日本地質学会は,北海道札幌市の北海道大学札幌キャンパスにて,第125年学術大会(2018年札幌大会)を「イランカラプテ − 地質学が拓く夢・未来」というテーマで9月5日(水)〜7日(金),巡検(見学旅行)を8日(土)〜9日(日)に開催します.「イランカラプテ」とはアイヌ語で「こんにちは」を意味し,最近,北海道のおもてなしのキーワードとして推奨されています.また,「地質学が拓く夢・未来」は開拓者精神あふれる,未来志向の北海道で開催する地質学会であることを表現します.なお,前回,北海道大学において開催された本学会の大会は第114年学術大会(2007年)で,今から11年前になります.
日本地質学会は本年125周年を迎えますが,2018年は北海道創立150周年に当たります.明治維新が1868年で,北海道は明治維新と同じ年に創立されたという訳です.北海道は鉱産資源に富み,最近まで多くの鉱床で種々の金属資源が稼行されたほか,特に夕張炭田に代表される質の良い石炭を産することで有名です.そのため,北海道ではその広い面積にも拘わらず,戦後,地質調査所のほか,北海道立地下資源調査所(現北海道立地質研究所)によって,地質調査が精力的に進められ多数の地質図幅が刊行されました.また,北海道中央部-西部にも西南日本の帯状構造が基本的には連続していると考えられていますが,グラニュライト相に至るまでの連続大陸地殻断面を見せる日高変成岩や典型的な高圧型変成岩である神居古潭変成岩,極めて保存の良いことで知られる幌満カンラン岩体,さらに活動的な島弧火山は本州の地質にも増して魅力的であり北海道の地質は多くの地質学者の興味を引き付けて来ました.それらの地質体の中でも白亜系蝦夷層群は,その規模,層序の連続性,アンモナイトに代表される大型化石の産出により本州からも多くの地質学者が駆け付けて生層序および堆積学的
研究を行ったほか,近年ではK-T境界や無酸素事変の研究フィールドとして注目されています.しかし,現在は北海道のフィールドで地質学的研究を行っている研究者数は非常に少ないと思われ,日本の他のフィールドと同様,野外地質離れが進行していることは残念なことです.
最近は,未曾有の被害を引き起こした2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震を始めとし,大型の地震災害,火山災害および気象災害による土砂災害が頻発しており,自然災害防止のため地質技術者の需要が大変高まっています.さらに,最近になって大型プロジェクトとして海底資源開発が開始されたほか,原子力発電の代替エネルギーとして地熱発電が再び見直され,その開発が進んでいます.原子力発電所の再稼働については後期更新世以後の活動が否定できない活断層が原発敷地内にないことが条件とされるという基準が設けられ,この判定には地質学会会員の一部が関わっています.このように,地質学の需要はかってないほど高まって来ていますが,地質学会会員数は減少の一途をたどっているほか,各大学の地質系学科等は社会の需要に応えるほどの十分な数の人材を輩出出来ていません.地質学会全体としても,この社会の地質学のニーズにどう応えていくか,本格的な対策を講ずる必要があるように思われます.
一方で,日本全国におけるジオパーク設立に向けた運動は,かってないほどの広がりを見せ,“ジオ”という用語が“バイオ”とともに国民にとって馴染みのある言葉となり地質学を後押ししています.北海道は日本のジオパーク運動を牽引しており,「洞爺湖有珠山ジオパーク」,「アポイ岳ジオパーク」,「白滝ジオパーク」,「三笠ジオパーク」および「とかち鹿追ジオパーク」の5つが「日本ジオパーク」に認定されているほか,最初の2つのジオパークは,「ユネスコ世界ジオパーク」にも認定されています.また,昨年の日本地質学会第124年学術大会では「ブラタモリ」制作チーム(日本放送協会)が地質学会表彰を受賞しましたが,国民目線で地質学がより身近になってくれば将来地質学の研究者・技術者を目指す若者も増えてくると期待されます.
北海道の地質のすばらしさは上記の通りですが,皆様には,主として本大会後半に準備されている巡検に是非参加され,北海道の地質を堪能していただきたいと思います.なお、通常の巡検とは別枠で通称ブラタモリ巡検「コトニ川・サッポロ川や豊平川の原風景」を用意しています.こちらも奮ってご参加ください.
なお,昨年の愛媛大会と同様,9月上旬の北海道は観光客が多い時期で,ホテル・旅館は大変混みあうことが予想されます.札幌大会に参加される会員の皆さんは,是非,早めの宿泊予約をお願いいたします.
札幌大会の成功に向けて,大会実行委員会,北海道大学理学研究院・地球環境科学研究院,北海道支部幹事一同努力を重ねております.実りの多い大会になりますよう,皆様のご参加を是非お待ちしております.我々は125周年地質学会札幌大会が日本の地質学の復活に向けての第一歩となることを祈っています.それでは,札幌でお会いしましょう.