[Research Articles]
トルコ北東部における三畳紀の暖かい沈み込み:Ağvanis変成岩類からの証拠
テーチス海域におけるペルム紀〜三畳紀の沈み込み史では付加体形成は希であり,主に北西トルコからチベットで起きている.本論では北部トルコに分布する三畳紀の付加体であるAğvanis変成岩類の地質,岩石,年代データを報告する.Ağvanis変成岩類は長さ20 km,幅6 kmで南南東—北北西走向の菱形地累をなし,東PontidesとMenderes-Taurusブロックの衝突帯に近接した北アナトリア(Anatolia)活断層によって画されている.変成岩類は主として緑色片岩相〜緑廉石角閃岩相のメタベイサイト,千枚岩,大理石,少量のメタチャートと蛇紋岩からなり,海洋起源の岩石種と大洋島玄武岩,中央海嶺玄武岩,島弧ソレアイトの特徴を示すメタベイサイトの存在から付加体が変成作用を受けたものと解釈される.これらの岩石には始新世初期の石英閃緑岩,優白質花崗閃緑岩,デイサイトの岩頸や岩脈が貫入している.変成条件は470–540°C,∼0.60–0.90 GPaと推定される.接触変成帯の外側から採取したフェンジャイト—白雲母についての段階的な40Ar/39Ar年代測定から180-209 Maをピークとする年代分布が得られ,変成作用が209 Ma以前に起きたことを示唆する.すなわち,Ağvanis変成岩類は北東トルコにおける三畳紀後期かそれよりやや古い沈み込みを表わしている.推定された温度圧力条件は定常状態にある平均的な沈み込み帯よりも高温であり,現在のカスケードのような高温沈み込み帯であったとするのが最も説明しやすい.これに対して始新世初期の石英閃緑岩岩頸の周囲の接触変成鉱物組合せは,現在の浸食面が始新世初期には深さ14 kmにあったことを示唆しており,変成岩類が再度埋没したことを示す.白雲母のピークAr-Ar年代が一部乱されていることは,埋没と火成活動による加熱によって起きたと考えられ,東PontidesとMenderes–Taurusブロックの間の衝突によって起きた衝上運動に関係しているのであろう.
Key Words: 40Ar/39Ar dating;Ağvanis;Eastern Pontides;metamorphism;thermobarometry;Triassic accretionary complex
長崎県対馬に分布する対州層群の年代とその意義
二宮 崇・下山 正一・渡邊 公一郎・堀江 憲路・Daniel J. Dunkley・白石 和行
日本海南西部,対馬に分布する対州層群は,層厚5000m以上の海成層で,日本海拡大期の情報を供給する重要な地層と考えられている.その年代は,前期始新世から前期中新世まで,ゆっくり堆積した地層と考えられてきた.本研究では,対州層群の岩相層序の再検討を行うとともに,最下部,下部・中部境界,それに最上部の凝灰岩の3試料から,ジルコンを抽出し,SHRIMPによる U–Pb年代測定をおこなった.その結果,対州層群が,17.9–15.9 Maの短期間に急速堆積したこと,対州層群は日本海沿岸に広く分布する同時期の多くの地層群と対比できることが明らかになった.これらの結果は,日本海および日本列島形成史を考える上で重要な知見である.
Key Words: early to middle Miocene;Japan Sea;SHRIMP U–Pb dating;Taishu Group
中国東部ロウ山(Laoshan)複合花崗岩体中の白亜紀Aタイプ花崗岩類の地球化学および成因
南北中国地塊間の三畳紀縫合帯の東側に分布するロウ山花崗岩体の後衝突期花崗岩について主要・微量元素組成,Sr, Nd, Pb同位体組成を測定した.花崗岩類はアルカリ岩質のAタイプであり,より詳しくはA1花崗岩に細分される.微量元素組成は大洋島玄武岩とエンリッチした中央海嶺玄武岩の中間的な特徴を示し,結晶分化によりBa, Sr, P, Tiに枯渇し,スラブ流体の付加によりCs, Rb, Th, Uに富む.ロウ山花崗岩類の同位体組成はエンリッチしたマントル(EMI)と下部地殻物質の混合を示す.ロウ山A1花崗岩類はEMI的なデラミネートしたエクロジャイト起源物質(沈み込んだ中生代太平洋スラブ流体による付加を受けた)と同地域に先行するIタイプ花崗岩の融け残りグラニュライトあるいは変成岩からなる下部地殻物質の混合によって生じたと考えられる.混合マグマは主にアルカリ長石の分別を経てロウ山花崗岩体中にAタイプ花崗岩として定置した.
Key Words: A-type granites;Jiaodong Peninsula;Laoshan granitic complex;petrogenesis
関東山地火山岩年代から制約する火山フロントの移動とマントル構造の変化
中村仁美・及川輝樹・下司信夫・松本哲一
関東山地は,赤城—浅間—八ヶ岳—富士が形成する第四紀火山フロントの前弧域に位置し,新第三紀の火成岩を産する(兼岡ほか,1993).
本研究では,関東山地の地質学・層序学的調査を行い,火山岩生成年代を決定することで,火山フロントが移動した可能性を検討し,その原因としてのテクトニクスとマントル構造の変遷を議論する.
年代測定から,火山フロントの著しい西側への屈曲は,3Ma頃生じたことが分かった.北進していたフィリピン海プレートが,その東端のdead endで太平洋プレートの妨げを受け,オイラー極が北に移り,北西へ進路を変更した(高橋,2006).マントルウェッジはより冷たくなり,フィリピン海および太平洋スラブからの脱水はより深部へ移り,マグマの生成場は,より深部・高温である西側へと移る.その結果,マントル構造とメルト分布が大きく変化し,火山の分布が全体的に西に移り,火山フロントの移動に至ったと考えられる.
Key Words: central Japan;K–Ar ages;Philippine Sea Plate;subduction;volcanic front
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http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/iar.2014.23.issue-3/issuetoc
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