[Review Articles]
本州および九州の鮮新−中部更新統テフラ層序
里口保文・長橋良隆
日本の鮮新−更新統は,各堆積盆または地域ごとに詳細な調査と記載が行われてきたが,それら地域間の層序対比は,複雑な地質構造のために難しいものとなっている.各地域の層序は,多くのテフラ層によって確立されており,地域間の層序はいくつかの広域テフラによって対比されている.本論では,日本における鮮新統から中部更新統の広範囲な層序モデルを,テフラ層序,古地磁気層序,生層序に基づいて確立した.この層序モデルは,島弧である日本弧周辺の環境変遷や爆発的火山活動の解明に重要なものといえる.
Key Words : Japanese archipelago, Pleistocene, Pliocene, stratigraphic correlation, tephrostratigraphy, widespread tephra.
[Research Articles]
イラン西部コルデスターン州ゴルヴェ周辺のモシラーバード深成岩体の鉱物化学組成と地質温度圧力
モシラーバード深成岩体はイラン西部ゴルヴェ,サナンダジュ‐シールジャーン変成帯の南西部に位置する.深成岩体は閃緑岩,モンゾ閃緑岩,石英閃緑岩,石英モンゾ閃緑岩,トーナル岩,花崗閃緑岩,花崗岩,アプライト,ペグマタイトからなる.本研究では多様な岩石種から31試料の全岩組成,異なる岩相から15試料の鉱物化学組成を分析した.マグマの性質を鉱物化学組成によって記載し,モシラーバード深成岩体が定置した圧力と温度を見積もった.長石類の組成はほぼ二成分系で,斜長石の組成はAn5からAn53,アルカリ長石の組成はOr91からOr97の範囲を示す.深成岩体中の有色鉱物は黒雲母と普通角閃石である.黒雲母組成と全岩化学組成に基づけば,モシラーバード深成岩体はカルクアルカリマグマから形成された.角閃石類はカルシウム角閃石(マグネシオ普通角閃石とエデン角閃石)である.普通角閃石―斜長石温度計で算出した晶出温度は550–750°Cの範囲である.これらの温度は,深成岩類が後退変成作用を受け鉱物組成が変化したことを示している.普通角閃石中のアルミニウム地質圧力計はモシラーバード深成岩体が2.3–6.0 kbar,深度7–20 km相当で定置したことを示しているが,広域の地質を考慮するとこの圧力範囲よりも低圧であったと思われる.角閃石類の変質により圧力が過剰に見積もられたのであろう.
Key Words : Al-in-hornblende, geothermobarometry, hornblende–plagioclase thermometry, Iran, mineral chemistry, Moshirabad, Qorveh.
インド領アンダマン島のクロムスピネル砕屑粒子から俯瞰するアンダマンオフィオライトの特徴と多様性
Biswajit ghosh・森下知晃・Koyel Bhatta
インド領アンダマン島の海岸で採取した砕屑性スピネルの化学組成分析から,アンダマン・オフィオライトの全体像を俯瞰し,オフィオライトが形成されたテクトニクスについて検討した.調査地域全体から,Cr# (=Cr/(Cr+Al)原子比)の高いスピネルが含まれていることかは,オフィオライト全体として島弧的環境での火成活動の影響を受けていることが示唆される.また,スピネルのCr#は,島の南部から北部に向かって低い値を示す割合が増加することから,南部地域には溶融程度の低いかんらん岩が分布していることが予想される.これらのことから,アンダマン・オフィオライトを形成したテクトニックセッティングについて推定した.
Key Words : Andaman ophiolite, arc-dominant area, detrital chromian spinel, MORdominant area, paleogeodynamic setting.
中部イランDehshir Ophioliteの成因に関するHf-Nd同位体組成からの制約
Hadi Shafaii Moghadam・Robert J. Stern・木村純一・平原由香・仙田量子・宮崎 隆
サイプラスから北西シリア,南東トルコ,北東イラク,南西イランを通ってオマーンに延びるアラビア縁・オフィオライト帯は,後期白亜紀(約100Ma)に形成された総延長3000kmのネオテチス海北縁の収束帯である.イランのザグロス・オフィオライトはこの収束帯の一部で,外帯(OB)と内帯(IB)オフィオライト帯に細分される.我々はこのオフィオライト帯の内帯,デシル・オフィオライトに着目し,はじめてのNd-Hf同位体測定結果を報告する.我々の結果は,デシルの苦鉄質・珪長質火山岩が,インド洋海嶺マントルドメイン起源である事を明らかにした.そのうち苦鉄質溶岩はすべての類似したHf同位体組成を有するが,珪長質岩脈は非放射性Ndをより多く含む.珪長質岩はTh/NbとTh/Yb比が高くそれらは非放射性Nd量と比例ため,堆積物か大陸地殻成分に汚染されていると考えられる.
Key Words : Hf–Nd isotope, Late Cretaceous, ophiolites, subduction initiation, Zagros.
イラン中央部ペルム紀後期のオフィオライト形成後のトロニエム岩体:古生代大陸地殻成長に沈み込みが果たした役割の痕跡
アナーラク地域のペルム紀後期トロニエム岩は,アナーラクオフィオライトとその上位の変堆積岩類に貫入するストックや岩脈として産する.これらは北部アナーラク東西主要断層に沿って露出している.これらの優白質貫入岩類には全てのオフィオライト構成岩類と変成岩類の包有物が含まれる.貫入岩は角閃石,斜長石(灰曹長石),石英,ジルコンと白雲母からなる.二次鉱物は緑泥石(ピクノ緑泥石),緑簾石,曹長石,磁鉄鉱と方解石である.全岩主要・微量元素組成により,貫入岩は高いSiO2 (67.8–71.0 wt%),Al2O3 (14.9–17.1 wt%)とNa2O (5.3–8.6 wt%),低いK2O (0.1–1.5 wt%; 平均値: 0.8 wt%), 低いRb/Sr比 (0.01–0.40; 平均値: 0.09),低いY (3–6 ppm), Ti, NbとTaの負異常,弱い負または正のEu異常,LREEに富み,HREEを分別していることで特徴づけられる.これらの岩石はコンドライトで規格化したREEパターンの勾配で2−40倍の肥沃化を示す.アナーラクトロニエム岩の地球化学組成的特徴は,10 kbar以上での苦鉄質な原岩の溶融を反映している.野外産状と全岩化学組成から,これらの岩石が沈み込んだアナーラク海洋地殻の溶融によってもたらされたマグマが結晶化したことがわかる.本研究により,ザクロ石角閃岩の溶融が研究地域の大陸地殻形成の重要な要素であることが明らかになった.
Key Words : Anarak, continental crust, Iran, Late Permian, Paleo-Tethys, Trondhjemite.