Vol. 22  Issue 2 (June)

 

Island Arc Award (2013)

Subduction of mantle wedge peridotites: Evidence from the Higashi-akaishi ultramafic body in the Sanbagawa metamorphic belt.<Island Arc, 19, 192-207 (2010)>
Hattori, Keiko; Wallis, Simon; Enami, Masaki; Mizukami, Tomoyuki


沈み込むマントル・ウェッジ由来のペリドタイト:三波川変成帯に産する東赤石超苦鉄質岩体の例
服部恵子・Simon Wallis・榎並正樹・水上知行
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通常論文

[Research Articles]

1. Sedimentary facies and biofacies of the Torinosu Limestone in the Torinosu area, Kochi Prefecture, Japan
Hiromichi Ohga, Bogusław Kołodziej, Martin Nose, Dieter U. Schmid, Hideko Takayanagi and Yasufumi Iryu

一ツ淵鉱山(高知県佐川町鳥巣地域)に分布する鳥巣石灰岩の堆積相および生物相
大賀博道・Bogusław Kołodziej・Martin Nose・Dieter U. Schmid・高柳栄子・井龍康文


高知県一ツ淵鉱山に分布する上部ジュラ系〜下部白亜系(チトニアン階〜ベリアシアン階)鳥巣石灰岩(層厚55.5 m)の堆積学的・古生物学的検討を行った.本鉱山の鳥巣石灰岩は,干出面を境として上部と下部に区分され,両者は堆積相と化石相に基づいて,それぞれ2つおよび3つのユニットに細分される(下位より順にユニット1〜5とする).ユニット2,3,5から,石灰海綿(層孔虫およびケーテテス類),マイクロエンクラスター(主にLithocodium aggregatumBacinella irregularis),微生物岩が多く認められた.造礁サンゴの産出頻度は相対的に低く,富栄養あるいは濁った海域に特有の造礁サンゴ(Microsolenidae属)が卓越する.層序・堆積相・化石相の検討結果より,本鉱山でみられる鳥巣石灰岩の堆積環境は,海水準変動とそれに関係した陸源砕屑物の流入に規制されていたと推定される.
 
Key Words : Lower Cretaceous;microbialite, microencruster;stromatoporoid, Torinosu Limestone, Upper Jurassic
 

2. Petrographic study of the Miocene Mizunami Group, Central Japan: Detection of unrecognized volcanic activity in the Setouchi Province
Eiji Sasao

中部日本に分布する中新統瑞浪層群の記載岩石的研究:瀬戸内区における未知の火山活動の検出
笹尾英嗣


中部日本に分布する中新統瑞浪層群の供給源を明らかにするため,単一のボーリングコアから採取した砂岩の全鉱物・重鉱物組成,斜長石の組成,および全岩化学組成分析を行った.その結果,研究に用いた砂岩は,1)黒雲母とアルバイトからオリゴクレイスが卓越するもの,2)角閃石とラブラドライトが卓越するもの,3)輝石とアンデシンが卓越するものの3つに区分された.このうち,黒雲母が卓越するタイプは基盤の花崗岩から,その他の2つは火山灰として供給されたと推定された.瑞浪層群に火山灰を供給した火山活動は,鉱物・化学組成の変化から2つのフェーズがあると考えられた.瑞浪層群の砂岩の記載岩石学的性質からは,これまでに知られていない火山活動の存在が示唆された.
 
Key Words : chemical composition, Mizunami Group, petrography, plagioclase indices, provenance
 

3. Theoretical and quantitative analyses of the fault slip rate uncertainties from single event and erosion of the accumulated offset
Zhikun Ren, Zhuqi Zhang, Tao Chen and Weitao Wang

地震イベントの年代決定と累積オフセットの侵食が与える断層の平均変位速度の不確実性に関する理論的ならびに定量的解析

断層の平均変位速度は,断層の活動度や地震発生ポテンシャルを評価するための重要な指標であるが,その決定には,地震イベントの年代決定に起因する問題や累積オフセットの侵食による改変にともなって生じる不確実性を伴うことが多い.この研究では,信頼度の高い断層の平均変位速度を求めるための方法として差動法を提案する.この方法は,横ずれ断層に沿った新旧段丘のオフセットの差異と年代差の比で断層の平均変位速度が求められ,従来の方法で生じた誤差を取り去ることができる.この差動法を適用することにより,Altyn Tah断層とKunlun断層の平均変位速度を〜5−10 mm/年に修正することができた.このような遅い平均変位速度は,従来の測地学的ならびに地質学的データに基づいて求められた変位速度や短縮速度,ならびにこれらの断層の主要部分で発生した大規模地震の1000年オーダーでの発生間隔と合致する.
 
Key Words : differential method, erosion of the accumulated offset, fault slip rate;, Holocene, single event effect
 

4. Paleomagnetic constraints on Miocene rotation in the central Japan Arc
Hiroyuki Hoshi and Masakazu Sano

日本弧中部の中新世回転運動に対する古地磁気学的制約
星 博幸・佐野正和


本州中部,設楽地域北部に分布する津具火山岩類(約15 Ma)の玄武岩と安山岩(溶岩,貫入岩)を12地点で採取し,岩石磁気を測定した.9地点で決定された正極性および逆極性の古地磁気方位はほぼ南北の偏角を示し,同時期の平行岩脈群から報告されている古地磁気方位と有意な差がない.今回取得した方位と平行岩脈群の既報方位を合わせて,約15 Ma古地磁気方位と古地磁気極を決定した.今回決定した古地磁気方位の考察から,筆者らは次の3点を結論した.(1)本州中部の「ハ」型屈曲(関東対曲)構造の西翼側は,17.5〜15 Maに西南日本主部に対して反時計回りに回転した.(2)本州弧と伊豆-小笠原弧の衝突開始は15 Maよりも前である.(3)日本海拡大に伴う西南日本の時計回り回転運動は15 Maまでに完了した.
 
Key Words : arc–arc collision, Izu–Bonin (Ogasawara) Arc, Japan Arc, Middle Miocene, paleomagnetism, Shitara, tectonic rotation, Tsugu volcanic rocks
 

5. Major element variation of the Skaergaard pyroxene and its petrologic implications
Yun-Deuk Jang and H. Richard Naslund

スケアガード貫入岩体の輝石の主要元素組成変化とその岩石学的な示唆

スケアガード貫入岩体の成層帯LS,上部周縁帯UBS,周縁帯MBS中の輝石の組成変化を明らかにするためにEPMA及び鉱物分離による分析を行った.一般にどの帯においても岩体の固結に伴って,輝石は同様の主要元素組成変化を示す:SiO2, MgO, Al2O3, and TiO2は漸減し,FeOとMnOは漸増し, CaO, Fe2O3, and P2O5は系統的な変化を示さない.LSとMBSの輝石はWager and Brownが報告したのと同様の組成変化を示す.晶出温度は概ね従来の推定に近い変化を示す.スケアガード貫入岩体の輝石が見せる分化に伴うなめらかな主要元素組成変化は,最初の貫入後に注入されたマグマがほとんどなかったことを示している.これらの結果は,スケアガード貫入岩体は閉じたマグマ溜り内のその場での結晶化を代表するものであるという考えを支持する.
 
Key Words : crystallization temperature, differentiation, geochemical variation, pyroxene, Skaergaard intrusion
 

6. Geological setting of basaltic rocks in an accretionary complex, Khangai–Khentei Belt, Mongolia
Kazuhiro Tsukada, Yuki Nakane, Koshi Yamamoto, Toshiyuki Kurihara, Shigeru Otoh, Kenji Kashiwagi, Minjin Chuluun, Sersmaa Gonchigdorj, Manchuk Nuramkhaan, Masakazu Niwa and Tetsuya Tokiwa

モンゴル国ハンガイ−ヘンテイ帯の付加体中の玄武岩の形成場
束田和弘・中根 有城・山本鋼志・栗原敏之・大藤 茂・柏木健司・Minjin Chuluun・Sersmaa Gonchigdorj・ Manchuk Nuramkhaan・丹羽正和・常磐哲也


モンゴル国ハンガイ−ヘンテイ帯の付加体中に含まれる玄武岩類について,その産状と地球化学的特徴を記載した.この玄武岩類は, MORBに比べて K, Ti, Fe, P, Rb, Ba, Th, Nbに富み,プレート内アルカリ玄武岩の特徴を有する. またこの玄武岩類は中期古生代の層状放散虫チャートを整合に覆われることより,遠洋域にて形成されたと推定される.したがって,中期古生代の遠洋域(モンゴル−オホーツク海)にて,アルカリ玄武岩質火山活動が起こっていたことが明らかとなった.
 
Key Words : accretionary complex, Central Asian Orogenic Belt, Khangai–Khentei Belt, Mongolia, OIB
 

7. Transport process of sand grains from fluvial to deep marine regions estimated by luminescence of feldspar: example from the Kumano area, central Japan
Masaaki Shirai and Ryo Hayashizaki

長石のルミネッセンス特性により推定された砂粒子の河川から深海にかけての運搬過程:熊野地域における解析例
白井正明・林崎 涼


ルミネッセンス年代測定の原理を利用した露光率(BLP-2)という指標を提案し,河川から深海に到る砂粒子の運搬過程の評価を試みた.紀伊半島南東の熊野地域において,長石粒子の赤外光励起ルミネッセンス強度(IRSL)から現世堆積物試料の長石粒子に露光粒子が含まれる割合(BLP-2)を算出した.その分布をもとに,熊野トラフ底の表層堆積物中のタービダイトの起源となったイベントの性質をはじめ,熊野地域の砂粒子の運搬についていくつかの推察を行った.今後測定粒子数を増加させることにより客観的なデータを得ると共に,ルミネッセンス年代測定を適用可能な更新世後期まで遡って砂粒子の運搬過程に新しい知見を加える事が期待される.
 
Key Words : bleaching, feldspar, infrared stimulated luminescence, origin of turbidites, sand grain, sediment transport process