Petrogenesis and chemogenesis of oceanic and continental orogens in Asia: Recent progress (P-I)
Guest Editors: Rehman Hafiz Ur, Tsujimori Tatsuki, Okamoto Kazuaki and Spengler Dirk
アジア地域の造山帯構成岩の岩石化学成因論:最近の話題 I
Rehman Hafiz Ur・辻森 樹・岡本和明・Spengler Dirk
序文
Rehman Hafiz Ur・辻森 樹・岡本和明・Spengler Dirk
本特集号は,「日本地球惑星科学連合2013年度連合大会国際シンポジウム」の講演を中心として,アジア地域(中東アジアを含む)の造山帯構成岩の岩石化学成因論に関する最近の話題まとめたものである.
収録した論文のテーマは,プレート境界域の太平洋型・大陸衝突型造山帯を構成する高圧・超高圧変成帯,オフィオライトの構成岩類の他,大陸リフト帯のマントル捕獲岩の研究など多岐にわたる.
特集号(本号・次号)の序文として本号掲載の5編についての内容を紹介した.
高圧・超高圧エクロジャイトの鉱物相関係モデリング
高圧・超高圧ローソン石エクロジャイトの鉱物組成共生関係をモデリングした.MORB全岩組成をもちいたシュードセクションの計算結果は,ローソン石エクロジャイト相において,低温高圧,低温超高圧,中温超高圧の3つの亜相を区別し,それぞれの亜相において安定な鉱物組み合わせとざくろ石のパイロープ・グロシュラー成分,及び,フェンジャイトのSi含有量の温度・圧力に対する変化傾向と全岩組成依存性を予測した.また,モデリングは,それぞれの亜相の鉱物組み合わせが減圧で変化するさいに,ローソン石の脱水反応,すなわち,ローソン石の消滅とそれに伴う藍閃石・緑れん石(あるいは,藍晶石)の形成によって,大量の水流体を放出することを予想した.
Key Words: basic rock, geothermobarometer, HP-UHP eclogites, pseudosection.
四国中央部別子地域の三波川変泥質岩中に含まれるザクロ石斑状変晶に記録された複合変成履歴
纐纈佑衣・榎並正樹・毛利 崇・岡村光哉・櫻井 剛
四国中央部の別子地域三波川帯に産する変泥質岩中のザクロ石に記録された複合変成履歴について検討した.当地域におけるザクロ石の多くは,成長した後に融食を被った内側部分とその後に再成長した外側部分で特徴づけられる複合累帯構造を示す.ザクロ石の内側部分はNa相包有物として主にパラゴナイトを,また稀にオンファス輝石や藍閃石を含む.一方,外側部分は稀にアルバイトを含んでいるがパラゴナイトは見出されない.内側部分はエクロジャイト相条件に相当する高い残留圧力を保持する石英を包有しているのに対し,外側部分は緑簾石–角閃岩相程度の条件に相当する低い残留圧力を保持する石英を含んでいる.これらの情報から,複合累帯構造を示すザクロ石は,累進エクロジャイト相ステージ → 減圧・加水反応ステージ → 累進緑簾石–角閃岩相ステージの変成履歴が推定される.エクロジャイト相変成作用を被ったと考えられる複合累帯ザクロ石を含む変泥質岩は,オンファス輝石 + ザクロ石の組合せを保持する変塩基性岩の広がりから提案されていたエクロジャイトユニットよりも広範囲に分布している.このことは,従来の想定よりも多くの堆積岩類が塩基性岩類と共にマントルへと沈み込んでいる事を示す.また,本研究により,(1) ザクロ石の化学組成累帯構造,(2) Na相包有鉱物の種類,(3) 石英包有物の残留圧力の組合せが,従来の手法では検討の難しかった変泥質岩が被った高P/T型累進変成作用時の温度圧力条件を評価するのに有効な手法である事が示された.
Key Words: chemical zoning, garnet porphyroblast, metasediment, Raman spectroscopy, residual pressure, Sambagawa belt, sodic phase mineral.
長崎県野母半島の長崎変成岩類中のロディンジャイトの形成―U-PbとHf同位体と微量元素からの証拠
福山繭子・小笠原正継・Daniel J. Dunkley・Kuo-Lung Wang・Der-Chuen Lee・外田智千・牧 賢志・平田岳史・昆 慶明
長崎県野母半島に分布する長崎変成岩類中の蛇紋岩メランジには,岩脈状と塊状の2種類のロディンジャイトが観察される.共に短柱状ジルコンが含まれ,岩脈状ロディンジャイトには多孔質ジルコンも存在する.短柱状ジルコンは,ロディンジャイトの主要構成鉱物であるザクロ石が包有物として観察されることから,ロディンジャイト化の際に結晶化したと考えられる.またこのジルコンには初生的な流体包有物が存在し,流体の存在下にあったと分かる.一方で多孔質ジルコンは,短柱状ジルコン形成の後に,熱水から直接結晶化したと考えられる.短柱状ジルコンのSHRIMP U-Pb年代は108-105Maと得られ,沈み込み帯におけるロディンジャイト化の年代を示す.岩石の微量元素組成とジルコンのHf同位体は,ロディンジャイト化に関与した流体がMORB組成を反映し,ロディンジャイトの原岩からLILE元素を溶脱させSrを付加したことを示唆し,この間,HFSE元素は動かなかったと考えられる.
Key Words: Cretaceous subduction, Hf isotope, rodingite, the Nagasaki metamorphic rocks, zircon SHRIMP U–Pb dating.
リオグランデ・リフト軸部,側面の捕獲岩中のかんらん石ファブリックとリフト下の地震波異方性との関係
大陸リフト帯に伴うマントル捕獲岩は,マントルの構造と上部マントルの変形に関わる物理化学的性質に関係する重要な情報を提供する.リオグランデ・リフト下の変形過程と上部マントルで起こっている地震波異方性を理解するため,リフト側面のアダムズディッキンズ(AD)とリフト軸部のエレファントバット(EB)からの変質スピネルペリドタイトの研究を行った.かんらん石の格子定向配列(LPO)をSEM/EBSD 分析で求めた結果,リフト側面のADかんらん岩は,(100)[001]卓越すべり,C−type LPOを示す.一方,リフト軸部のEBかんらん岩は,(010)[100]卓越すべり,A-type LPO を示す.地球化学データと微細組織観察により,リフト側面部(ADかんらん岩)では流体を伴うメルトが局所的なマントル肥沃化を起こし,含水条件下でかんらん岩が変形(かんらん石 C-type LPO)したことが示された.一方リフト軸部(EBかんらん岩)では,減圧部分融解によるマントルの枯渇化が無水条件での変形(かんらん石A-type LPO)を引き起こした.これらの観察は,リオグランデ・リフト(RGR)帯の上部マントルの局所的な含水化と物理化学的不均一性の証拠となる.このRGR 帯の下部で観察される地震波異方性は,不均質伸張のような引張破断やRGR帯下のかんらん石ファブリックに起因する.
Key Words: lattice preferred orientation, metasomatized spinel peridotite, olivine, Rio Grande rift, seismic anisotropy.
北部オマーンオフィオライトのワジ・フィズにおけるマントル・ディオプシダイトの岩石学:熱水によるCrとREEの移動性
秋澤紀克・荒井章司
主にディオプサイドで構成される岩石である「ディオプシダイト」は,マントルかんらん岩中でシリケイト成分に富んだ高温の熱水から晶出したと考えられている.本論文において我々は,最上部マントル部でクロマイト・Crに富んだディオプサイド(<2.5 wt.% Cr2O3)・Crに富んだグロシュラー(<7 wt.% Cr2O3)などのCrに富んだ鉱物を含む,新しいタイプのディオプシダイトを報告する.クロマイトは半自形から多形まで様々な形状を示し,球状のグロシュラーやクロライトを包有するものもある.また,フィルム状のクロマイトが粗粒なクロマイトから分岐して,ディオプサイドの粒間を埋めているような産状も観察された.クロマイトの薄層や濃集部周辺でディオプサイドはCrに富んでいるが,その他の場所ではCrを含んでいない.ディオプシダイトは,トレモライトと少量のクロマイト・ディオプサイド・グロシュラーからなる白色の岩石に囲まれている.その白色の岩石中で粗粒のクロマイト(<1 mm)は虫食い状の形状を示す.マントル・ディオプシダイトの岩石学的,化学的特徴から,熱水はマントルかんらん岩を置き換える際にクロマイトを部分的に,または完全に溶かし込み,Crを地殻部に運んだと考えられる.また,マントル・ディオプシダイトの微量元素(REE,Sr,Zr,Ti,Y)含有量から,熱水はCrと共にそれらの元素も運んだことが示唆された.
Key Words: chromite, Cr mobility, diopside, hydrothermal solution, mantle diopsidite, REE mobility.
[Pictorial Article]
2011年東北地方太平洋沖地震における海底地震計への堆積物の流入
三浦 亮・日野亮太・川村喜一郎・金松敏也・海宝由佳
[Research Article]
北西フィリピン海火山岩の低温・高温変質作用と,火山活動のセッティングとの関係
原口 悟・石塚英男・石井輝秋・藤岡換太郎・湯浅真人・柴崎洋志
北西フィリピン海の九州パラオ海嶺北部,奄美海台,ウルダネタ海台から採取された火山岩は低温あるいは高温の変質作用を受けている.これらの岩石の変質程度は気泡への二次鉱物の充填率と良い相関を示す.また,海域ごとの変質作用の違いは各地域のマグマ活動のテクトニクスと関係しており,九州パラオ海嶺火山岩の高い変質率は四国海盆拡大時のリフト活動による熱水循環の影響と解釈され,ウルダネタ海台火山岩が九州パラオ海嶺より古い活動でありながら変質度が低いのは,マグマ噴出後の熱水循環が無かったことを反映すると考えられる.そして,奄美海台火山岩の高温変質作用は,深成岩体貫入による熱の影響を受けたためと解釈される.
Key Words: alteration ratio, Amami Plateau, deposition in voids, Kyushu-Palau Ridge, lowand high-temperature alteration, mineral composition, secondary mineralization, tectonic setting, Urdaneta Plateau.
中期中新世の日本海で形成された玄武岩質火山―枕状溶岩と海底溶岩噴泉堆積物―
藤林紀枝・浅倉健輔・服部 剛・Sharon Allen
拡大期の日本海海底で形成された中期中新世小木玄武岩部層沢崎玄武岩ユニット(Fujibayashi & Sakai, 2003)の地質学的研究を行い,次の3つを示した.(1) 火山体は高さ100 m程度,幅4km程度のほぼ平坦な頂部をもつ小規模な火山が想定される.(2)火山体核部の枕状溶岩は,厚さが約70 m,幅約1.5 kmの非常に扁平な形態をもち,ほぼ水平な何枚かの板状溶岩とそれらから供給された枕状溶岩からなる.末端部は45−60°の急傾斜したピローローブで特徴づけられる.(3) 枕状溶岩を覆う溶岩噴泉堆積物は,枕状溶岩と同じ火口から形成され,その側方への一連の層相変化と堆積構造は,噴火起源の乱流に支持された火砕物重力流堆積物の累重で説明できる.
Key Words: back-arc basin, basalt, Ogi Basalt, pillow lava, Sawasaki basalt, scoria agglomerate, spasmodic fire fountain, submarine explosive eruption, submarine volcanic hill.
マリアナ沈み込み帯チャレンジャー海淵前弧セグメントの玄武岩質火山砕屑物:最南部伊豆・小笠原・マリアナ弧のテクトニクスとマグマ活動
Robert J. Stern・Minghua Ren・Katherine A. Kelley・小原泰彦・Fernando Martinez・Sherman H. Bloomer
チャレンジャー海淵に面する南部マリアナ前弧では,Southeast Mariana Forearc Rift(SEMFR)において,海溝軸近傍で若いソレアイト質玄武岩が活動していた.今回,我々は,YK13-08航海(しんかい6500第1363潜航)によって,SEMFRから約100 km西方の南部マリアナ前弧において,若い玄武岩の活動の証拠を発見した.しんかい6500第1363潜航では,チャレンジャー海淵の北東50 kmの海溝陸側斜面の水深6000 mから5500 m地点の調査を行い,ハイアロクラスタイトを採取した.ハイアロクラスタイトは,ソレアイト玄武岩質のガラスとパラゴナイト化したマトリックスから主に構成されているが,マントルかんらん岩と新第3紀の火山岩由来のゼノクリストやゼノリスも含んでいる.ソレアイト質玄武岩はMORB的な組成を持つが,2 wt%程度と高い含水量で特徴付けられ,Rb,Cs,Ba,K,Pb,Srに富んでいる.この特徴は,SEMFRやマリアナトラフの玄武岩の特徴に類似している.このハイアロクラスタイトは,水深3000 mから6000 mにおいて,二酸化炭素の激しい脱ガスを伴う噴火で形成されたと考えられる.チャレンジャー海淵近傍の南部マリアナ前弧リソスフェアは,マントルアセノスフェアの侵入と水に富んだメルトによって弱くなっており,このことが,チャレンジャー海淵が大水深となっている一つの理由だと考えられる.
Key Words: basalt, Challenger Deep, Mariana Arc, subduction.