000(年間 ¥3,000に相当)を一括払いすることで,期間中に社会人となった場合でも追加料金が発生しない制度です.大学教員の会員の皆様には,是非この制度を最大限に活用することで,指導学生の皆様に入会を勧めて下さるようお願い申し上げます.
2つめは,会員システムのクラウド化です.既に大会登録はWeb上で実施していますが,それとは別に会員情報を管理するシステムです.これにより紙ベースの会員名簿は廃止となりますが,会員情報の閲覧は会員限定のシステム上で可能になります.現在準備しているシステムは紙ベースでの会員名簿以上の情報閲覧が出来ない仕様になっています.しかし折角のシステムなので,所属の専門部会や大学・会社など特定の属性を持つ会員グループの形成や,グループ内の連絡リストの作成などに活用できるシステムとすることで,会員間におけるコミュニケーション活性化に役立つ仕組みにできればと考えています.またクラウド化に伴い,現在郵送で行っている各種選挙を電子的(Web上で)実施可能になります.これには現行規則の改正が必要なので,次期選挙に間に合うよう改正手続きを進めているところです.
組織の活力を維持するためには,時代の変化に対して敏感に反応し,刻々と変化する社会の要求に応え続ける必要があります.そのためには,若手が活躍できる組織であると同時に,性別ダイバーシティーの確保が重要です.年配男性ばかりの集団では,社会の変化に追従することは難しいのです.本年は,上記2つの施策実施に加え,女性会員の増加を図るために必要な方策を議論し,出来るところから実施することを考えています.会員の皆様には是非ともご支援頂けますとありがたく存じます.
昨年6月の会長就任からあっという間の半年でしたが,理事・代議員,そして会員の皆様のご支援・ご協力を得ることができ,お陰様で滞りなく学会運営がなされてきました.国際関係など問題が山積した状態ではありますが,会員の皆様とともに,参加して楽しい学会をつくっていく所存です.あらためて皆様のお力添えをお願いして,年頭の挨拶とさせて頂きます.
2023年1月6日
一般社団法人日本地質学会
会長 岡田 誠(茨城大学)