Vol. 19  Issue 2 (June)

 

 

通常論文

 [Pictorial Articles]

1. Lake shoreline deformation in Tibet and mid-crustal flow, Simon R. Wallis, Hiroshi Mori, Kazuhiro Ozawa, Mayumi Mitsuishi, Chie Shirakawa

チベット高原における湖岸段丘の変形と中部地殻の流動
Simon R. Wallis,森 宏,小澤和浩,三石真祐瞳,白河知恵

 

[Review Articles]

2. Late Mesozoic subduction-induced hydrothermal gold deposits along the eastern Asian and northern Californian margins: Oceanic versus continental lithospheric underflow, Wallace Gary Ernst

アジア東縁部と北部カリフォルニア縁辺部における中生代後期の沈み込み由来の熱水性金鉱床:海洋と大陸リソスフェアの沈み込みの比較
Wallace Gary Ernst

中生代後期における古太平洋プレートの沈み込み時,膨大な金鉱床が中国の東部〜中央部と東アジアの延長部およびクラマス山と北部カリフォルニア・シェラネ バダ山麓で形成された.東アジアでは,初期の横ずれ運動と305-210 Maの大陸衝突が,高圧〜超高圧変成作用を伴う造山運動を引き起こしたが,広範な中性〜酸性の火成活動ないしは大量の熱水性金鉱床は伴わなかった.同様 に,北部カリフォルニアでは,380 Maから160 Maの間,軽微な展張および圧縮を伴う横ずれ運動が,海洋性テレーンのエピソディックな衝突(stranding)を引き起こしたが,わずかな花崗岩質マ グマの活動とわずかな金鉱床をもたらすに留まった.しかし,これら両者の大陸縁辺域において,白亜紀の海洋リソスフェアのほぼ正面衝突による破壊は,持続 的な沈み込み(underflow)を引き起こし,深度100 kmの火成活動の場に達し,沈み込んだ苦鉄質〜超苦鉄質プレートは脱水して,大量のカルクアルカリマグマによる島弧火成活動をもたらした.中〜上部地殻へ の深成岩体の上昇は二酸化炭素と硫黄を含む流体を放出する,あるいは接触変成作用を受けた母岩脱ガス作用を引き起こした.このような熱水流体は金を破砕帯 や断層帯に沿って運び,やがて冷却し,流体の混合を起こし,蛇紋岩や大理石といった対照的な組成の母岩と反応し,局所的に沈殿させた.これとは対照的に, 大陸地殻が100 kmまで沈み込むと,わずかな花崗岩質メルトとわずかな金鉱脈のみが形成された.大陸縁や島弧における貴重な金属を含む流体の移動には,大陸リソスフェア ではなく海洋リソスフェアが長期にわたって継続的に沈み込むことを必要とする.
 
Key Words : Continental plate subduction, hydrothermal gold deposits, oceanic plate subduction
 

[Research Articles]

3. Orthopyroxene–cordierite mafic gneiss from the Nomamisaki metamorphic rocks, Southern Kyushu, Japan: Implication for western continuation of the Usuki–Yatsushiro Tectonic Line, Takeshi Ikeda, Aya Hiramine and Tetsuji Onoue

南部九州,野間岬変成岩類中の斜方輝石−菫青石塩基性片麻岩:臼杵−八代構造線の西方延長の推定
池田 剛,平峯 綾,尾上 哲治

南部九州,野間岬に分布する野間岬変成岩類から斜方輝石−菫青石を含む塩基性片麻岩を見い出した.鉱物組み合わせは斜方輝石,菫青石,黒雲母,斜長石,イ ルメナイトである.最高変成温度は,斜方輝石と黒雲母のFe, Mg 交換反応に基づく温度計を用いて,680℃と推定された.圧力の上限を菫青石の安定領域から推定し,菫青石 = ザクロ石 + 石英 + 珪線石 の反応より,4.4 kbar と見積もった.これらの変成条件より野間岬変成岩類が低圧高温型の変成作用を被ったことが明らかになった.変成年代に議論の余地が残されるが,変成条件の 比較より,野間岬変成岩類は肥後変成岩類の西方延長とみなすことができる.従って,肥後帯の南限を定義する臼杵−八代構造線は,南部九州では野間岬変成岩 類の東側に位置すると考えられる.
 
Key Words : Orthopyroxene, cordierite, Nomamisaki metamorphic rocks, Usuki–Yatsushiro Tectonic Line
 

4. Formation and deformation processes of late Paleogene sedimentary basins in southern central Hokkaido, Japan: Paleomagnetic and numerical modeling approach, Machiko Tamaki, Shigekazu Kusumoto and Yasuto Itoh

中央北海道南部域における古第三紀堆積盆の形成過程と変形運動評価 〜古地磁気学的手法と数値モデリングからのアプローチ〜
玉置真知子
楠本成寿伊藤康人
中央北海道南部域における古第三紀堆積盆の形成過程と変形運動を評価するため,古地磁気学的手法と数値モデリングからアプローチをおこなった.馬追−夕張 地域に分布する古第三紀堆積物の古地磁気偏角は,中新世の回転運動の影響を除いた結果,有意な東偏を示し堆積期間中の回転運動が示唆される.また,プルア パート運動に伴って形成したとされる南長沼堆積盆をディスロケーションモデリングで再現した結果,必要とされる横ずれ量は約30 kmであることが示された.堆積期間から想定される横ずれ速度は約10 mm/yrとなる.本研究の結果から,南長沼堆積盆を形成した横ずれ断層は古第三紀の主要な構造境界であることが示唆され,その活動はユーラシア東縁の広 域な再配列に影響を与えたと考えられる.
 
Key Words : dislocation modeling, late Paleogene, paleomagnetism, pull-apart basin, southern central Hokkaido
 

5. Geochemistry of the Zargoli granite: Implications for development of the Sistan Suture Zone, southeastern Iran, Mehdi Rezaei-Kahkhaei, Ali Kananian, Dariush Esmaeily and Abbas Asiabanha

Zargoli花崗岩の地球化学:イラン南東部Sistan Suture Zoneの発達因
Mehdi Rezaei-Kahkhaei
Ali KananianDariush EsmaeilyAbbas Asiabanha
Zahedan北西部において北東ー南西方向に分布するZargoli花崗岩は,始新世から漸新世の広域変成作用を受けたフリッシュタイプの堆積物であ る.鉱物のモード比と化学組成は,この深成岩体が,黒雲母花崗岩と黒雲母花崗閃緑岩で構成されていることを示し,迸入時に周囲の岩石と混合し,そのため化 学組成がわずかにAlに富んでいる.これらの岩石のSiO2量は62.4-66 wt%で,Shandのアルミナ飽和指数[Al2O3/(CaO+Na2O+K2O)]は約1.1である.化学組成のばらつきは,主に結晶分化および黒雲 母の不均一な分布による.これらの岩石の特徴は,大陸衝突後に形成される典型的な花崗岩質岩に類似している.コンドライトで規格化された希土類元素パター ンは,(La/Lu)N=2.25-11.82で,著しいEuの負の異常(Eu/Eu*=3.25-5.26)をもつ.ジルコン飽和温度計は,妥当なマグ マからのジルコンの晶出温度(767.4-789.3℃)を与える.これらの特徴は,中間的なMg# 値[=100Mg/(Mg + Fe)] (44–55),Fe + Mg + Ti (millications) = 130–175, Al–(Na + K + 2Ca) (millications) = 5–50などの値を考慮すると,これらの岩石が石英-長石に富む変成した火成岩からなる下部地殻の脱水を伴う部分溶融に由来することを示唆している.
 
Key Words : I-type, Iran • geochemistry, meta-igneous source, petrogenesis, post-collision granite,  Sistan Suture Zone, Zargoli granite

 

6. Early Oligocene alkaline lamprophyric dykes from the Jandaq area (Isfahan Province, Central Iran): Evidence of Central–East Iranian microcontinent confining oceanic crust subduction,
Ghodrat Torabi

Jandaq地域(イラン中部エスファハーン地域)に分布する漸新世初期のアルカリ・ランプロファイアー岩脈:海洋地殻の沈み込みを規制する中部−東イランマイクロコンチネントの証拠
Ghodrat Torabi

Jandaq地域に分布するランプロファイアーは南北方向の8つのほぼ平行な岩脈群として,Pis-Kuh層の始新世火山岩と堆積岩を切って産する.これらランプロファイアーは,主に,ケルスート閃石,単斜輝石,カンラン石,長石,イルメナイト,スピネル等の初生鉱物からなる.これらはアルカリ成分,TiO2, LIL元素,軽希土類元素(LREE)に富み,SiO2量は41.7-46.2 wt%である.鉱物学的および化学的な特徴から,カンプトナイトとアルカリランプロファイアーに分類される.これらの岩石は,Euの正の異常を示し,重希土類元素(HREE)に対し,LREEに著しく富むとともに,広い範囲のZr/Hf比を持つことで特徴づけられる.これら岩石の地球化学的特徴は,ランプロファイアー・マグマが沈み込みスラブの脱水溶融によって生じた炭酸塩成分に富んだ流体による交代作用を顕著に受けた角閃石-ざくろ石レルゾライトの低度の溶融に由来することを示唆している.Jandaq地域のランプロファイアの火成活動は,三畳紀から始新世までの海洋地殻を閉じこめる中央〜東イランの微小大陸の沈み込みと漸新世初期のJandaq地域の展張盆によって引き起こされた減圧下での溶融に起因している.
 
Key Words : alkaline rocks, central Iran, dyke, early Oligocene, Jandaq, lamprophyre
 


7. Geochemistry and petrology of garnet-bearing S-type Shir-Kuh Granite, southwest Yazd, Central Iran, Mariyam Sheibi, Dariush Esmaeily, Ann Nédélec, Jean Luc Bouchez and Ali Kananian

中部イラン,ヤズド地域南西部に分布するざくろ石を含むSタイプSir-Kuh花崗岩の地球化学と岩石学
Mariyam Sheibi
Dariush EsmaeilyAnn NédélecJean Luc Bouchez,Ali Kananian
中央イランに分布するジュラ紀Shir-Kuh花崗岩質バソリスは,ジュラ紀の砂岩と頁岩を貫いている.バソリスは,(i)北部の花崗閃緑岩質相,(ii)バソリス全体に広く分布するモンゾ花崗岩質相,(iii) 北西縁部に沿って分布する優白色花崗岩質相,の3相からなる.花崗閃緑岩は,主に斜長石,石英,カリ長石,黒雲母からなり,少量の白雲母,ざくろ石,菫青石,イルメナイト,ジルコン,モナザイトを含む.花崗閃緑岩質相は,主にCaに富んだ斜長石の核部と黒雲母の細粒の集合体で特徴づけられる様々な量のレスタイト鉱物を含む.花崗閃緑岩と同様の構成鉱物をもつモンゾ花崗岩は,菫青石を含むややマフィックなものから白雲母に富むフェルシックなものまで幅がある.小規模な岩株や岩脈として産する優白色花崗岩は,主に石英,カリ長石,Na斜長石からなる.バソリスは,過アルミナ質,カルクアルカリ質で,Na2O量(=2.74%),Al2O3/(CaO + Na2O + K2O) (A/CNK)比 (=1.17), K2O/Na2O 比(=1.39),(87Sr/86Sr)i = 0.715)の値から示されるように典型的なSタイプである.また,Rb, ThやK等のLIL元素に富み,NbやTi等のHFS元素に乏しい.コンドライトで規格化した希土類元素のパターンは,軽希土類元素(LREE)に富むこと((La/Yb)N=4.5-19.53),未分化の重希土類元素((Gd/Yb)N=0.98-2.88),顕著なEuの負の異常で特徴付けられる.Shir-Kuh花崗岩の初生マグマは,地殻中の斜長石に富む変成堆積岩起源(変成グレイワッケの局所的なアナテクシス)で,マントルの溶融した成分からの熱の導入を伴う.結晶分化作用に先立つ初生メルトからのレスタイト結晶の分離は,バソリス内での効果的な分離プロセスであったと考えられる.
 
Key Words : garnet, Iran, peraluminous, restite, S-type granitoids

 

8. Pressure-temperature history of titanite-bearing eclogite from the Western Iratsu body, Sanbagawa Metamorphic Belt, Japan, Shunsuke Endo

三波川変成帯・西五良津岩体の含チタナイトエクロジャイトの温度‐圧力履歴
遠藤俊祐
四国中央部三波川帯の西五良津岩体は主に玄武岩および石灰質堆積物を起源とするエクロジャイト岩体のひとつである.本研究は,チタナイトを含むエクロジャイトに焦点を当て岩石学的研究を行った.西五良津岩体は緑簾石‐角閃岩相の変成作用の後,エクロジャイト相変成作用を経験している.温度‐圧力履歴は初期に反時計回り,続いて時計回りという複雑な経路が導出され,三波川沈み込み帯の熱的進化における2つの比較的高温な時期に対応すると考えられる.初期の反時計回り経路は沈み込み開始直後の高温沈み込みに関係づけられる.一方,エクロジャイト相変成作用は,ほかの三波川エクロジャイト岩体において見積もられている温度‐圧力条件とほぼ一致し,各エクロジャイト岩体は連続した大規模なユニットを構成している可能性が高い.また,時計回りの温度‐圧力経路は高温沈み込みへの遷移を示唆し,三波川帯の上昇が海嶺沈み込み直前に起こったとするモデルと調和的である.西五良津岩体は1つの海洋沈み込みサイクルの履歴を保持している可能性が示唆される.
 
Key Words : eclogite, pressure–temperature path, Sanbagawa Belt, subduction zone tectonics, titanite

 

9. Geological and mineralogical study of eclogite and glaucophane schists in the Naga Hills Ophiolite, Northeast India, Naresh C. Ghose, Om Prakash Agrawal and Nilanjan Chatterjee

インド北東部,Naga Hillsオフィオライトにおけるエクロジャイトと藍閃石片岩の地質学的および鉱物学的研究
Naresh C. Ghose,Om Prakash Agrawal,Nilanjan Chatterjee
一連の低圧〜高圧変成組合せが,インド−ユーラシア衝突帯のインド・ミヤンマー地域北部,Naga Hills中部地域に分布する白亜紀後期〜始新世のオフィオライト帯の変成塩基性岩と変成チャートに認められる.オフィオライトは,ざくろ石レールゾライトの捕獲岩を含むかんらん岩テクトナイト,層状超苦鉄質−苦鉄質沈積岩,変成塩基性岩,玄武岩質溶岩,火砕岩,斜長岩,遠洋性堆積物からなり,これらは中程度に変成した付加体の堆積岩/基盤岩(すなわちNimi層/Naga変成岩)と海洋性堆積物(Disang flysh)との間のスラスト境界において,ばらばらになった覆瓦状の岩体として産する.オフィオライトは古第三紀のオフィオライト由来の粗粒な砕屑性の堆積物からなるJopi/Phokphur層に覆われる.変成塩基性岩は,バロア閃石と藍閃石を含む高変成度の緑簾石エクロジャイト,藍閃石片岩,低変成の緑色片岩,ぶどう石−クリノクロア片岩を含み,西方スラスト境界で溶岩流と超苦鉄質沈積岩を伴う.変成塩基性岩は,化学組成上,中央海嶺玄武岩にみられるような枯渇したマントル由来のlow-Kソレアイトの性質をもつ.地質温度計は,20 kb,525℃のピーク温度圧力条件を示す.岩体上昇時に後退変成作用を受け,バロア閃石とオンファス輝石が藍閃石に置換され,さらに二次的にアクチノ閃石,曹長石,緑泥石が形成されている.核部のエクロジャイトが連続的に藍閃石片岩と緑色片岩の層に取り囲まれている変成塩基性岩のレンズは,岩体が後退変成作用を受けつつ上昇した証拠を与える.ざくろ石レールゾライトに認められるS-Cマイロナイトと藍閃石片岩の'mica fish'は,オフィオライトが上昇した剪断帯における脆性変形作用を示している.
 
Key Words : ductile deformation, eclogite, garnet lherzolite, glaucophane schist, Indian Plate, quenched basalt, Naga Hills Ophiolite

 

10. Large-scale folding in the Asemi-gawa region of the Sanbagawa Belt, southwest Japan, Hiroshi Mori and Simon Wallis
Laura Baker Hebert and Michael Gurnis

西南日本,三波川帯・汗見川地域の大規模褶曲
森 宏,Simon Wallis
一般的に三波川帯は構造的上位ほど,より高変成度となっている.この逆転は,典型的な沈み込み場での初生的な逆転温度構造を反映していると解釈可能である.しかし,四国中央部でみられる変成度の分布の繰り返しは,初生的な温度構造が変成ピーク後の変形の影響を受けてきたことを示す.この繰り返しはテクトニックな不連続作用と広域的な褶曲に起因すると考えられてきた.初生的な沈み込み帯での連続性の保存程度を決定するためには,これら二つの解釈の識別が重要である.岩相および構造解析データは,最高変成域中央部に変成作用後の大規模褶曲が存在することを示す.この褶曲は変成帯の分布が示す温度軸に一致する褶曲軸をもち,この範囲での変成度の繰り返しが,大きな不連続を必要としない,大規模褶曲によって説明可能であることを示す.
 
Key Words : Asemi-gawa , ductile deformation , fold vergence , large-scale fold , protolith stratigraphy , Sanbagawa Belt