地理情報システムを用いた地震災害とカルデラ構造との関連の検討

Relationship between earthquake disasters and caldera structures using of GIS

布原啓史((株)テクノ長谷),吉田武義,山田亮一(東北大・理)

Abstract

The authors investigate caldera structures and the large scale landslide resulted from Iwate-miyagi inland earthquake by the own GIS database which has been compiled several environmental hazard factors such as known landslide topographies, active fault system, metal mines and hydrothermal alteration zones on geologic context. The resulted map from the GIS database suggested that the caldera structure is closely related to the distribution of the large scale landslides.

1.地質・地形・地圏環境GISデータベース

筆者らは,産学官連携プロジェクトとして,自然由来の土壌汚染や水質汚濁の原因解明に資する目的で,デジタル化された地質図上に,様々な地質・地形・地圏環境に関する情報を統合化しつつある.1),2)これまでに公表した具体的なコンテンツとして,東北地方における地すべり地形,活断層分布及び河川の重金属バックグランドなど,また,全国レベルとして,鉱山や変質帯分布図,独自の土壌や岩石分析値などがある.今般,これらを土台として,東北地方のカルデラ構造3),4)分布および大規模斜面崩壊地点分布などを統合し,今回の地震災害と地質構造との関係を検討した.

2. 大規模地すべりとカルデラ構造

写真1.荒砥沢ダム上流の大規模地すべり.幅900m長さ1300m最大深さ150m以上,推定移動土砂量7000万m3におよぶ10). (6月18日撮影)
第1図.栗駒山周辺の地質図とカルデラ構造および土砂災害発生位置,地質図は東北地方デジタル地質図1)を一部修正して使用.斜面変動箇所は日本地すべり学会資料9)より一部引用
*クリックすると大きな画像がご覧頂けます。

今回の地震で荒砥沢ダム上流部に発生した大規模地すべり(写真1)は,栗駒山南麓カルデラ5)のカルデラリム近傍に位置している(第1図).また中小規模の斜面変動も,同カルデラの内部に多数発生している.
今回の地震に伴って発生した大規模地すべりは,相互の空間的関連からみる限り,震源近傍(上盤側)に位置していたカルデラの存在が重要な要因であった可能性が高い6)7).脊梁山地に分布するカルデラ内部にはそれを充填する大規模火砕流堆積物の上に後カルデラ期の湖成堆積物が載ると共に,それを後火山活動期の火砕岩や溶岩が緩傾斜で広く覆っている場合が多い.多くのカルデラで,キャップロックを成す後火山活動期の火山岩類が,固結度が低い湖成堆積物の層理面に沿う塑性流動によって生じたすべり面で,大規模な地すべりを起こしている7)8).また,第四紀火山の下に伏在するカルデラの,特に熱水変質が進んだ壁に沿って,多数の地すべり地形が分布する例もある6)7).
荒砥沢ダム上流に発生した大規模地すべりでは,末端部に砂泥互層(湖成堆積物)が分布し,主滑落崖では,厚さ50m以上の塊状軽石凝灰岩の上位に,厚さ60mのデイサイト質溶結凝灰岩が覆っているのが認められる.今回の大規模地すべり発生箇所の地質も,固結度が弱く密度の低い凝灰質湖成堆積物の上位に,硬質で比較的高密度の火山岩類が分布するキャップロック構造を有している.

3.東北地方のカルデラ分布と自然災害ハザード

脊梁山地には12Ma以降に形成されたカルデラが南北に配列している.とりわけ,栗駒火山周辺には,カルデラが密集してカルデラクラスタを構成している(第2図)3)4).今回の地震断層は,マントルから下部地殻にかけて,低速度体が発達し,地震発生層が薄い脊梁火山列分布域の海溝側肩部(火山フロント)に沿っている.この地帯は脊梁山地のカルデラクラスタ分布域と重なっている.伏在カルデラを第四紀火山が覆う今回の地震災害域と同様の地質的環境は,東北地方の多くの地域で認められる.これらの主に後期中新世から鮮新世にかけて形成されたカルデラについては,栗駒地域同様,第四紀火山噴出物に広く覆われ,その構造の詳細が不明な場合が多い.今後,これらのカルデラについて,その地質構造と地すべり分布の関係に関する情報をさらに整理し,今後の防災・減災に生かすことが望まれる7).

第2図.東北地方のカルデラと地質断層,第四紀火山の分布状況.地質断層,第四紀火山,および活断層分布は東北地方デジタル地質図1)を使用.
*クリックすると大きな画像をご覧頂けます。

参考文献

1) 建設技術者のための東北地方の地質,東北建設協会,2006.
2) 地圏環境インフォマティクス,東北大学大学院環境科学研究科,2008.
3) 吉田武義・相澤幸治・長橋良隆・佐藤比呂志・大口健志・木村純一・大平寛人:東北本州弧,島弧火山活動期の地史と後期新生代カルデラ群の形成,月刊地球,号外27,p.123〜129,1999.
4)吉田武義・中島涼一・長谷川昭・佐藤比呂志・長橋良隆・木村純一・田中明子・Prima,O.D.A・大口健志:後期新生代,東北本州弧における火成活動史と地殻・マントル構造,第四紀研究,vol44,No.4,p.195〜216,2005.
5) 大竹正巳,栗駒南部地熱地域,赤倉カルデラの層序と火砕流噴出・陥没様式,地質雑,vo1.106,No.3,p205〜222,2000.
6) 大八木規夫・池田浩子,地すべり構造と広域場からみた澄川地すべり,地すべり, Vol.35,No.2, p1〜10,1998.
7) 大八木規夫,東北地方北部における地すべり地形と後期中新世−更新世のカルデラ,深田地質研年報, No.1,p112〜127,2000.
8) 大八木規夫,東北地方南部における大規模地すべり地形とカルデラ−主として会津地域について−,深田地質研年報, No.2,p121〜135,2001.
9)2008年岩手・宮城内陸地震による斜面災害の空中写真判読図,(社)日本地すべり学会,http://japan.landslide-soc.org/
10) 平成20年岩手・宮城内陸地震 荒砥沢ダム上流地すべり調査報告,(社)日本地すべり学会東北支部,http://wwwsoc.nii.ac.jp/thb-jls/


 

 

本稿は日本地質学会のために特別に寄稿頂きました。