[Research Articles]
西南日本・紀伊半島における断層構造解析:南海沈み込み帯近傍での新第三紀の古応力変遷に関する予察的研究
Pom-yong Choi,中江 訓,Hyeoncheol Kim
紀伊半島を含む南西日本外帯の南部は構造的 ‘shadow zone’ に属し,活断層と第四系堆積物があまり発達していない.そこでこの地域の造構履歴を構築するために,上部白亜系付加体ならびに下部— 中部中新統前弧盆堆積物に発達する断層と引張割れ目を解析した結果,Event 1〜Event 6の活動が復元された.NNW—SSE方向に貫入した中期中新世平行岩脈群に関連することからEvent 3はこの時期に活動的であったこと,またEvent 5の圧縮方向は現在の紀伊半島におけるWNW方向の地殻変動速度ベクトルと良く一致すること,などが特徴的である.さらに南東韓国および南西日本の歪軌跡 図により,現在の紀伊半島における圧縮方向はヒマラヤ山脈とフィリピン海の2つの構造領域が結合した応力場に調和することが明らかになった.
Key Words : fault tectonic analysis, Kii peninsula, paleostress sequence, plate motion vector, Southwest Japan, tectonic ‘shadow zone’.
マグマのアンダープレーテイングによる下部地殻の溶融:北中国ブロック北東部における中生代後期の中性〜フェルシック火山岩類の元素組成とSr-Nd-Pb同位体組成からの制約
Chaowen Li, Feng Guo and Weiming Fan
北中国ブロック北東部に分布する白亜紀前期の(それぞれ126 Maと119 Maに噴出した)二つのグループの中性〜フェルシック溶岩のAr-Ar年代測定,主要および微量元素分析,Sr−Nd-Pb同位体分 析を行った結果,それらが不均質な下部地殻と下盤の玄武岩類との間の混合物の溶融に由来する可能性があることがわかった.二つのグループは,高Kカルクア ルカリからショショナイトの性質を示し,軽希土類元素(LREE)とLIL元素に富み,様々な程度にHFS元素に枯渇し,中程度の放射性Srと非放射性 Nd,Pbの同位体組成で特徴づけられる.グループ2に比べ,グループ1の火山岩類は,比較的高いK2O 量と高いAl2O3/ (CaO + K2O + Na2O)比,高いHFSEの濃集と低いNb/Ta比,高い Sr–Nd–Pb同位体比をもつ.グループ1は,エンリッチマントル由来のマグマと放射性Sr,非放射性Nd, Pbの同位体組成をもつ下部地殻との混合物に起原をもち,一方,グループ2のマグマは,同じマントル由来の成分と低いSr, Nd, Pb同位体比をもつ別のタイプの下部地殻との混合物が融解したものである.給源におけるグループ1からグループ2へのシフトは,融解条件の変化に一致して いる.下盤の玄武岩と下部地殻の両者の含水条件下での融解が,より初期の高いNb量と低いNb/Ta比をもち,残留のTiに富む鉱物をほとんどあるいは全 く含まないメルトを生み出した.一方,より若い低Nb,高Nb/Ta比のマグマは,水を欠き,給源にTiに富む鉱物を残す系において融解した.中性〜フェ ルシック火山岩類の2つのグループの生成は,北中国ブロック東部における同時期のリソスフェアが薄くなることによって発生したマグマのアンダープレーティ ングと関連している.
Key Words : early Cretaceous, geochemistry, intermediate–felsic volcanic rocks, lower crust, magma underplating, North China Block.
Eastern Kumaun Himalaya(インド)における島弧火成活動:花こう岩質岩類の地球化学的研究
D. Rameshwar Rao and Rajesh Sharma
Kumaun地域東部の花こう岩質岩の岩石化学的研究から,インドの前縁部が古原生代後期に活動的な島弧であったことが示唆される.Askotクリッペを 伴う東部AlmoraナップとChhiplakotクリッペにおける花こう閃緑岩のメルト生成は,沈み込み帯の堆積物を巻き込んだ古原生代の角閃石とザク ロ石,あるいはそのいずれかを含む苦鉄質の給源の含水下での部分溶融を伴う沈み込みに関係した過程によって引き起こされた.沈み込みに関係した火成弧で一 般的な中〜高Kの塩基性岩類は,Chhiplakotクリッペの高K花こう閃緑岩類の生成をも説明することができる.さらにAskotクリッペを伴う AlmoraナップとChhiplakotクリッペにおける眼球状片麻岩は,それに伴う花こう閃緑岩と地球化学的類似性を示し,互いに起源的に何らかの関 係があることを示唆している.
Key Words : arc magmatism, augen gneisses, geochemistry, granodiorites, Kumaun Himalaya of India, Paleoproterozoic.
Narcondam火山の火山岩塊火山灰流堆積物:バーマ−ジャワ沈み込み帯コンプレックスにおけるデイサイト−安山岩ドーム崩壊の生成
Tapan Pal and Anindya Bhattacharya
アンダマン海にあるナルコンダム島は,バーマ-ジャワ沈み込み帯コンプレックスの火山列におけるデイサイト-安山岩ドーム火山が占めている.安山岩組成の 火砕物の分布は,ドーム近傍に限られ,主に火山岩塊火山灰流堆積物と少量のベースサージ堆積物を形成している.火砕堆積物のほかに,デイサイト質溶岩が ドームの中央を占める一方で,安山岩質溶岩が主にドームの基底部分に認められる.火砕堆積物は安山岩の無発泡〜わずかに発砲している岩塊と火山礫,火山灰 からなる.ドームの崩壊によって生じた高温の岩屑は,最初は,下部は粒子支持,上部は基質支持の塊状層から逆級化層として堆積した.この一連の層は,火山 礫角礫岩から凝灰角礫岩へと繰り返す互層に覆われる.これらの堆積物は,ラハール堆積物というよりはむしろ基底アバランシュとして見なすことができる.こ の基底アバランシュは,級化層理〜平行葉理をもつ一連の薄く成層した灰雲サージ堆積物によって区切られる.
Key Words : ash-cloud surge, dacite–andesite volcanics, grain flow, pyroclastics.
中央アジア造山帯における石炭紀後期−ペルム紀中期の島弧-前弧に関係した堆積盆:中国内蒙古におけるShuangjing片岩の岩石学的および地球化学的洞察
Yilong Li, Hanwen Zhou, Fraukje M. Brouwer, Wenjiao Xiao, Zengqiu Zhong, and Jan R. Wijbrans
Solonker縫合帯は,内蒙古における中央アジア造山帯の発達を記録している.しかしながら,Solonker縫合帯の縫合の時期について2つの解釈 が存在する.すなわち,(i) ペルム紀−三畳紀前期とする解釈と(ii)デボン紀中期あるいはデボン紀後期−石炭紀とする解釈である.Xar Moron断層帯に沿うLinxi地域に分布するShuangjing片岩は,中央アジア造山帯の東部分におけるSolonker縫合帯の南縁に位置 し,Solonker縫合帯の形成時期の情報を与えてくれる.Shuangjing片岩の詳細で系統的な岩石学的および地球化学的解析により,この岩石が 火山性堆積岩を原岩とし,緑色片岩相の累進変成作用を受けたものであることが明らかになった.Shuangjing片岩の原岩が火山岩のものは,カルクア ルカリ系列に属し,大部分中性岩で酸性岩がそれに続く.大陸縁の火成弧において起こった火山活動は,マントル交代作用の結果として生じたプレート沈み込み に関係した火成活動により引き起こされた.Shuangjing片岩の堆積岩の部分は,大陸棚から深海平原への漸移帯を反映してい る.Shuangjing片岩の形成は,島弧-前弧に関係した海洋盆の閉鎖を示唆している.その時期は,レーザーアブレーションICP質量分析法によって 求めた火成ジルコンの年代によって制約を受ける.すなわち,炭酸塩質黒雲母−斜長石片岩の298±2 Maという年代が得られており,この片岩は272±2 Maの花崗岩によって貫入している.Linxi地域では,島弧−前弧盆の南への沈み込みが,その上に載る大陸地殻の上昇,崩壊,浸食 を引き起こした.崩壊が,北部中国クラトン北縁の火山弧に沿う展張と広域的な火成作用を生じた.また,島弧−前弧に関係した海洋盆の 閉鎖は,ペルム紀後期から三畳紀中期の衝突型花崗岩類の形成とそれに続くSolonker縫合帯の衝突の終焉をもたらした.
Key Words : arc/forearc-related basin, Central Asian Orogenic Belt, geochemistry, Inner Mongolia, petrology, Shuangjing Schist.