新燃岳噴火とハザードマップと霧島ジオパーク

2011.2.14掲載 *無断転用禁止

霧島市企画政策課霧島ジオパーク推進室
室長 坂之上浩幸

 

 平成23年1月26日の噴火に始まった今回の新燃岳の活動は,今後どのような経過をたどっていくのか,未だ予断を許さない状況で,霧島山周辺の自治体は緊張を強いられています.ここでは,ここ2年ほどの新燃岳の様子を紹介していきたいと思います.

 

写真1 1月26日噴火

 平成20年8月22日,新燃岳における火山性微動の振幅が大きくなり,小規模な噴火が観測されました.気象庁による噴火警戒レベルは2(火口周辺規制)とされ,霧島山北東部の小林市方面で降灰が観察されました.これがこの一連の噴火活動の始まりであったと考えられます.
同年10月には火山性微動,噴煙量ともに少なくなり,噴火警戒レベルは1(平常)に戻されましたが,その後コバルトグリーン色であった火口内の池の色が,一時期茶褐色に変色するなどの現象が観察されています.
平成22年3月30日には小規模な噴火が起き,噴火警戒レベルは2に引き上げられました.4月に入り,警報は一時解除されますが,5月には再びレベル2となりました.

 
 写真2 平成22年3月14日の火口.
 
  写真3 平成22年7月10日の噴火.

平成22年7月10日にも小規模な噴火が起きています.噴煙は火口縁上300mまで上がり,雲まで到達しましたが,この時の噴火ではコックステールジェットが観察されています.また,火口縁南部分で小規模な火砕流が発生したようです.(写真3 霧島ネイチャーガイドクラブ提供)
この冬,寒くなり始めた頃から白い噴気が高く登る場面が多く見受けられるようになり,ついに年明けの1月19日には降灰を伴う噴火がありました.霧島山南東部の都城市から日南市にかけて降灰があり,都城市夏尾地区では周囲が一面雪とまちがうばかりに白く変貌しています.(写真4都城市西岳市民センター提供)
1月26日午後3時過ぎ,細く噴煙をたなびかせる間欠的な噴火が続いた後,激しい噴火がはじまりました.写真1はその時の噴火の始まりを火口から西へ約3000mの地点の新湯温泉入口から撮影したものです.(平成23年2月8日現在立入り禁止)この噴火を皮切りに活発な噴火活動が始まり,風下側の新燃岳東部・南東部にあたる高原町,都城市には大量の火山灰・軽石が降下しています.
2月1日7時54分には,激しい空振を伴う爆発的噴火が起き,霧島市霧島,同牧園町高千穂地区を中心に,ガラスが破砕されるなどの被害がありました.あるホテルでは窓ガラスが100枚割れたり,また,出入り口のガラス戸がアルミフレームごと変形したり(写真5),地下にあったガラス引き戸も明り取りの吹き抜けから衝撃が入ったのか,粉砕されており,空振の激しさを物語っています.
また,この噴火では立入禁止区域である3000mの区域を越えて,噴石が飛散し山火事を起こしています.この噴火で立入禁止区域が4000mに拡大されました.
その後,火口内の溶岩湖の直径が600mになり,断続的に噴火が続いている状況です.(2月7日時点)今回の新燃岳の噴火活動は,まだまだ終息が見えない状況で予断を許されない状況です.
 

写真4 降灰による都城市内の様子.

写真5 空振によるフレームの変形.


さて,霧島山をとりまく5市2町の自治体(宮崎県都城市,高原町,小林市,えびの市,鹿児島県湧水町,霧島市,曽於市)でつくる環霧島会議という組織があります.この組織は県境を越えて観光・防災・広報・教育などの共通の課題に広域的に取り組むために平成19年に設立されました.この中の防災部会で,霧島山の噴火にともなう災害対策のために,国土交通省宮崎河川国道事務所及び鹿児島大学井村准教授にご協力をいただき,「霧島火山防災マップ」を平成21年に作成し,霧島山周辺の世帯に配布しました(図1参照).

図1 霧島火山防災マップ.   図2 副読本「ふるさとの山霧島山」.


 


この防災マップには,噴火の可能性が高い火山が噴火した場合の溶岩流,火砕流・火山泥流などの到達経路と範囲がシミュレーションにより表示されており,今回の新燃岳の噴火に際し大きく役立っています.
また,昨年9月,環霧島地域では霧島山とその周辺が日本ジオパークとして認定されました(図2参照).ジオパーク活動の推進においては,「防災」や「教育」という一面も大切なことです.防災マップ作成後に開催した住民向けの火山防災講演会やジオガイド要請講座を通じて,多くの方に火山災害の脅威と防災について周知活動を続けるとともに,

写真6 霧島火山防災講演会.


 


小・中学校でも霧島山の火山の成り立ちや自然を解説した副読本「ふるさとの山霧島山」を活用するといった,火山地域に住むために必要な防災情報の提供に取り組んできました(写真6).
 


いつ終わるとも予測がつかない新燃岳の噴火ですが,霧島ジオパークにはこの火山活動も織り込み済みで,霧島ジオパークのテーマは「自然の多様性とそれを育む火山活動」です.火山活動があるから,ミヤマキリシマなどの植物が植生遷移を繰り返すという自然のサイクルをここで観察することができます.
噴火が収まり,規制が解除になりましたなら,この地球の息吹が感じられる霧島山に皆様是非おいでください.
最後に,新燃岳の活動が早期に終息し,環霧島地域の皆様が一日も早く通常の生活に戻れることを願ってやみません.

  ■ 霧島ジオパークのサイト(リンク)