討論会「日本海沿岸褶曲・断層帯の形成・成長と地震活動」報告


11月25日に,新潟大学において表記の討論会が構造地質部会主催・新潟大学後援で開催された.また,それに先立ち,24日に小林健太・大坪 誠・栗田裕司氏の案内で新潟県中越沖地震を起こした断層との関係が注目されている鳥越断層の地形と露頭〜中央油帯と海岸付近で新潟のNeogeneの標準層序(魚沼・灰爪・西山・椎谷・寺泊の各層)の見学を実施した.プレ巡検の模様は河本和朗氏により記載されるので,ここでは討論会の記録を記す.

 

 今回の討論会の趣旨は,次のようなものである.

 1995年兵庫県南部地震以降,日本海側で大きな内陸地震が頻発し,甚大な被害をもたらしており,3年前の10月23日に発生した新潟県中越地震に引き続いて今年7月16日に中越沖地震が発生し,柏崎刈羽原発が被災した.構造地質部会では,理事会との共催で9 月の札幌地質学会での緊急パネルディスカッション「我が国の防災立地に対する地球科学からの提言− 平成19年新潟県中越沖地震にあたって−」を開催し,原発立地問題も視野に入れた断層を含む地質構造のより精密な調査が社会的要請として重要であることが示された.このPDをキックオフとし,次の企画として,伊藤谷生地質学会副会長と構造地質部会事務局が中心となり,日本海沿岸に発達する褶曲・断層帯の形成・成長と地震活動に関する討論会を新潟大学で開催することになった.その目的は,地表付近に表れている活断層と,内陸地震の震源域(20〜10km)の震源断層とをどのようにつなげるかを考えるための勉強会,として位置づけられたものである.今回は予め招待講演者を決めて次のような口頭発表のプログラムを組み,そのほか一般からの講演申し込みを受付け,14件のポスター発表が行われた.

 

・2004中越・2007中越沖地震     
(1)羽越沿岸域の地質構造とその形成史              
小林健太:新潟地域の地質構造と活断層−中越沖地震に対する影響と反映
立石雅昭:北部フォッサマグナ新生界標準層序と地質構造
(2)地震・測地学的諸データの提示と解釈              
酒井慎一・2007年中越沖地震合同余震観測グループ:複雑な2007年中越沖地震の余震分布
山田泰広・葛岡成樹・水野敏実・松岡俊文:中越地域におけるPSInSAR解析による地表変動解析とモデル実験の比較
(3)地震探査諸成果からみる地殻構造と地震活動              
佐藤比呂志・加藤直子:日本海沿岸褶曲−逆断層帯における震源断層の問題について
岡村行信 :日本海東縁の地質学的歪み集中帯と震源断層  
長 郁夫 :活断層のモデルと大地震連鎖のシミュレーション  


・北陸〜山陰沿岸域の地質構造とその形成史(レビュー)

竹内 章:北陸〜北信越の地質構造とその形成史  
山本博文:若狭湾周辺地域の地質構造  
沢田順弘 :中国地方における後期新生代の諸問題  

・リフト形成期〜反転期の力学的条件と堆積盆の発達過程
山路 敦: 日本海のリフティング
竹下 徹:大陸地殻のレオロジーに基づく内陸地震再来周期の一つのモデル:何故,ノーマ
ークの活断層で地震は頻発するのか?  
山田泰広:コメント)アナログモデル実験による堆積盆発達過程の知見      


・地震活動と断層および断層岩

藤本光一郎:震源断層掘削研究の成果と到達点:野島断層とチェルンプ断層を例として  
金折裕司:山口−出雲地震帯と地質断層の再活動性  

 今回の参加者は73名に達し,大変盛況であり,活発な議論があった.中越沖地震の震源断層が,北西傾斜か南東傾斜かという議論が続いているが,情報が蓄積されて地震研の酒井さんが報告された中越沖地震の余震分布の断面図を見る限り,南東傾斜が優勢であるものの,バックスラスト的な北西傾斜の断層の存在も浮かび上がってきたという印象を受けた.また,能登半島や日本海の活断層を検討している岡村氏の講演をはじめ,新潟(立石・小林氏),富山(竹内氏),福井(山本氏),島根(沢田氏),山口(金折氏)など,北陸〜山陰の最近の地震多発帯からそれぞれ研究者を招いて地質学的背景と地震断層関連の話を聞くことができた.山田氏と葛岡氏のPSInSAR解析を用いた話は,人工的な変動をフィルターにかけられれば,地殻変動をとらえる上で強い武器となることを予感させた.講演会では何人かの方から地質学者の役割について触れられていたが,佐藤氏も指摘されていたように,震源域における地質がどのようになっているのか,断層を発生させる,また断層の姿勢を決める地質学的制約条件を明らかにすることが重要であることを改めて認識するよい機会であった.金折氏の講演でも,「日本の活断層」に掲載されていない,最近認識された山口県内の大きな活断層も,地質断層としてはすでに知られていたもの,という紹介があった.

 参加者は大学や各研究機関はもとより,電力会社の方も数人参加されていたが,学生は新潟大を除くと少なかった.プレ巡検では初めて見る新潟の褶曲−断層帯が大変印象深くて私自身感動したが,今後さらに学生が参加しやすいような配慮も必要であろう.

 今回の討論会では,今年3月の構造地質部会白浜例会にひきつづき,部会事務局メンバー(とくに重松紀生,大谷具幸,小林健太,松田達生,大坪 誠の諸氏)が中心となって準備を行った.とくに,新潟大の小林健太氏には,巡検の準備と案内,会場の準備や招待講演者の宿泊の手配に至るまで,大変お世話になった.また,前日に行われた懇親会では,後援を受けた新潟大学の代表として理学部長の周藤賢治 教授,さらに地質学会理事の宮下純夫 教授から挨拶を賜ったが,新潟大学には大きなバックアップをしていただいた.さらには新潟大学の学生さんに,受付や会場設営,進行補助から後片付けに至るまで,お手伝いいただいた.ここに厚くお礼申し上げる.講演要旨は残部があるので,ご希望の方は地質学会に問い合わせていただきたい.

 

 なお,構造地質部会では,内陸地震と断層モデルに関する行事はこのまま終わらせることなく,来年度以降も竹下 徹 新部会長のもと,新たな事務局メンバーで,夏に地震反射断面やバランス断面図の読み方や作製法に関するセミナーを開催する予定である.そのほか,「構造地質と応用地質(とくに石油地質や防災関連)の接点」に関する例会も開催する予定である.

 

2007年11月28日
構造地質部会長 高木秀雄