日本地質学会は,大韓地質学会からの要請に基づき,2024年に韓国釜山で開催予定の万国地質学会議(IGC)2024をサポートする旨を2016年に大韓地質学会宛にサポートレターを送付し表明していましたが,このたび諸問題によりこのサポートレターを撤回するに至りました.サポートレターの撤回については2022年9月16日付けでIGC2024の現地組織委員会(LOC)に通知しております.
以下に,日本地質学会が韓国IGC2024開催に対するサポートの表明と撤回の経緯を説明いたします. また本件に関し,会長より会員の皆様に重要なメッセージがあります.会員ページをご覧いただけますようお願いいたします.
● 2015年,韓国の地質コミュニティーによる2024年のIGC開催地立候補に際し,大韓地質学会から日本地質学会に対して,日本国内での巡検実施などに対する協力要請がありました.日本地質学会は,韓国の地質学/地球科学コミュニティーと共に発展することを願い,大韓地質学会からの依頼に基づき,巡検の協力も含め全力でサポートする旨を表明したサポートレターを2016年4月1日付け会長名で大韓地質学会宛に送付しました.また,当時の学会長の個人的なサポートメッセージも4月23日付けで大韓地質学会宛に送付されました.同時に,韓国の開催地申請への協力案として,日本国内で潜在的に実施可能と考えられた10コースの巡検案を提示しました.
● 2016年にIGC2024の韓国開催が決定されました.その後,韓国LOCによる開催準備が開始されたものと推察されます.しかし,2016年から2021年までの約5年間,韓国LOCから日本地質学会に対して,巡検計画を含むIGC関係の情報提供や相談は一切なされませんでした.そして,2021年に韓国LOCはウェブページにおいて,突然IGC2024計画案を示しました.その中には,領有権を巡って日韓両国間で政治的に対立している竹島での巡検企画が含まれていました.また,2016年に日本側が提示した巡検案(上述)の一部の用語,具体的には[Japan Sea]という単語が[East Sea (Japan Sea)]と,日本側に無断で書き換えられていました.さらに,その他の箇所にも[East Sea]の表記が使われていました.この海域は,世界標準である国際水路機関によるガイドラインでは[Japan Sea]が唯一の名称とされていますが,現在,両国政府間の外交問題となっていることは会員の皆様もご承知のことと思います.この時点で日本地質学会は,IGC2024が韓国の政治的主張を展開するために利用されることに危惧を覚え,日本からの協力や参加が困難である状況を認識しました.
● 2021年8月末以降,こうした国際的に問題のある状況を改善し,日韓両国の良好な協力体制の基にIGC2024が開催できるよう,日本地質学会は韓国LOCに対して協議・調整を提案し,双方の合意が得られるまでの間,ウェブサイト上での巡検表示をしないことを求めました.そして,両者間の第一回目のリモート会議が2021年9月27日に開催されましたが,LOC側の反応は鈍く,具体的な議論の進展がないまま半年が経過しました.この時期以降,日本地質学会は日本学術会議メンバーと共にこの問題について議論を重ねてまいりました.その結果,この問題については日韓の当事者間だけではなく第三者の意見が必要と判断しました.2022年3月16〜18日に開かれたIUGS(国際地質科学連合)理事会に日本の委員(学術会議地球科学部門の対応委員)がリモート参加し,IUGSの参加委員全員に対してIGC2024開催案に内在する問題点(竹島巡検の計画と日本海の呼称)を説明し,IGCプログラムは国際的な合意のもと,国際的な政治的不一致を含まないことが重要であると主張しました.この理事会ではIUGS執行部から両国の関係者間できちんと協議するようにとの指示を受けました.
これを契機に,韓国LOCと日本地質学会を含む日本側関係者との間の協議が活発化し,2022年3月22日,5月12日,6月21日および7月29日に計4回のリモート会議を行いました.2022年6月21日のリモート会議において,韓国LOCは「竹島巡検の撤回」を表明し,次回のLOC会議で正式決定すると伝えてきました.そして7月29日のリモート会議において,韓国LOCは「竹島巡検の撤回」および「日本海の呼称については両論併記」を表明しました.一方,日本側からは,日本海の呼称問題解決の打開案として,近年,国際的に採用されつつある「名称自体を使わず,国際海洋コードを使用する方法」を提案しました.本提案に対し,韓国LOC側は翌週には回答したいとのことでした.
● その後1週間経過しても韓国LOC側からの回答はなく,日本側から数回にわたり回答要請のメールを送付しました.無回答状態が一ヶ月以上続きましたが,2022年9月9日に韓国LOCから日本地質学会長(ただし14年前の会長名)宛の回答が来ました.そこには,竹島巡検は中止ではなく中止を「検討中」であること(中止検討理由は時期的に天候が不安定であるため),およびIGC2024における日本海の正式表記をEast Sea/Japan SeaとすることがLOCの最終決定として記されていました.この間,LOCはウェブサイトでの表示を一切変更しませんでした(現在は、ウェブサイト上での巡検表示はされていません;2022/11/24現在).
● 日本地質学会および関係者はこの回答に大変失望しました.1年間の長い交渉を行ってきたにもかかわらず,韓国LOCは頑なに自らの主張をするのみでした.韓国LOCの最終決定に鑑み,日本地質学会は,2016年4月1日送付のサポートレターおよび2016年4月23日送付の当時の学会長によるサポートメッセージを撤回せざるをえないという結論に至りました.
日本地質学会としては,今回の件を極めて遺憾であると判断しています.韓国地質コミュニティーが今後,国際協調を踏まえたより健全な方策を模索し,IGC2024を成功に導くことを願います.
April 1, 2016
Dear Dr. Daekyo Cheong and Dr. Kyu-Han Kim:
I was delighted to hear about your proposal to bring the 37th International Geological Congress (37th IGC) to Busan, Korea. I am sure Korea would be an excellent location for this meeting. and I am pleased to offer my full-hearted support to GSK and KIGAM for their proposal. I think the following points make this a timely and well-considered proposal.
There are many links between geoscientists in Korea and Japan both on a personal level and through their affiliated organizations. In particular, I would like to mention the Memorandum of Understanding between the Geological Societies of Korea and Japan signed in 2007. Regular meetings between the leaders of both organizations have helped develop excellent relations between our two Societies and the 37th IGC would be an ideal opportunity for further development. In particular, the Geological Society of Japan would be able to help with the conference-related field trips that would include visits to classic locations in Japan.
Sincerely yours,
Yasufumi IRYU
President of the Geological Society of Japan,
Professor of Geology at Tohoku University
【参考2】2022年9月16日付 IGC2024 LOC宛サポートレター撤回の文書
(2022.10.27掲載)