年頭のご挨拶


 

連合王国「世界で最も有名な不整合」露頭にて;冬嵐の中、ハトン先生に地質屋精神を鍛えられる(Nov. 2019 @Siccar Point)

 会員の皆様、明けましておめでとうございます。後の時代の教科書に重大な歴史的変換点と確実に記述されるであろう西暦2020年が終わりました。2021年が全世界にとって、また私たちの日本地質学会にとって、明るいものとなることを切に願います。

 先が見えないコロナ禍の混迷の中で、世界中の人々が改めて日常の営みの重要性について深く意識するようになりました。そもそも個々の人間にとって生存や健康維持こそが最も根源的でかつ共通の欲求であることは自明です。しかし、明日、来週、来月、そして来年の慌ただしい予定に追われて、日常生活ではそれを強く意識していなかったので、改めて新鮮に感じたのでしょう。

 このタイミングは、私たちにとっても地質学者としての自覚を再認識する良い機会なのかもしれません。隣接分野の研究者達から、しばしば「君たち地質学者は相変わらず泥臭い研究をやってるね。」と揶揄されたことがあります。反射的に「本来、泥臭いのが地質学なので、何が悪い。」とむきになって反論してきましたが、コロナ禍の自粛生活の中で、その「泥臭さ」の本来の意味に気づいた気がします。地球科学の中でも、地質学はフィールドワークを基本とした実体を観察することから始める学問として発展してきました。野外で露頭を観察し、叩き割った岩石試料を分析すれば何を示せるのかを考える瞬間こそが至福の時間であることを、野外調査の経験者は実感できると思います。一方で、調査中に転んで崖から落ちたりすると、高邁な思索どころではなくなります。まさに我が身を自然の中に置くことで地質学者は自身の生存を自覚するという点に、地質学のユニークさがあります。

 20世紀後半以降、地質学に多様な定量分析手法が導入されたのは大きな福音で、多様な地質現象についてスケール無視で議論することは不可能になりました。しかし室内実験で得られた分析値の意味について抽象的思考をするだけではなく、フィールドでの観察事実と照合しながら議論する視点・思考が最も重要です。大学院生や若手研究者会員には、分析値のみが重要なのではなく、あくまでフィールドという「泥臭い」現実世界の中で考えることを強く意識してほしいと思います。自然は実に多様なので、その中からテンプレート的結論ではない独自の結論が必ず導かれるはずです。思い返せば、地方とはいえ町育ちの私にとって、最初の地質調査はフィジカルにもメンタルにも大変な苦行でした。しかし、やがて調査の意味がわかるようになると野外に出るのが面白くなり、また少しずつ素晴らしい自然景観を味わう余裕も出てきました。一般の旅行者達には絶対見ることができない絶景に出会うと大いに得をした気分になれるものです。是非、実物を体感する地質学の醍醐味を継承してゆきたいと願います。

 さて、地質学会では昨秋に初めてショートコースを実施しました。ショートコースとは、大学で行われている集中講義に近いもので、ある特定のテーマの最新の話題、あるいは基礎科目を、選ばれた講師が短期集中的に講義する企画で、欧米の学会では頻繁に催されています。地質学会の執行理事会では、元々これを恒例の学術大会の中の新企画の一つとして準備していましたが、学術大会自体が延期され、オンライン開催となりました。行事担当の星理事、澤木・堀内両事務局員、また4名の講演者の御尽力のおかげで、コロナ禍の中での実施にも関わらず予想外の視聴者数を得て、望外の好スタートとなりました。これに味をしめて、今後も本企画を継続することが執行理事会で決まりました。内容は各専門分野の基礎や最先端のトピックなどが中心になりますが、それとは別に「泥臭い」フィールドワークのコツ・楽しみ方や論文執筆の(文章テクニックではなく)意義や心構えなどに関する一般的テーマも是非コンテンツに加えたいと考えています。

 このような「災い転じて、福となす」作戦で、学会活動のパワーアップを目指したいと思います。力をあわせて、ポストコロナ時代の強靭な地質学会2.0を作りましょう。年頭にあたり、改めて会員の皆様からの一層のご支援をお願い申し上げる次第です。

2021年1月6日
一般社団法人日本地質学会
会長 磯行雄