地球なんでもQ&A

注:これは地質学会としての統一見解ではなく、読者の理解の一助としてインターネット委員会が整備したものです


地質災害

Q1:活断層と普通の断層は何が違うのですか?

A:新しい時代に活動したものが活断層です

    日本のような変動帯では,断層はいくつもの地質時代を通して形成されてきました.私たちは,崖の断面で地層のくい違いとして,断層をみることができます.  なかでも最も新しい時代の第四紀(約180万年前以降)に繰り返し活動した断層は,将来も活動する可能性が大きいので,活断層とよばれています.日本の内陸部の活断層は,大部分が数百年から数千年に1回ぐらい間欠的に活動して地震を起こしています.活断層の一度に動く長さが長いほど,大きな地震が発生します。

(リーフレットシリーズ「大地の動きを知ろう—地震・活断層・地震災害—」より)

 

 

Q2:活断層はなぜ危険なの?

A:将来、大きな地震が直下で起きるからです。

 
台湾チェルンプ断層の写真。1999年9月の台湾中部地震で起きた集集地震(M=7.3)の時に活動したチェルンプ断層の写真。断層は川を横切って写真右側が約10mも隆起したため、橋は切断され、川に滝ができました。

  地震は、断層が動くことによって生じます。でも、全ての地震で地表の活断層が動くわけではありません。比較的震源が浅く(10km以浅)、地震の規模がマグニチュード5以上の時にだけ、地表に出現します。つまり、活断層があると言うことは、震源が浅く、マグニチュードの大きな地震が起きたことを意味しているのです[1]。
   また、断層にはいろいろあり、大昔は活動していたけれども、もはや死んでしまった断層もたくさんあります。地震は地殻に力がかかって、歪が生じて、限界に達すると断層が破壊することで生じます。そのため地殻にかかる力の大きさや向き、地殻の構造や性質といったものによって、どの断層が動くのかが決まります。この地殻にかかる力や構造といったものは、何1000万年という長い地質的時間のうちには、ゆっくりと変化しますが、ここ数100万年くらいの間では、ほとんど変わりません。そのためここ数100万年間のうちに動いたことのある断層は、今後また活動する可能性があります。 ですから、活断層があるということは、震源が浅く、比較的大きな地震が、将来繰り返し起きる可能性があることを意味します[2]。

(坂口有人 海洋研究開発機構)

引用文献
[1] 活断層研究会編. 新編日本の活断層分布図と資料. 東京大学出版会, pp. 440, 1991.
[2] 松田時彦. 活断層. 岩波書店. pp. 242, 1995.

 
 

Q3:新潟県中越地震(2006年)で大きな被害を受けた山古志村の地盤はどのような地層からなっているの?

A:地層はただいま変形中  

   山古志村は新潟県中越地方,東山丘陵(北魚沼丘陵)にあります.  山古志村は,700万年前〜100万年前(新生代中新世〜更新世)の海や陸上でたまった厚い地層でできています。下部は,河川によって陸上でたまった地層(河川成)と海成の地層が半々で、上部になると河川成の地層ばかりになり、次第に浅くなり、陸地になっていった様子が記録されています.  山古志村の地層は地殻変動により褶曲(しゅうきょく:地層が波打って曲がること)が現在進行中です.これを活褶曲といいます.魚沼丘陵は,活褶曲で有名な地域です.河川の浸食の具合によって,地表に露出する地層が違い,尾根には若い地層,谷底ほど古い地層が分布しています. 詳しくはこちら

 

(竹内 圭史 産総研  新潟県中越地震(2006年)地質災害調査報告より抜粋)


 

Q4:史上最大の地震はなんですか?

A:1960年のチリ地震です。

   チリ地震は近代的な地震観測が行われるようになって以来最大の地震でマグニチュード(Mw)は9.5でした。これは1923年の関東大震災(M=7.9)、1946年の南海地震(Mw=8.0)[1]、1995年の阪神大震災(Mw=6.9)、2005年の中越地震(Mw=6.6)よりもはるかに大きく、2005年のインド洋大津波のスマトラ島沖地震(Mw=9.0)[2]よりもまだ大きいのです[1]。チリ地震は、それまでの約100年弱の間に地球表層から放出された全地震エネルギーの約1/4をたった1回の地震で占めるほどの大きさでした[3]。震源はチリ海溝の比較的浅い所だったため、巨大な津波が発生し、それは約半日かかってハワイを、そして太平洋を越えて約1日後には、地球の裏側から日本に到達し日本列島の太平洋沿岸にたいへんな被害をもたらしました。

(坂口有人 海洋研究開発機構)

引用文献
[1] 佐藤良輔鮑編. 日本の地震断層パラメータ・ハンドブック, 鹿島出版, pp. 390. 1989.
[2] 東京大学地震研究所ホームページEIC地震学ノート(http://www.eri.u-tokyo.ac.jp/sanchu/Seismo_Note/)
[3] C.H.ショルツ著, 柳谷 俊訳. 地震と断層の力学, 古今書院, pp. 506, 1993.


 

Q5:地すべりはどのような原因で起こるのですか?

A: 発生しやすい素因がある斜面に,地下水の上昇などが誘因して起きます.   

   地すべりが発生するメカニズムは2つの原因があります.  1つは地形や地質,地下の状態(地層の傾きや風化の度合い,断層の有無,地下水など)が地すべりを発生させる条件が整っている(素因と言います)ところです.  もう1つは,地すべりを発生させる引き金で,自然現象(梅雨の長雨,雪どけ水,台風などの集中豪雨,地震など)や斜面を掘削したりあるいは土を盛ったり,トンネルの掘削,ダムに水を貯めるなど人為的誘因によって発生します.  すなわち,地すべりが発生しやすい地質的条件などの素因がある斜面に,地下水の上昇や地震力などが誘因となって起こります.地震による地すべりを除いて,地すべりが発生する直前には斜面に割れ目ができたり,小さな崩壊が発生したり,湧水が濁るなどの前兆現象が発生することがあります.特に,大雨があったあとや雪どけ水が大量に発生したときなどは注意が必要です.

(上砂正一 明治コンサルタント(株))


 

Q6:土石流って何ですか?

A:大量の土砂と水が津波のように一気に流れていく現象です    

   集中豪雨,長雨で山腹の一部が崩壊すると大量の土砂と水が渓流に流れ込み,川底の土石とともに津波のように一気に下流へと流れていく現象です.  土石流の先頭の部分は,大きな岩や流木などが集まってもり上がっています.土石流の速さは,規模,斜面の傾斜によって異なりますが,時速20〜40km の速度になります.土石流は大きな運動のエネルギーを持っているため,土石流の通り道にあたるところは一瞬にして建物や畑を破壊してしまいます.  一般的に,土石流は集中豪雨が原因で起こりますが,地震や地すべりでくずれた土砂が川に流れ込んだり、雪どけ水が土砂とまじったりして起こることもあります.また,雲仙普賢岳に見られたように,火山の噴火でつもった火山灰に雨がふって起こる土石流もあります.

(上砂正一 明治コンサルタント (株))


 

Q7:地盤沈下はなぜ起きるの?

A:地下水を汲み上げすぎると沈下します。

  地下には地下水が多く含まれる層があります。そこには砂や砂利の隙間に水が詰まってて、上の地盤の重さによって高い水圧が生じていることもよくあります。そんな地層にボーリング掘削すると高い水圧によって地下水がこんこんと湧き出してきます。でも、これをくみ上げすぎると、地下の水は減ってしまいます。地下水は上からの重さを支えていたので水圧が高かったのです。その水がなくなったら、重さを支えることができなくなり、砂や砂利の隙間は押しつぶされます。ひとつひとつの隙間は小さいですが、これが多量に失われると、ついには地面が窪んでしまいます。これが地盤沈下です。

(坂口有人 海洋研究開発機構)  


 

Q8:津波によって数十トンの石が動くって本当?

A:本当です.

 

 
タイ・カオラックの海岸に堆積している,2004年インド洋大津波によって運搬された巨礫(津波石).

  例えば,2004年インド洋大津波によって,タイのカオラックという場所で重さ約〜20トン,直径〜4mの巨礫が数百m内陸に運搬されたことが明らかになっています.同じような巨礫(日本では津波石と呼ばれています)は,日本の石垣島の宮良湾でも見ることができ,古文書記録によれば1771年に起きた明和津波によって運搬されたとされています.最近,世界中の津波リスクが高い国(例えば,アメリカ,ポルトガル,オーストラリア,プエルトリコなど)の沿岸域に同様の巨礫が存在することが相次いで報告されています.巨大岩塊は,大きな津波外力によってのみ移動し,さらに堆積後に人為的に移動されることが少ないので,長期間その場に存在すると考えられます.そのため,過去の津波による痕跡として比較的同定しやすいのが特徴です.しかも,岩塊移動は作用力と軌跡の関係が比較的単純なため,岩塊の移動量から作用力や流速を推定することが可能です。

(東北大学 後藤和久)

引用文献:
後藤和久,S. A. Chavanich,今村文彦,P. Kunthasap,松井孝典,箕浦幸治,菅原大助,柳澤英明,2006, 2004年インド洋大津波によって運搬された”津波石”の起源.月刊地球.Vol. 326, 28, 553-557.
今村文彦,後藤和久, 2007,過去の災害を復元し将来を予測するためのアプローチ-津波研究を事例に-.第四紀研究. (印刷中).

 


Q9:盛土地盤はどんなところ?

A:人工的に低地や谷を埋め立てた地盤で,地震の時には被害を受けることがあります.

 湿地や沼地に土を入れて埋め立てて,住宅地や道路などにした地盤を盛土地盤と呼びます.市街地近郊での宅地開発では,田んぼに土を入れて造成したり,丘陵部の斜面で平らな宅地を作るために,斜面を切り取ったり(切土)土を盛り上げたりするため,結果として多くの盛土地盤が形成されています.また,道路を作るときに横断する谷の部分に土を盛り上げることがあり,道路も盛土の部分が多く見られます.
通常時は特に低地の粘土質な地盤を埋め立てた宅地や道路では不同沈下が起こる可能性があり,地震時はこれに加えて,大きな震動によって盛土部分が崩壊するなどの被害が起こります.
盛土をした宅地の被害は,1978年の宮城県沖地震の際に丘陵部の造成地で多くみられ,以後,1995年の兵庫県南部地震や2004年の新潟県中越地震においても繰り返し発生しました.また,中越地震では山間部を通過する道路の盛土部分で大きな崩壊が多発し,集落が孤立する原因ともなりました.
こうした盛土の部分は,造成や道路が作られる前の地形と比較すると比較的容易に見つけることができます.自分の生活するまわりの地形や地質環境を知り,被害を受けないよう対策をする必要があります.なお,盛土した宅地については2007年に大規模地震時の宅地の耐震性確保のため.宅地造成等規制法が改正され,崩落のおそれのある大規模盛土造成地の耐震性を向上させ,宅地被害の予防を図る新たな取組が始まりました.

(新潟大学 卜部厚司)

  宅地盛土の崩壊(2004年新潟県中越地震:卜部厚志撮影)
 


Q10:液状化でビルが傾く?

A:液状化の対策が十分でないビルや家は傾くことがあります.

 沖積層や埋立地などの軟らかい砂の地盤では,普段は砂粒子同士が引っ掛かりながら支えあい,上に載る家やビルの荷重を支えています.しかし,地震が発生するとその引っ掛かりがはずれてしまい,砂粒子はより密な状態になろうとします.このとき,砂粒子が地下水で満たされていると,粒子の隙間の水圧(間隙水圧)が高まり,砂粒子が浮き上がった状態になって,自由に移動できるようになります.この現象が液状化です.間隙水圧が高くなった状態では,より上位の地層や家やビルなどの重さを支えられなくなり,家やビルが沈下したり,砂混じりの水を大量に噴き上げたり(噴砂現象)します.
液状化は,地下水位が高く,粒径 0.1mm〜1.0mm程度の砂を多く含む地盤で,経験的には震度5程度以上の地震の揺れを受けたときに発生することがあります.また,より細かい粒子や礫を含んでいる場合でも起こることがあるので注意が必要です.
液状化は,1964年の新潟地震の際に広い地域で発生し,当時の新潟市街部では道路の亀裂,橋の落下,ビルの倒壊や川岸が川の中に大きくせり出す現象(側方流動)などが起こり注目されました.その後,この地震をきっかけとして多くの研究や対策方法の検討が行われてきました.液状化はその後の各地の地震でもおこり,地盤や構造物の沈下,マンホールの浮き上がり,道路の崩壊,港湾施設沈下などの被害を繰り返してきました.また,古い時代の液状化は,さまざまな時代の遺跡でもみられます.遺跡の調査では,遺物による年代の編年や地層の年代測定によって液状化の編年を行うことができるので,過去の活断層の活動履歴を探る手がかりにもされています.
液状化の発生を予測して災害を軽減するためには,もとの地形(沼地や川の跡)や地層の形成された様子を知り,地層(地盤)をよく調べることが重要です.

 (新潟大学 卜部厚司)

液状化によって傾いたビル(1964年新潟地震:若林茂敬氏撮影)
液状化によって落下した橋(1964年新潟地震:若林茂敬氏撮影)
 


Q11:地層の断面をみることができる?

A:物理探査と呼ばれる方法で,地層の断面をみることができます.

  山地や平野の地質構造の断面は,岩石の露出する崖や川での野外地質調査やボーリング調査などの情報によって,直接見えない部分を推定しながら描くことができます.これに対して,人工的な小さい地震などを使って物理的に地下の地層の様子を探り,断面図を描く方法があります.野外調査やボーリング調査に加えて,物理探査と呼ばれる方法を用いるとより詳細な地下の地層の様子を明らかにすることができます.
ここでは,石油探査や丘陵・平野部の活断層の調査に用いられることの多い反射法弾性波探査を紹介します.反射法地震探査は,地表の近くで人工的に発生させた振動(弾性波)が,地層境界面(速度と密度が変化する面)で反射して,再び地表へ戻ってきたところを捉え,データ処理をすることにより,地下の速度構造と地質構造形態(地層の重なり具合)を明らかにすることができます.この方法では,調査対象の深度によって発生させる地震動(P波・S波,震源装置の違い)や受信する仕様(受信する間隔や記録数)を変えることにより,陸上や湖底,海底の地層のさまざまな深さまでの地層を調べることができます.近年の技術では,陸上の探査で深さ5〜6km程度までを調査することができ,石油などの資源探査に加え,内陸での地震発生を探るための大規模な調査が行われています.地質学と組み合わせることにより,より詳細な地質構造やその形成過程が明らかにされようとしています.

 (新潟大学 卜部厚司)


Q12:GPSで日本の動きがわかる?

 

A:高精度のGPS観測網が作られ,日本列島の各地点の動きがわかるようになっています.

  GPS衛星は高度2万kmに6つの軌道を持ち,24個の衛星(6軌道×4個)が地球を周回しています.GPSの技術は,現在はカーナビや携帯電話にも使われ小型化と高精度化が進められています.
このGPSの技術を地殻変動の観測に応用するため,国土地理院によって日本全国にGPSの観測網(電子基準点)が整備され,各地点の動きが連続的に観測できるようになりました.この技術による地殻変動観測の成果として,新潟から神戸にかけてひずみが集中していることがわかりました(ひずみ集中帯:Sagiya et al., 2000など).このひずみ集中帯は,海洋プレートの沈み込みによる横方向の圧縮力とその他のプレートから受ける圧縮力も加わってこのような地殻変動が生じていると考えられています.また,このひずみ集中帯では,1995年の兵庫県南部地震,2004年の新潟県中越地震,2007年の新潟県中越沖地震など,過去200年程間に発生した内陸大地震の多くが発生していたことから,ひずみ集中と大地震発生の間に深いつながりがあるものと考えられています.

(新潟大学 卜部厚司)
 
文献
Sagiya, T., S. Miyazaki, and T. Tada,2000,Continuous GPS Array and Present-day Crustal Deformation of Japan, PAGEOPH, 157, 2303-2322.