中国四川省の地震

発生日:2008年5月12日(月)

発生時間:14:28(現地時間), 15:28 (日本標準時間)

震源地:中華人民共和国 四川省、北緯31度01分5秒、東経103度36分5秒

震源の深さ:19km

マグニチュード:7.9 -> 8.0 (5月18日修正)

関連断層:龍門山断層


2008年5月12日中国四川省の地震について


東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻
池田 安隆

四川省・成都の北西約100 km を震央とする大地震が5月12日15:28(日本時間)に発生し甚大な被害をもたらしました.この地震のモーメント・マグニチュード(Mw)は7.8 (1)であり,これは大正関東地震(1923年;Mw 7.9)の規模に匹敵し,プレート内部で起こる地震としては最大級です.

余 震は,龍門山断層帯(Longmen Shan Fault Zone)に沿って,主震の震央から北東方向約 300 km にわたって帯状に分布しています (1).また,発震機構は,ほぼ南北走向・東傾斜の節面と北東走向・西傾斜の節面とからなる逆断層型であり(1),後者が余震分布と調和的であることから 今回の地震を起こした断層面であると考えられています.これらのデータは,今回の地震が龍門山断層帯の活動によるものであることを強く示唆します.同断層 帯に沿って地表地震断層が出現したかどうか未だ十分な情報がありませんが,地震直後に現地入りした静岡大学の林愛明氏によれば,最大3 mの垂直ずれを伴う北西傾斜の地震断層が出現したとのことです(2).

私たち(東郷正美, 越後智雄,田力正好,岡田真介,池田安隆)は,数年前から中国地震局の何宏林氏等と共同で,チベット高原南東部の康定断層帯(Kangding Fault Zone;鮮水河-小河断層帯 Xianshuihe-Xiajiang Fault Zone とも呼ぶ;付図参照)の研究を行っています.今年もついひと月前迄現地調査を行い成都を経由して帰国したばかりのところに,突然飛び込んだ大地震の知らせ でした.正直に告白すると,龍門山断層帯がこのように大きな地震を起こすとは,私は予想していませんでした.むしろほとんど死んだ断層であると思っていた のです.

龍門山断層帯は,揚子プラットフォームの北西縁を画する西傾斜の逆断層帯(の一 部)であり(付図参照),主な活動時期は三畳紀後期〜白亜紀です.この時期に,四川盆地とその南西の雲南省東部には,赤色砂岩・頁岩を主とする厚い陸成層 が堆積していているので,これらの地域は典型的な foreland basin を成し,その北西側には大規模な山脈が形成されていたと考えられています(3).揚子プラットフォーム上にはそれ以降,山脈の荷重による沈降を示すような 堆積物は存在せず,したがって龍門山断層帯の活動は衰えたと考えられます.第四紀におけるこの断層の垂直ずれ速度は1 mm/年以下であり(4),チベット高原内部に発達する横ずれ断層群のすべり速度(5)に比べて一桁小さな値です.

三畳紀後期〜白亜紀における山脈と盆地との境界は,現在のチベット高原の縁とは必ずしも一致しません.両者が一致しているのは四川盆地の北西縁だけで,それ より南西では,かつて foreland basin だったところが隆起してチベット高原の一部になっています(付図参照).今回地震が起こった四川盆地の北西縁は 5000 m にもおよぶ起伏があり,これは高ヒマラヤ南斜面に匹敵します.この起伏が形成された時代はもちろん新第三紀〜第四紀ですが(3) (6),上述のようにその原因を龍門山断層帯の活動に帰することはできそうにありません(3).チベット高原がどうやって拡大してきたか,そのメカニズム は未だ十分理解されていません.何故ここでこんな大きな地震が起きたのかを解明するには,一見無関係に見えるこの大問題を解くことが必要です.


(1) USGS Earthquake Center,   http://earthquake.usgs.gov/eqcenter/recenteqsww/Quakes/us2008ryan.php
(2) 広島大学・奥村晃史氏よりの私信,2008年5月17日.
(3) Burchfiel, B. C., Chen, Z., Liu,Y., and Royden, L. H., 1995, Tectonics of the Longmen Shan and adjacent regions: International Geology Review, 37, 661_735.
(4) たとえば,Densmore, A.L., et al., 2007, Active tectonics of the Beichuan and Pengguan faults at the eastern margin of the Tibetan Plateau, Tectonics, 26, TC4005.
(5) たとえば,He, H., and E. Tsukuda, 2003, Recent progresses of active fault research in China, J. Geography, 112, 489-520.
(6) たとえば,Kirby, E., et al., 2002, Late Cenozoic evolution of the eastern margin of the Tibetan plateau: Inference from 40Ar/39Ar and (U-Th)/He thermochronology, Tectonics, 21, 1001.


(クリックすると大きな画像がご覧頂けます)
震源域とその周辺の地形・活断層と主な歴史地震の分布.活断層(赤線)と歴史地震の震央(マグニチュード7以上)は,主として「中国活動構造図」(中国地 震 局,2007)による.青い太線は,揚子プラットフォームの北西縁(Burchfiel et al., 1995 による).

地球惑星科学連合大会での緊急発表

地球惑星科学連合大会で地質学会会員からは下記3件の報告がなされます。
(5月26日、幕張)

1)寺岡易司・奥村公男・神谷雅晴
2)奥村公男・寺岡易司・神谷雅晴
3)神谷雅晴 ・寺岡易司・奥村公男

東アジアの地質図,鉱物資源図等を用いて、被災地域の地質を説明いた
します。参考資料は、
 http://www.gsj.jp/jishin/china_080512/index.html

地球惑星科学連合大会緊急ポスターセッション

5月26日 場所:ポスター会場
掲示時間:  10:00-19:30
コアタイム: 17:15-18:45

ミャンマーサイクロン
水文水資源学会、気象学会合同:7件

四川省地震
地震学会:14件
測地学会:4件
地質学会:3件

緊急現地調査報告会
5月26日12時50分ー13時30分 場所:303号室
静岡大学 林 愛明 教授が現地調査結果を速報


外部関連リンク

USGS Earthquake Center:速報および地震概説、過去の記録などがまとめられています。
http://earthquake.usgs.gov/eqcenter/eqinthenews/2008/us2008ryan/
産総研:震源地域の地質、構造、過去の地震、文献などがあります。
http://www.gsj.jp/jishin/china_080512/index.html
東京大学地震研究所:震源解析(暫定解その2)や簡単なテクトニクス解説があります。
http://www.eri.u-tokyo.ac.jp/topics/china2008/
名古屋大学NGY地震学ノート:震源解析と解説があります。 
http://www.seis.nagoya-u.ac.jp/sanchu/Seismo_Note/2008/NGY8a.html
筑波大学西村直樹・八木勇治さん:震源解析の図とアニメーションおよび解説があります。
http://www.geol.tsukuba.ac.jp/press_HP/yagi/EQ/20080512/
JAXA:
陸域観測技術衛星「だいち」による地震前後の地形変化
http://www.eorc.jaxa.jp/ALOS/img_up/jdis_av2_eq_080515.htm
日本建築学会:各種情報が網羅されている
GUPI(地質情報整備・活用機構)
http://www.gupi.jp/link/link-a/sichuan.html
政府の対応(外務省発表)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/china/jishin08.html