2011年2月15日掲載
後藤章夫(東北大学東北アジア研究センター)
写真:高圧ガスを噴出する噴火模擬実験.半球状に広がるのが,高圧ガスを詰めた容器の口を開いた瞬間に発生した衝撃波で,中央にキノコ雲のように立ち昇るのが,噴出するガスの流れ.(撮影:東北大学流体科学研究所) |
1月19日から始まった新燃岳の噴火活動は,26日には本格的なマグマ噴火へと移行し,27日からは爆発的な噴火がしばしば発生するようになった.2月1日7時54分には,火口から3kmほどの湯之野で458.4Paの空振が観測される爆発があり,これにより窓ガラスが割れるなどの被害が出た.このような活動活発化に伴い,1月26日からは火口から2km以内の立ち入りが規制され,その後,31日には3km,2月1日には4kmへと,その範囲は順次拡大されている.9回目となる爆発が2月3日に起こってからしばらくの間,噴火活動は比較的小規模なものに限られていたが,2月11日にはまた爆発があり,活動終息の見通しは立っていない.(以上,気象庁HP及び霧島市HP参照)
2月1日の爆発で被害が出たこともあり,この噴火では,「空振」という言葉がにわかに注目された(雲仙普賢岳の噴火で,「火砕流」という言葉が広く認知されたのに似ている).しかし空振は決して珍しい現象ではなく,2004年の浅間山噴火でもガラス破損などの被害が出ているし(例えば横尾ほか2005),程度の差こそあれ,むしろ噴火が起これば必ず空振が発生すると思った方がよい.
空振は読んで字のごとく,空気の振動のことで,広い意味では「音」もこの中に含めて良いだろう.しかし火山の分野で空振というと,比較的低い周波数の波を指すことが多く,人間に聞こえる限界の20Hzより低い周波数帯もこの中に入る.こういう波が発生すると,何も聞こえないのに窓ガラスがカタカタ震えるといったことが起きる(もちろん,ある程度の圧力が必要).新燃岳の活動でも,爆発的噴火よりも前にはこういった空振が観測されていた.空振の発生原因はいくつも考えられ,特定するのは必ずしも容易でないが,有珠2000年噴火で小規模な水蒸気噴火が継続した期間に観測された空振については,映像との比較から,泥のたまった火口で気泡がはじけることで発生していたと推定された(青山ほか2002).またそういった破裂現象を伴わない噴火でも,空振は噴出率の変化で起こりうる.噴出率が増すと周囲の空気が圧縮され,それが遠方へと伝播するからだ.噴出率が減少すれば,膨張(減圧)が発生・伝播することになる.
1月27日以降の爆発的噴火に伴う空振は,これら小規模な低周波振動とは性質を異にする.特に空振被害を出した2月1日の噴火では,山頂から山麓に向かって,山肌が白く変わっていく様子が映像にはっきり捉えられるとともに,大きな爆発音が鳴り響いた.これは火口を埋めた溶岩の下に高圧の火山ガスが溜まり,それが一気に解放されて衝撃波が発生したためと考えられる(写真参照).低周波の空振は圧力がゆっくり変化するのに対し,衝撃波は圧力がステップ状に上がり,その後,一旦変化前の圧力より低くなってから,もとの大気圧に戻る.山肌の変色は,衝撃波の通過で火山灰が巻き上げられたか,それに続く圧力低下で水蒸気が凝結した(雲が発生するのと同じ)ためと考えられる.
空振は,山が雲で隠れていても観測できる,大気が比較的均一なため伝播経路の影響を受けにくい,などの理由で,近年火山観測に多用されている.しかしその解釈はモデルに依存するのが現状と言わざるを得ない.現在新燃岳周辺では,地震をはじめ,様々な観測が展開されている.空振を含め,様々なデータを組み合わせることで,噴火ダイナミクスが解明されると期待される.