Vol. 20  Issue 3 (September)

 

通常論文

[Pictorial Articles]

1. Basal slip plane of the Kurotaki unconformity in the Boranohana area along the Pacific coast of the Boso peninsula, Central Japan
Makoto Otsubo, Naofumi Yamaguchi, Shin’ichi Nomura, Nozomi Kimura and Hajime Naruse

千葉県勝浦海岸ぼらの鼻で認めれた黒滝不整合の剪断面
大坪 誠,山口直文,野村真一,木村希生,成瀬 元


[Review Articles]

2. Timing of collision of the Kohistan–Ladakh Arc with India and Asia: Debate
Hafiz Ur Rehman, Tetsuzo Seno, Hiroshi Yamamoto and Tahseenullah Khan

コヒスタン−ラダック弧のインドおよびアジアとの衝突時期についての論争
Hafiz Ur Rehman,瀬野徹三,山本啓司,Tahseenullah Khan


コヒスタン−ラダック弧は,島弧地殻断面の露出域として知られている.この島弧の形成,アジア−インド両大陸との衝突の時期,衝突時の位置に関して盛んに議論がなされてきた.概ね受け入れられている説は,102~75 Maに赤道付近もしくは北半球低緯度地域で島弧がアジアと衝突し,55~50 Maにインドが衝突したとするものである.近年,島弧とインドの衝突が61 Ma以前で,島弧を含むインドとアジアの衝突を50 Ma頃とする説が提唱されている.後者の衝突順による最も詳細なモデルでは,コヒスタン−ラダック弧は赤道付近でインドと衝突・合体し,北緯30°以北でアジアに衝突したとされる.この場合,インドプレートの北進速度が60 Ma頃以降は異常に大きい値 (30 ± 5 cm/yr)であったことになる.本論では,種々の既存データ,特にオフィオライト,青色片岩,52Ma以前の海成層の分布に着目して検討し,島弧とアジアの衝突が先で,島弧を含むアジアとインドの衝突が後とするのが妥当と結論する.
 
Key Words : Asian Plate, Indian Plate, Kohistan–Ladakh Arc, Northern Suture, Southern Suture, timing of collision.
 

[Research Articles]

3. Petrogenetic modeling of rock variety in the Khalkhab–Neshveh pluton, NW of Saveh, Iran
Mehdi Rezaei-Kahkhaei, Dariush Esmaeily and Fernando Corfu

イラン,サヴェー北西部のKhalkhab-Neshweh深成岩体を構成する岩石類の成因モデル
Mehdi Rezaei-Kahkhaei, Dariush Esmaeily and Fernando Corfu


Khalkhab–Neshveh深成岩類は,Urumieh–Dokhtar Magmatic Arcの一部をなし,一帯を覆う後期漸新世から前期中新世の玄武岩類や安山岩類を貫いている.石英モンゾ斑糲岩,石英モンゾ閃緑岩,花崗閃緑岩,花崗岩の組成をもち,medium-Kからhigh-K,メタアルミナス,Iタイプの特徴をもつ深成岩である.単斜輝石,斜長石,角閃石,燐灰石,チタナイトの晶出に強く支配された弱い分別トレンドを示し,K2Oを除く主要な元素は,SiO2に対して負の相関を示し,Al2O3, Na2O, Sr, Eu, Yは曲線的なトレンドをもつ.玄武岩質マグマとデイサイト質マグマの混合,重力分別晶出作用,in situ結晶作用を含むマグマの分化作用の3つのプロセスのうち,in situ結晶作用が,Khalkhab–Neshvehマグマの発達に寄与した可能性が最も高い.この結論は,すべての岩石種が同じレベルに産すること,花崗岩質岩中に塩基性の捕獲岩を欠くこと,Na2O, Sr, Euの曲線的な分化トレンド,モンゾ閃緑岩と花崗岩それぞれの87Sr/86Sr比が一定であること(前者は0.70475,後者は0.70471)からも支持される.In situ結晶作用は,1050℃以上の温度条件下において貫入岩体の周辺部で発生した斜長石と単斜輝石斑晶の沈積と石英モンゾ斑糲岩と石英モンゾ閃緑岩におけるこれら斑晶の濃集,および約880℃におけるホルンブレンド,斜長石,そして後期の黒雲母の絞り出し作用と分化作用を経て生じた.
 
Key Words : in situ crystallization, Iran, magma mixing, petrogenetic modeling, Urumieh–Dokhtar Magmatic Arc.
 

4. Calcareous nannofossil biostratigraphic study of forearc basin sediments: Lower to Upper Cretaceous Budden Canyon Formation (Great Valley Group), northern California, USA
Allan Gil S. Fernando, Hiroshi Nishi, Kazushige Tanabe, Kazuyoshi Moriya, Yasuhiro Iba, Kazuto Kodama, Michael A. Murphy and Hisatake Okada

米国北カリフォルニアに分布する前弧海盆堆積物,下部〜上部白亜系ブッデン・キャニオン層(グレート・バーレイ層群)のナノ化石層序の研究
Allan Gil S. Fernando, 西 弘嗣,棚部一成,守屋和佳,伊庭靖弘,小玉一人,Michael A. Murphy and岡田尚武


北カリフォルニアに分布するブッデン・キャニオン(Budden Canyon)層のノースフォーク・コットンウッド・クリーク(North Fork Cottonwood Creek)・セクションにおいて,BC/UC化石帯を用いてナノ化石層序を設定した.この化石層序と古地磁気層序を統合すると,本層はオーテビリアンからチューロニアン中期の地質時代を示し,各ステージ境界も本層の中に設定することができた.これらの結果から,ヒューリング砂岩部層(Huling Sandstone Member)の基底とチカバリ部層(Chickabally Member)の上部に,不整合の存在が推定される.ナノ化石群集は,バレミアンとアプチアン初期までは冷水塊の影響下にあるが,アルビアンからチューロニアンでは暖流化の群集へと変化することから,中期白亜紀の温暖化の影響を受けていることがわかる.従来の研究では,海洋無酸素事変の存在はブッデン・キャニオン層から報告されていなかったが,有機物量の変化からOAE2の存在が示唆される.
 
Key Words : biostratigraphy, Budden Canyon Formation (BCF), calcareous nannofossils, California, Cretaceous, Great Valley Group (GVG), oceanic anoxic event 2 (OAE2).
 

5. Thermal histories of Cretaceous basins in Korea: Implications for response of the East Asian continental margin to subduction of the Paleo-Pacific Plate
Taejin Choi and Yong Il Lee

朝鮮半島の白亜系堆積盆の熱史:古太平洋(イザナギ)プレートの沈み込みに対する東アジア大陸縁辺部の応答に関する考察
Taejin Choi and Yong Il Lee


古太平洋(イザナギ)プレートの沈み込みに対する東アジア大陸縁辺部の応答を理解するために朝鮮半島の白亜系堆積盆の熱史を検討した.イザナギプレートは東アジア大陸に対し,白亜紀前期には斜め方向に,白亜紀後期には直交方向に沈み込んでいた.Pull-apart basinである鎭安堆積盆(Jinan Basin)におけるイライト結晶度とアパタイトのフィッショントラック年代検討結果は,同堆積盆の堆積物の埋没温度が287°Cに達したことを示す.その後,同堆積盆では95〜80 Maおよび約30Ma以降という2回の冷却期があった.同様の冷却パターンは,韓国における白亜紀最大の堆積盆である慶尙堆積盆(Gyeongsang Basin)でも認められる.鎭安堆積盆ならびに慶尙堆積盆は,95〜80Maに主に上昇により冷却したが,イザナギプレートの沈み込み方向の変化によるtranspressional force (斜め圧縮力)のため,鎭安堆積盆の方が慶尙堆積盆よりもやや早く上昇した.朝鮮半島の白亜系堆積盆,中国東北部の花崗岩類,西南日本の付加コンプレックスの熱史の比較検討より,朝鮮半島を含む東アジア大陸縁辺部で95〜80 Maに生じた上部白亜系の地域的な上昇は,当時,北東方向に移動しつつあったIzanagi–Pacific ridgeの沈み込みによって促進され,約80Maには上昇が終了した.
 
Key Words : active continental margin, Cretaceous, fission-track dating, Korean peninsula.
 

6. Alkaline lamprophyric province of Central Iran
Fereshteh Bayat and Ghodrat Torabi

中央イランのアルカリ・ランプロファイア分布域
Fereshteh Bayat and Ghodrat Torabi


中部−東部イランマイクロコンティネントの西部には,古生代のランプロファイア類が良く露出している.ここではランプロファイア類は,火山や岩脈,岩頸(plug)をなして産する.構成鉱物は,角閃石,単斜輝石,斜長石,カリ長石,かんらん石,クロムスピネル,チタナイト,黒雲母,イルメナイトである.噴出岩の産状をもつランプロファイアは,主に斑状組織,トラキティック組織,マイクロリシック組織,バリオリティック組織をもち,岩脈や岩頸では間粒状組織が一般的である.これらのランプロファイアには,広域的に変成作用を受けているところがある.岩石学的・地球化学的な性質から,これらがアルカリ・ランプロファイアとカンプトナイトに分類されることがわかる.アルカリ(Na2O + K2O)やLIL元素,軽希土類元素に富み,微量元素濃度は,プレート内玄武岩に類似する.本研究により,ランプロファイア類は,交代作用によって生じた角閃石を含むスピネルレルゾライトの様々な程度の部分溶融に由来することが示唆される.古生代前期から後期にかけての古テチス海洋地殻の沈み込みがマントル内に流体を富ませた結果,ランプロファイアの火成作用が大小の断層に沿って生じたと考えられる.この中部イランにおける広範囲な地域の限定的かつ典型的なランプロファイアの火成作用は,古生代が長く続いたにも関わらず,中部イランの火成作用でみる限り,比較的静かな時代であったといえる.
 
Key Words : Alkaline lamprophyre, Central Iran, metasomatized mantle, Paleo-Tethys, Paleozoic.
 

7. Phengite geochronology of crystalline schists in the Sakuma–Tenryu district, central Japan
Nguyen Dieu Nuong, N. G. O. Xuan Thanh, Chitaro Gouzu and Tetsumaru Itaya

中部日本佐久間—天竜地域における結晶片岩のフェンジャイトK-Ar年代学
Nguyen Dieu Nuong, N. G. O. Xuan Thanh,郷津知太郎・板谷徹丸


佐久間天竜地域には主に泥質片岩と塩基性片岩を産する.その変成帯は白倉ユニットと瀬尻ユニットに分帯される.両ユニットから泥質片岩を採集し,そのフェンジャイトのK-Ar年代測定と炭質物のXRD分析を実施した.年代と炭質物の結晶面間隔d002の関係を調べた結果,変成温度の上昇とともに前者では年代が古く(66-73Ma)なり四国中央部三波川高圧変成帯と同じ傾向であった.後者では若く(57-48Ma)なり関東山地の四万十高圧変成帯と同じ傾向であった.この対照的な年代と変成温度の関係は変成帯の上昇過程におけるテクトニクスの違いに因る.つまり,前者ではピーク変成作用とその後の上昇冷却過程におけるフェンジャイトK-Ar系の閉鎖が3100万年以上かかり,後者では1300年以下であったことに因る.沈み込むプレート境界の性質の違いが変成帯の上昇過程の違いをもたらしたと解釈する.
 
Key Words : age–temperature–structure relation, d002 of carbonaceous material, exhumation processes, K–Ar phengite ages, Sanbagawa schists, Shimanto schists.
 

8. Submerged reefal deposits near a present-day northern limit of coral reef formation in the northern Ryukyu Island Arc, northwestern Pacific Ocean
Hiroki Matsuda, Kohsaku Arai, Hideaki Machiyama, Yasufumi Iryu and Yoshihiro Tsuji

北西太平洋琉球列島北部,現世サンゴ礁北限域の沈水サンゴ礁性堆積物
松田博貴, 荒井晃作, 町山栄章, 井龍康文, 辻 喜弘


現在のサンゴ礁北限近傍に位置する奄美大島北方ならびに喜界島南西方海域において,氷期にもサンゴ礁が存在したか否かを明らかにするために,高解像度音波探査を実施した.その結果,奄美海脚の中央部ならびに東側の陸棚縁から陸棚斜面上部にかけて,海底面直下のよく成層した堆積物中に,比高15m,幅400m程度のマウンド状高まりが,複数存在することが明らかとなった.これらは,強反射面と不明瞭な内部構造に特徴づけられ,サンゴ礁あるいは粗粒炭酸塩堆積物であると考えられる.また喜界島南方沖の陸棚縁付近の海底面には,不規則な地形的高まりが確認された.以上の結果から,これらのマウンド状高まりは,最終氷期に形成されたサンゴ礁の可能性が指摘される.
 
Key Words : coral reefs, high-resolution seismic survey, Kuroshio, Last Glacial Maximum, Ryukyu Islands.
 

9. Fluid inclusion microthermometry for P–T constraints on normal displacement along the Median Tectonic Line in Northern Besshi area, Southwest Japan
Tetsuzo Fukunari, Simon R. Wallis and Toshiaki Tsunogae

西南日本別子地域北部における流体包有物解析から得られた中央構造線正断層運動の温度・圧力条件推定
福成徹三,Simon R. Wallis,角替敏昭

中央構造線は三波川変成帯と領家変成帯を分かつ一次的なテクトニック境界である.この断層帯の大規模な北落ち正断層運動は三波川高圧変成帯の上昇に寄与した可能性がある.中央構造線の運動に関連して三波川帯中に発達した二次断層に付随する石英脈の流体包有物解析は,正断層運動が250度以上の温度条件で始まったことを示す.脈を構成する石英とカリ長石の微細構造も約300度で変形を受けたことを示唆し,流体包有物解析の結果をサポートし,変形の深度が10km程度であったことを示唆する.流体包有物の等容積線と三波川帯後退変成時の温度圧力経路は整合しない.周辺岩石の半塑性変形及び脈周辺の熱水変成の欠如から,岩石と流体の温度条件は同様であったと推定される.これらの観察は中央構造線近傍にて脈内の流体が静岩圧より低かったことを示唆する.
 
Key Words : exhumation of the Sanbagawa Belt, fluid inclusion, fluid pressure, Median Tectonic Line, microthermometry.
 

10. CHIME monazite dating as a tool to detect polymetamorphism in high-temperature metamorphic terrane: Example from the Aoyama area, Ryoke metamorphic Belt, Southwest Japan
Tetsuo Kawakami and Kazuhiro Suzuki

高温変成帯における複変成作用を検知するツールとしてのCHIMEモナズ石年代−領家変成帯青山高原地域の例
河上哲生,鈴木和博

領家変成帯青山高原地域において,砂泥質ミグマタイトと阿保花崗岩(新期領家花崗岩)のCHIMEモナズ石年代測定を行った.その結果,ミグマタイト中のモナズ石は,主としてコアで96.5±1.9 Maの年代を,リムやパッチ状の若返り部で83.5±2.4 Maの年代を与えた.83.5±2.4 Maの年代は,砂泥質ミグマタイトが卓越するザクロ石−菫青石帯のモナズ石で広く観察された.また,阿保花崗岩は79.8±3.9 Maを与えた.砂泥質ミグマタイトに見られる83.5±2.4 Maの年代と,阿保花崗岩の年代の良い一致は,阿保花崗岩を含む新期領家花崗岩による熱的影響および流体活動の影響が,広くザクロ石−菫青石帯全体に及んでいたことを示している.ザクロ石−菫青石帯に対する接触変成作用がこれまで変成鉱物組合せから見いだされていなかった理由は,ミグマタイトが接触変成作用を受ける前に,既に高温のザクロ石−菫青石組合せを有していたためであろう.その一方で,モナズ石には接触変成作用が明瞭に記録されている.従って,グラニュライト相の変成岩に対する角閃岩相高温部の接触変成作用など,主要な変成鉱物の成長によって認識することが困難な複変成作用を認識するためのツールとして,野外でのCHIMEモナズ石年代の広域マッピングは威力を発揮するだろう.
 
Key Words : electron microprobe dating, fluid, migmatite, monazite, polymetamorphism, rejuvenation.