井村隆介(鹿児島大学・大学院理工学研究科)
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写真1 西側から見た南大隅町の土石流発生現場(7月6日11時ころ撮影.鹿児島県提供) |
2010年7月4日から5日にかけて,鹿児島県南大隅町の船石川で土石流が発生した.流出土砂は,既設の砂防ダムにトラップされ,大浜集落の数百メートル手前で止まった(写真1).町は5日,集落の50世帯91人に避難勧告を出した(7月20日現在,継続中).その後,7日午前1時ころに比較的規模の大きな土石流が発生し,あふれた土砂が大浜集落の一部と国道269号を埋め,海にまで達したが,けが人はなかった.土石流は7月8日昼までの間に合計7回観測された.
土石流の発生源となった崩壊は,阿多火砕流がつくる火砕流台地の縁で発生した.崩壊土砂は,北側の大浜川水系(写真1向かって左の流れ)と南の船石川水系(写真1向かって右の流れ)に落ち,船石川水系のものが土石流化して遠くまで流れ下った.船石川では2007年7月にも同じ場所で崩壊・土石流が発生しており,今回の土石流はそのときの源頭部がさらに上流側に広がる形で発生した.大浜川水系への崩落は,船石川側のそれに引きずられるようにして起こったものである.災害現場周辺では,6月末までに900mmを超える累積雨量を観測していたが,土石流発生時にはほとんど雨を観測していない.崩壊のタイミングやその規模などから,船石川で発生した崩壊はいわゆる深層崩壊であると判断できる.
写真2 船石川2号えん堤付近から見た源頭部(7月15日11時ころ井村撮影) |
周辺の地質は,大隅花崗岩を基盤とし,その上に下位より阿多鳥浜軽石,阿多鳥浜火砕流,円レキ層,ローム層,阿多軽石,阿多火砕流および台地上の火山灰・ローム層が載る.崩壊部に露出した阿多火砕流溶結部の下からは多量の湧水が認められ,崩壊は阿多火砕流の溶結部と非溶結部との境界で発生したと考えられる(写真2).船石川上流部の崩壊地に見られる阿多火砕流溶結部の下面は下に凸になっており,同じ溶結・非溶結部境界でも特にここが水を集めやすいところであることがわかる.火砕流台地上を含めた周辺地質については現在も調査を継続中で,追って報告する予定である.
住民が避難をしている中での調査を許可していただいた南大隅町,写真や情報を提供してくださった鹿児島県に感謝します.最後に,現在も避難されている方々や被災地の一日も早い復興をお祈りいたします.