[Pictorial Articles]
房総半島南部における上部中新統ー鮮新統付加体(西岬層)と鮮新統斜面堆積物(鏡ヶ浦層)境界にみられる不整合
山本由弦・千代延 俊・栗原敏之・山口飛鳥・比名祥子・浜橋真理・Hugues Raimbourg・Romain Augier・Leslie Gadenne
[Research Articles]
中国中央部,大別(Dabie)造山帯西部の七里坪(Qiliping)陸塊に産するザクロ石−雲母−斜長石片麻岩の相平衡と変成の進化過程
大別−蘇魯(Dabie-Sulu)造山帯の高圧・超高圧変成岩帯に広範囲に露出する片麻岩類には通常,エクロジャイト相変成作用の証拠が見られない.大別造山帯西部の七里坪地域のザクロ石−雲母−斜長石片麻岩類は,ザクロ石,フェンジャイト,黒雲母,斜長石,石英,ルチル,イルメナイト,緑泥石,緑簾石と普通角閃石からなる.石英,緑簾石とルチルの包有物を伴うザクロ石の斑状変晶はわずかに組成累帯構造を示しており,核からマントルにかけてパイロープ成分が増加しスペサルティン成分が減少するが,マントルからリム部にかけてはパイロープとグロシュラー成分が減少しスペサルティン成分が増加する.高Siのフェンジャイトの晶出は,片麻岩類が高圧変成作用を受けたことを示している.NCKMnFMASHTO (Na2O-CaO-K2O-MnO-FeO-MgO-Al2O3-SiO2-H2O-TiO2-O) 系で計算した代表的な2試料の温度-圧力模式図によると,組成累帯構造を示すザクロ石から復元した変成温度‐圧力経路は,昇温変成期作用が496 ± 15°C で17.6 ± 1.5 kbarから555 ± 15–561 ± 15°Cで最高圧力21.8 ± 1.5–22.7 ± 1.5 kbar へとわずかな圧力増加を伴う温度上昇で特徴づけられることを示す.後退変成過程の初期は,10.3 ± 1.5–11.0 ± 1.5 kbarで最高温度608 ± 15–611 ± 18°Cへの温度上昇を伴った減圧が支配的である.後退変成過程の後期は,圧力・温度ともに顕著に減少する.昇温期変成作用にはザクロ石,蘭閃石,ヒスイ輝石,ローソン石,フェンジャイト,石英,ルチル±緑泥石を含む鉱物組み合わせが予想されるが,これは現在観察されるものとは異なる.このような高圧変成作用は,高Siフェンジャイトおよびザクロ石の核からマントルにかけての組成と温度-圧力模式図を併用することによって一部を復元できる.このことは,揚子−中朝地塊衝突期に起きたテレーンの沈み込みと上昇過程について重要な制約を与える.
Key Words : garnet mica plagioclase gneiss, metamorphic evolution, P–T pseudosection, Qiliping terrane, western Dabie Orogen.
西南中国,騰沖(Tengchong)の新生代火山岩類の地球化学:チベット高原の隆起との関係
西南中国,雲南省騰沖には,新生代火山岩類(CVRT)が広く分布する.これらの岩石は玄武岩,安山岩(卓越タイプ),デイサイトからなる.ほとんどの試料は非アルカリ岩系列で,その中でも高Kカルクアルカリ岩系列である.これらの岩石はSiO2 が49.1−66.9 wt.%,TiO2 含有量は高くなく,0.7 –1.6 wt.%の範囲を示す.微量元素濃度と元素比(たとえば Nb/U, Ce/Pb, Nb/Laなど)は幅広い範囲を示す.87Sr/86Sr 値は0.7057–0.7093, 143Nd/144Nd 値は0.5120−0.5125の間で変化する.206Pb/204Pb, 207Pb/204Pb,208Pb/204Pb比はそれぞれ17.936–19.039,15.614–15.810,38.894–39.735の範囲を示す.CVRTの地球化学的特徴は,島弧火山岩類に類似する.我々はこれらのマグマが,先行した沈み込み過程で交代作用を受けていたリソスフェリックマントルで生じたと提唱する.チベット高原の隆起史の研究から,我々はCVRT噴火に至る地質構造運動プロセスが隆起イベントと同期していることを見い出した.ゆえに,我々はチベット高原の隆起が騰沖の衝突造山運動を収束させ,これがさらにCVRTマグマの生成と噴出を促したと提案する.
Key Words : Cenozoic volcanic rocks, geochemistry, petrogenesis, Tengchong, Tibetan Plateau.
中央モンゴルハンゲイ盆地ツェツェルレグテレーンのデボン紀−石炭紀の砕屑堆積物の地球化学:供給源とその風化過程および造構場
モンゴルのデボン紀−石炭紀ツェツェルレグテレーンは中央アジア造山帯(CAOB)複合岩体の一部をなす.ツェツェルレグテレーンは主に砕屑性堆積岩類からなり,ハンゲイ−ヘンティー盆地南部にある.テレーンはエルデネトソゲート(中期デボン紀),(ツェツェルレグ(中・後期デボン紀),ジャルガラント層群(前期石炭紀)に分けられる.ハンゲイ—ヘンティー盆地の後背地と造構場については非活動的縁辺域から島弧まで,種々の説がある.確立された記載岩石学的・全岩地球化学的指標を用いて,堆積物の供給源とその風化作用,堆積場について制約を与えるため,ツェツェルレグテレーンから砂岩・泥岩94試料を採取した.記載岩石学的には砂岩は未成熟で,エルデネトソゲート層群はQ22F14L64, ツェツェルレグ層群はQ14F17L69, ジャルガラント層群はQ18F12L70であった.Lv/L比は0.81−1.00(平均値:0.95),P/F比は0.68−0.93(平均値:0.83)である.フレームワーク粒子組成は,開析されていないか遷移期の島弧で堆積したことを示している.地球化学的には砂岩はグレイワッケに分類される.層群ごとの砂岩と泥岩の地球化学的な平均値の差はわずかで, SiO2は平均65.54-68.62 wt%の範囲にある.これらの特徴と,組成区分図上の弱いトレンドは,堆積物の未成熟さを反映している.平均的な上部大陸地殻組成との比較,主要元素判別図と変質で動きにくい元素比は,源岩の平均組成がデイサイトと流紋岩の間であることを示す.エルデネトソゲート層群の変質化学指標Chemical Index of Alterationは, Kの交代作用の影響を補正すると最大約78で,原岩が中程度に風化していたことを示す.ツェツェルレグとジャルガラント層群はそれぞれ61と63と低い最大値を示し,ほとんど風化していない,構造運動が活発な供給源に由来することを示す.造構場を判別するこれらのパラメーターは,同時代のその他のCAOBと同様,大陸島弧環境を示唆する.この島弧的な源岩は,デボン紀中期〜石炭紀前期のモンゴル—オホーツク海にあった陸塊の上に堆積したのであろう.
Key Words : CAOB, geochemistry, Mongolia, provenance, tectonic setting, Tsetserleg terrane.
伊豆—小笠原島弧形成初期ステージの始新世火山活動:小笠原群島聟島列島の地質と岩石
金山恭子・海野 進・石塚 治
伊豆—小笠原弧形成初期の始新世の火山噴出物で構成される小笠原群島聟島列島の詳細な火山地質および火山岩の記載岩石学的・地球化学的特徴を報告する.聟島列島を構成する島弧ソレアイト,希土類元素に高度に枯渇した高Siボニナイト系列および低枯渇度の低Siボニナイト系列岩は父島列島の火山岩類に対比される.ボニナイト系列の複数のマグマタイプが互層していることから同時に活動していたと考えられる.聟島における枕状溶岩を主体とする下位層から火砕岩を主体とする上位層への岩相変化から,噴火環境が深海底から浅海の比較的爆発的な噴火へと変化したことが示唆される.聟島列島の高Siボニナイトは全岩化学組成から3種類に分類される.
Key Words : arc tholeiite, boninite, geochemistry, Mukojima Island Group, Ogasawara (Bonin) Islands, volcanic geology.
佐久間—天竜地域の三波川帯中に存在する異なる付加—変成年代を持つ複数のユニット
堤 之恭・宮下 敦・堀江憲路・白石和行
佐久間—天竜地域の三波川帯は,西部・東部2つのユニットから成る.西部・東部ユニットそれぞれのサンプル(T1及びT5)の砕屑性ジルコンU-Pb年代は後期白亜紀に集中し,最も若いジルコンは94.0 ± 0.6 Ma及び 72.8 ± 0.9 Maの年代を示した.変成白雲母K-Ar年代はそれぞれ69.8 ± 1.5 Maと56.1 ± 1.2 Maであった.最も若いジルコン年代はそのサンプルの堆積年代の上限を,変成白雲母K-Ar年代は上昇年代及び堆積年代の下限を示す.この結果は,T1とT5はそれぞれ異なる堆積—上昇年代を持ち,さらにT1が上昇に転じる頃にT5は堆積〜沈み込みの過程にあったことを示す.さらに,三波川帯の形成過程において,沈み込みと上昇の経路が同時に存在していたことを示唆する.
Key Words : deposition, detrital zircon, metamorphism, Sanbagawa Belt, white mica.
南米パタゴニア南部,パリ・アイケとモロチコ地域 (52°S) に産する新生代溶岩類の成因に関する地球化学的・Sr-Nd-Pb同位体的制約
南米最南端のパタゴニアにおけるマグマ生成とジオダイナミックな進化過程を明らかにするため,パリ・アイケからモロチコ地域 (52°S) に分布する後期中新世〜第四紀の溶岩台地の地球化学組成・同位体(Sr-Nd-Pb)分析を行い,マグマの溶融過程とソースマントルについての制約を与えた.パリ・アイケ溶岩はアルカリ岩系列 (パリ・アイケ: 45–49 wt.% SiO2; 4.3–5.9 wt.% Na2O+K2O),モロチコ溶岩は非アルカリ岩系列 (モロチコ: 50.5–50.8 wt.% SiO2; 4.0–4.4 wt.% Na2O+K2O)で,比較的未分化な苦鉄質火山岩 (パリ・アイケ: 9.5–13.7 wt.% MgO; モロチコ: 7.6–8.8 wt.% MgO)からなり,典型的なプレート内海洋島玄武岩の特徴を持つ.パリ・アイケとモロチコ溶岩の不適合微量元素比と同位体比は,多くの新第三紀南部パタゴニアスラブウィンドウ溶岩とは異なり,より肥沃な特徴を示し,HIMU的な玄武岩に類似している.希土類元素モデリングによると,これらの溶岩はザクロ石レルゾライトの低い部分溶融度(パリ・アイケ溶岩: 1.0–2.0%; モロチコ溶岩; ~2.6–2.7%)で生成されたことを示唆する.南パタゴニア溶岩のSr-Nd-Pb同位体組成の主要な系統的変化は,地理的配置と関連している.49.5°Sよりも北側で噴出した南部パタゴニア溶岩と比べて,パタゴニア南部のパリ・アイケとモロチコ溶岩は低い87Sr/86Sr,高い143Nd/144Ndと206Pb/204Pb比を持ち, HIMU的な特徴を持つ.枯渇したHIMU的な同位体組成を示すアセノスフェア領域は,パタゴニア南部の主要なマグマソースであった (たとえば,パリ・アイケ,モロチコやカムス・アイケ火山地帯).このことは,パタゴニア南部のアセノスフェアの同位体組成に大きな不連続があることを示唆している.地球化学的・同位体データと地質学・地質構造学的な復元に基づいて,パタゴニア南部下のHIMUアセノスフェアマントル領域は西南太平洋下の巨大HIMU領域と関連すると考える.
Key Words : Asthenosphere, HIMU-like ocean island basalt, Morro Chico, Pali Aike, Patagonia, Sr-Nd-Pb isotope.