ニュージーランド・クライストチャーチ地震の地質学的側面

 

小川勇二郎; 2011. 2. 27

*Table. 1以外の図・写真は、クリックすると大きな画像をご覧頂けます。

今回の地震

2011年2月22日現地時刻12時51分43秒(21日 23:51:43.0s UTC)にニュージーランド南島クライストチャーチ近郊でM6.3の地震が起きた。震源の深さは約5 kmとされている(表1;図1,2)。この地震は、2010年 9月 4日に約70 km西方で起きたM7.0のDarfield地震(右水平ズレ)の余震域の東端に位置し、余震の一つと考えられる(筑波大学、八木勇治氏による)。今回、この一連の地震の地質学的側面の一部を紹介し、あわせて非震性海嶺の衝突の例かもしれないテクトニクスとして紹介したい。

図1.クライストチャーチ周辺の地形図。直南に、今回述べるバンクス半島がある。また北東方へヒクランギ・トロフや海底谷が伸びている。地図の幅は約200 km。 図2.赤星が今回、青星は、2010年9月の震央。丸印は、2010年9月の地震の余震。オレンジ四角は、クライストチャーチ市の位置。(英国地質調査所のHPによる)。
図3.赤星が今回、青星は、2010年9月の震央。丸印は1843年以降のM6以上の地震の震央分布(英国地質調査所のHPによる)。南島の西縁から北東に延びるアルパイン断層、および分岐して太平洋に延びる斜め沈み込み帯(ヒクランギ・トロフ)が、ニュージーランドを特徴づける。 表1.今回のクライストチャーチ地震の諸元。英国地質調査所(BGS)のHPから。UTC: Coordinated Universal Time(世界標準時)。ニュージーランドは、これより13時間早い。

 

ニュージーランドの置かれたテクトニックな意義

 

図4.ニュージーランドのテクトニックな情報(上は、Chochran et al., 2006, 下はAAPGのPlate tectonic mapより)。

ニュージーランドは、現在、北西からチャレンジャー・プラトー、東からキャンベル・プラトー(チャサム・ライズはその一部)がぶつかって、タオルを絞るようになっている。クライストチャーチは、チャサム・ライズの丁度衝突する所に位置する(図4)。ニュージーランドは、こうしてねじれることによって発達してきたと言えるが、大きな地震は、従来アルパイン断層周辺のものが注目されていた。
上に述べたように、西方と東方に大陸地殻があって、北島の東では西方へ、また南島の南西では東方へ、沈み込みが生じている。北島の西海岸に沿って有名なアルパイン断層(活断層)が走っていて、日本でも多くの研究者が訪ねている。また、中古生代の付加体やその深部である、トアラス超層群やオタゴ(ハースト)・シストは、クライストチャーチの北方および南西方に広く分布しており、日本チームの研究も多い。
AAPGによるプレートテクトニック・マップによると(図4)、東西の太平洋プレートとオーストラリアプレートのホットスポット固定にもとづく絶対変位(赤矢印)から、キャンベルおよびチャレンジャープラトー両大陸地殻を乗せた部分の相対変位は、西へ約2-3 cm/yrであることが分かる。これが、すべてアルパイン断層やヒクランギ・トロフでの沈み込みによって消化されているか、それとも内陸部にひずみが蓄積する別の要因があったかは、今後解明されるべき問題だろうが、今回、比較的大きな地震が起きたことは、後者を示唆する。それに関しては以下の状況が見て取れる。

 

ニュージーランドの新第三紀アルカリ岩

図5.オレンジが、第四紀を中心とするいわゆる北島の島弧的な火山岩。一方、赤が新第三紀を中心とするアルカリ岩タイプのもの。これが現在の島弧火山活動とどう関連するか、またどのようなテクトニックな意義をもつものか、さらに、今回の地震にどのように関連するか、注目される。クライストチャーチは、南島ほぼ中央の赤い半島の直北に位置する。(Sewell et al., 1992による)。 

あまり知られていないようだが、ニュージーランドの主として南島の東海岸に沿っておよび内陸部に、島の方向にほぼ平行に、新第三紀のアルカリ玄武岩を主とする火山岩が分布している(図5)。


 

図6.バンクス半島の新第三紀の火山体(直径約40 km)。西に向かって撮影(Sewell et al., 1992の地質図幅のケースの表紙)。向こう側が、リットルトン火山、こちら側がアトロア火山と呼ばれている。クライストチャーチは、すぐ右上に位置する。 図7.バンクス半島の火山岩のハーカー・ダイアグラム(Sewell et al., 1992による)。典型的なハワイ型のアルカリ岩系列が多い。南島には、図8でみるように、このような火山岩が南北にかなり分布するようだ。
図8.リトルトンおよびアカロア火山体主要部の地質図(約10-5 Maの年代と言う)(Sewell et al., 1992による)。図の幅は約40 km。この西部に、北北東—南南西へ、火山帯を正断層的にずらす断層が知られていた。ただし、第四紀層は切っていなく、今回の地震とは無関係の模様。この火山体が衝突していたとしたら、なんらかの衝突地形(丹沢山地のような)ができていてもよいが、それは見当たらないようである。非震性海嶺は衝突地形を形成することなしに、沈み込みが生じ始めているのであろうか? 図9.ティマル(クライストチャーチから約80 km南方)付近のアルカリピローバソールトの露頭(白いインターピローの物質は、ドロマイト)。近くにドロマイトの岩脈があった。(1976年8月のIGCの巡検にて。サム・トンプソン, III氏撮影)。

 

解釈と展望

クライストチャーチの北方には、図4に見るように、北島の東沖から南西へ南島に入り込むように、ヒクランギ・トロフと呼ばれる斜め沈み込み境界がある。このトロフの北西斜面は付加体として、多くの研究例があり、海洋地球科学界では、南海トロフ、バルバドス、カスカディアと並ぶ第四の海溝付加体として、比較研究が進んでいる。その地形的な影響は、クライストチャーチの東方の海底谷にも表れているが(図1,4)、今回の地震が、このヒクランギ・トロフの陸上延長としてとらえるべき場所での特徴的な地殻変動の一端なのか、バンクス半島の衝突ないし沈み込みによるものなのか、またはそれらの複合的なものなのかは、即断は許されない。

図10.リトルトン火山体からクライストチャーチ市方面にかけての断面図。左方の縦線はボーリングの位置であって、断層を示しているのではない。(左が北西側。Sewell et al., 1992による)。

クライストチャーチ市は図1、10で示すように、鮮新統から第四紀にかけての約1 kmの厚さの堆積物をためるカンタベリー盆地に位置する。9月の地震を起こした断層は、従来のサイズミック・プロファイルでは、明瞭ではなかったとのことである。

9月の地震の時には、畑に右ずれのリーデルシアのエシェロンの割れ目系—地震断層が生じた。特に、今回の2回の地震は、従来活断層としては知られていなかった断層の再変位または新生断層か、とも考えられているが、いきなり新生断層が地表にまで現れる例はあまりなく、速い堆積や侵食速度によって、過去の地震断層がかき消されていたのかもしれない。今回は、液状化も生じ、お湯が噴き出したという。人工のお湯か天然の温泉かは、不明であるが、9月の地震断層では今後トレンチ調査も行われると聞いている。多方面からの調査研究が、それらの意義を明らかにすることだろう。

なお、非震性海嶺の衝突としては、九州への九州・パラオ海嶺の例があり(Wallace et al., 2006)、それとの比較検討も待たれる。

なお、9月の地震については、以下で知ることができる。
http://www.geonet.org.nz/news/article-sep-4-2010-christchurch-earthquake.html
http://www.gns.cri.nz/Home/News-and-Events/Media-Releases/Most-damaging-quake-since-1931/Canterbury-quake

 [追記: 2011.3.1]
なお、以下のHPによると、
http://www.geonet.org.nz/news/feb-2011-christchurch-badly-damaged-by-magnitude-6-3-earthquake.html
次の二つのような図が公表されている。それによると、前回のDarfield 地震と、今回のChristchurch地震の余震域は、エシェロン上に並ぶように分布することがわかる。また、発震機構は、逆断層成分のある横ずれ断層で、おそらく、ほぼ東西のP軸を持つ応力場を示している。なお、ニュージーランドの研究者の私信によると、クライストチャーチでの想定以上の揺れは、上に述べた新第三紀の火山体からの反射波が寄与したためと言う。

 

文 献

Cochran, U., Berryman, K., Zachariasen, J., Mildenhall, D., Hayward, B., Southall, K., Hollis, C., Barker, P., Wallace, L., Alloway, B, and Wilson, K., 2006, Paleoecological insights into subduction zone earthquake occurrence, eastern North Island, New Zealand. Geological Society of America Bulletin, 118;1051-1074. doi: 10.1130/B25761.1

Gibson, G. M. and Ireland, T. R., 1996, Extension of Delamerian (Ross) orogen into western New Zealand: Evidence from zircon ages and implications for crustal growth along the Pacific margin of Gondwana. Geology, 24, 1087-1090. doi: 10.1130/0091-7613(1996)024<1087:EODROI>2.3.CO;2

Nicol, A., and Wallace, L.M., 2007, Temporal stability of deformation rates: Comparison of geological and geodetic observations, Hikurangi subduction margin, New Zealand: Earth and Planetary Science Letters, 258, 397–413, doi: 10.1016/j.epsl.2007.03.039

Sewell, R.J.,Weaver, S.D., and Reay, M.B., 1992, geology of Banks Penisula, Scale 1:100,000. Institute of Geological and Nuclear Sciences Geological Map 3.1 sheet. IGNS Ltd.s, Lower hutt, New Zealand.

Wallace, L.W., Ellis, S., Miyao, K., Miura, S., Beavan, J., and Goto, J., 2009, Enigmatic, highly active left-lateral shear zone in southwest Japan explained by aseismic ridge collision. Geology, 37;143-146. doi: 10.1130/G25221A.1