特集号:Thematic Section:Fluid-rock interaction in the bottom of the inland seismogenic zone
Guest Editors : Masaru Terabayashi, Kazuaki Okamoto, Hiroshi Yamamoto and Yu-Chang Chan
日本における地殻大地震発生域の地震学的解剖:島弧マグマと流体の関与
趙 大鵬,M. Santosh, 山田 朗
近年の高解像度地震波トモグラフィーによって得られた,1995-2008年に日本列島で発生した地殻内大地震の発生域における3次元地震波速度構造とそ の解釈について,本論文において統合的論述を行う.最も特徴的な構造異常は,本震の震源直下の地殻とマントル最上部において明瞭な地震波低速度・高ポアッ ソン比である.これは,沈み込むスラブの脱水とマントルウェッジ内のコーナーフローによってもたらされた島弧マグマや流体の存在を示唆している.また,1885-2008年の期間に発生した164個の地殻内地震(マグニチュード5.7-8.0)の分布には,地殻・マントル最上部内の地震波低速度異常 の分布との間に明らかな相関が認められる.これらを踏まえ,現在までに行われてきた日本における地球物理学的観測事実を説明するための定性的モデルを提案 する.大地震の震源核の形成は,応力・摩擦といった物理的プロセスのみならず,沈み込みのダイナミクスや地殻・上部マントルの構成物質の物理的・化学的特 性,特に島弧マグマと流体が深く関与していると考える.
Key Words : arc magma, fluids, large earthquakes, mantle wedge, seismic tomography, slab dehydration
西南日本の低P/T比型領家変成帯における泥質片岩の珪化作用:中部地殻におけるコンピテント層の起源
寺林 優,山本啓司,樋渡絵理,北島宏輝
西南日本の岩国—柳井地域において,白亜紀の低P/T型領家変成帯中にコンピテントな珪化岩が分布する領域があることを確認し,それが中部地殻での地震波反射面であるブライトレイヤーに相当するものであることを提案する.珪化岩は緑色片岩相の泥質変成岩の中に厚さ数メートルから15メートルほどの層状あるいはレンズ状岩体として露出する.珪化岩分布領域の構造上の厚さは約1キロメートルである.珪化岩層またはレンズのみかけの下側とその下位にある黒雲母片岩との境界は明瞭であるが,上位側の泥質片岩との境界は漸移的である.珪化岩を構成する鉱物は細粒の石英,少量の白雲母と黒雲母であり,有色鉱物の一部は変質して脱色している.このことは,珪化作用が泥質片岩の色を淡灰色や乳白色に変えたことを意味する.珪化岩中には片理面と高角度で交わる石英脈が発達するが,下位の黒雲母片岩中には流動変形を被った片理に平行な石英脈が認められる.このような石英脈の出現様式は,珪化岩が下位の黒雲母片岩に対してコンピテントであることを示している.このようなコンピテンスの大きな差は,地震波の明瞭な反射面となると考えられる.中部地殻に珪化岩層がある程度の頻度で存在していると,地震波を強く反射するブライトレイヤーとなる可能性がある.
Key Words : bright-layer, competence, large inland earthquake, seismogenic layer, silicification
地殻深部相当の温度圧力条件下におけるP波・S波速度、ポアソン比、Vp/Vs比の同時測定:西南日本領家帯に産する珪化泥質片岩の例
松本有希, 石川正弘, 寺林優, 有馬眞
P波・S波同時発信型のデュアルモード圧電素子を用いた岩石の弾性波速度測定では,P波速度(Vp)とS波速度(Vs)を同時測定することが可能であり,弾性波速度や弾性率,そしてそれらの温度微分係数・圧力微分係数をより精密に測定することが可能である.特に,測定試料長の変化に依存しないパラメータであるVp/Vs比は,従来のシングルモード圧電素子を用いた測定実験(VpおよびVsを個別に測定)と比較して,格段に測定精度が向上した.本論では,西南日本領家帯に産する珪化泥質片岩を例として,P波・S波速度,ポアソン比,Vp/Vsの同時測定の結果を示し,デュアルモード圧電素子を用いた岩石の弾性波速度測定の意義を述べる.
Key Words : bright spot, elasticity, Vp/Vs, Poisson's ratio, quartz, Ryoke Belt
甲府花崗岩の単一流体包有物の微量元素組成:花崗岩起源流体の組成に対する意味
黒澤正紀、石井 聡、笹 公和
島弧の花崗岩起源流体の化学組成と挙動を検討するため,甲府の中新世黒雲母花崗岩体の晶洞・ペグマタイト・石英脈の石英に含まれる流体包有物を粒子線励起X線分析法(PIXE)で分析した.流体包有物の大部分は水を含む二相包有物で,岩塩を含む多相包有物も岩体上部の石英脈に観察された. 晶洞の流体包有物の元素組成から,花崗岩固結時の初生的な放出流体は数百〜数十ppmのMn・Fe・Cu・Zn・Ge・Br・Rb・Pb・Baを含み,塩濃度約10wt%の組成だったと推定された.この流体は,花崗岩の固結条件と包有物の均質化温度に基づき,温度530〜600 °C・圧力約 1.3〜1.9 kbで形成されたと考えられる.多相包有物は,岩体内を上昇する流体の一部が沸騰して生じた可能性が高い.多相包有物は,数百〜数万ppmのFe・Mnと数百〜数千 ppm のCu・Zn・Br・Rb・Pbを含み、約35 wt % の塩濃度である.晶洞や石英脈の二相包有物の組成多様性は,副次的には地表水による希釈の影響も伴うが,大部分は鉱物の晶出によって説明される.そのため,花崗岩体中の花崗岩起源流体の組成と挙動は,初生的な放出流体の鉱物晶出や沸騰・希釈によって説明される可能性がある.
Key Words : fluid inclusion, granite, hydrothermal ore deposit, PIXE, trace element
東北日本におけるヘリウム同位体比の空間分布
堀口桂香,植木貞人,佐野有司,高畑直人,長谷川昭,五十嵐丈二
東北日本において,温泉ガス中に溶存するヘリウム同位体比を測定し,その空間分布を詳細に調べた.その結果,火山フロント沿いの同位体比には地域的な分布がみられ,北緯38º〜39ºの地域は多くの観測点で2〜5 RAであるのに対し,北緯39.0º〜39.5ºの地域では1 RA程度であり,地殻起源4Heの卓越した分布を示した.こうした火山フロントに沿った地域差は,高密度観測を実現した本研究によって初めて明らかにされた事実である.
また,同位体比の空間分布と,地球物理学研究により推定された地下構造とを比較検討し,両者の空間的特徴には関係性があることを見出した.これは,ヘリウム同位体比の空間分布が,深部流体やメルトの起源と挙動を探るための有力な手段であることを示唆する.
Key Words : 3He/4He ratios, northeastern Japan, seismic tomography, subduction zone
クリル弧国後島の後期新生代溶岩の地球化学
Alexey Y. Martynov, 木村純一, Yuri A. Martynov and Alexsander V. Rybin
クリル弧南帯の国後島の中期中新世から第四紀溶岩の主成分元素,微量成分元素,Sr-Nd-Pb同位体組成について検討した.溶岩は玄武岩から流紋岩で,マフィック溶岩は典型的な海洋島弧の特徴を持ち,顕著な地殻あるいはリソスフェアの混染は認められない.溶岩は島弧横断方向の組成変化を示し,背弧側に向かって流体で動きにくい元素の濃集がみとめられる.しかし,この傾向はBやSbやハロゲンのような元素にはみとめられない.Sr-Nd-Pb同位体組成はインド洋マントルドメインの特性を示す枯渇マントルから由来したことを示す.NdとPbは火山フロントで放射性であるがSrはより放射性が弱い.Nd同位体比はTh/NdあるいはNb/Zrのような液層濃集元素比の変化と連関しており,高電荷イオン元素や重希土類元素を運搬することができるスラブメルトあるいは超臨界溶液によってスラブ由来の堆積岩成分がマグマ組成に寄与したことをしめす.流体可溶の元素たとえばBaは,すべての玄武岩に富んでおり,変質海洋地殻由来の流体の寄与が示唆される.このように,クリル弧の溶岩はスラブ堆積物と変質海洋地殻双方の組成の影響を受けている.このようなマグマ供給系は中期中新世から現在まで活動的である.
Key Words : across-arc variation , incompatible element , Indian Ocean mantle , Kurile Arc , late Cenozoic , Sr–Nd–Pb isotopes
ニューラルネットワークを用いた鉱物マッピング手法の開発:火山岩への適用
辻 健,山口はるか, 石井輝秋,松岡俊文
電子線マイクロプローブアナライザによって得られた元素マップから,鉱物マップを作成する手法を開発した.元素マップから鉱物を推定する際には,各鉱物の元素組成を考慮する必要がある.しかし,火山岩のように多数の鉱物が混在している岩石では,多種類の元素を考慮しないと鉱物マップの作成が困難である.つまり,多次元空間で元素組成を比較する手法の導入が不可欠といえる.本研究では,自己組織化マップと呼ばれているニューラルネットワークを用いて,数種類の元素マップから鉱物を分類することを試みた.自己組織化マップでは,教師無しの学習を行うことにより,多次元の入力(元素)データを二次元平面に射影することができる.その多次元の元素データが射影された二次元平面上において,各鉱物のクラスタリングを行うことにより,鉱物マップを作成することができる.本研究では,ファン・デ・フーカプレート海嶺東翼部から取得された海洋性玄武岩試料に,自己組織化マップを用いた鉱物分類手法を適用した.その分類された鉱物マップから,枕状玄武岩中心部,枕状玄武岩縁部,塊状玄武岩といった岩層による鉱物組成・テキスチャの特徴を定量的に評価することができた.さらに多種類の鉱物が混在する岩層に対する本手法の有効性を調べるため,変質玄武岩に対して鉱物マッピングを行った.変質玄武岩は多くの二次鉱物を持つが,自己組織化マップを用いることで,8種類の鉱物に分類を行うことができた.この結果から鉱物数が増えた場合でも,自己組織化マップによる分類が有効であることが示された.
Key Words : electron probe microanalyzer (EPMA) , mineral distribution map , self-organizing map (SOM) , volcanic rocks, X-ray intensity maps
韓国南部沖,朝鮮海峡陸棚上に分布する泥質堆積物(洛東江の水中デルタ)の音波探査記録の反射パターンとその完新世浸食基準面変化復元における意義
Gwang H. Lee, Dae C. Kim, Mi K. Park, Soo C. Park, Han J. Kim, Hyeong T. Jou and Boo K. Khim
朝鮮海峡の陸棚上に分布する泥質堆積物(洛東江の水中デルタ;KSSM)は,朝鮮半島(韓半島)南部沖の内側陸棚における最も顕著な完新世堆積物である.マルチチャンネル・スパーカーによって得られた音波探査断面とコア試料の14C年代により,KSSMの堆積物が最も厚い(層厚60m以上)領域で3つのユニットが認められた.それらは,(i) 基底部の薄い海進期堆積体(暦年代>8000年),(ii) 中部の厚い(層厚40m以上)プログラデーショナルな堆積様式を示す堆積体(暦年代=2600〜8000年),(iii) 上部の薄い海進期堆積体(暦年代<2600年)である.KSSM内部における音波探査記録の反射パターンは,本地域では完新世の大部分の期間,浸食基準面が比較的深い環境(現在の水深70mより深い場所)にあったことを示す.その後,浸食基準面は中部層の堆積時には20mほど徐々に深くなり,上部層堆積時には上昇した.これらのデータは,地域的な海洋環境に対しては,浸食基準面の方が相対的海水準より鋭敏に応答することを示している.
Key Words : base-level change , Korea Strait shelf mud , sealevel change , subaqueous delta
中国北東部、Yanji地域の白亜紀後期−新生代の上昇:フィッション・トラック熱年代学からの制約
Xiaoming Li, Guilun Gong, Xiaoyong Yang and Qiaosong Zeng
中国、ロシア、北朝鮮との境界に位置し,顕生代花崗岩類が広く露出するYanji地域は、南のNorth China Blockと北東のJiamusi-Khanka Massifsとの間の造山コラージュの一部をなすと考えられてきた.本研究では,Yanji地域における花崗岩試料のアパタイトのEPMA分析とともに,アパタイトおよびジルコンのフィッション・トラック分析により,後期中生代以降の冷却と上昇、浸食の履歴について詳細に調べた.その結果,(i)ジルコン、アパタイトのフィッション・トラック年代について,それぞれ91.7-99.6 Ma、76.5-85.4 Maという値が得られた,(ii)すべてのアパタイトのフィッション・トラック長は,平均値12-13.2 µmで、単峰型の分布をもち,EPMA分析の結果,塩素を含むフッ素燐灰石であった,(iii)アパタイトのフィッショントラック粒子年代とトラック長に基づく熱史モデリングの結果,時間−温度パスは同様のパターンをもち,冷却は15 Ma以降加速された.以上の結果から,われわれは95-80 Maと約15-0 Maの二つの急速な冷却期と80-15 Maの緩慢な冷却期を含む連続的な冷却が後期白亜紀以降,Yanji地域の上昇削剥を通じて起こったと結論する.最大の上昇削剥は、35℃/kmの定常状態の地温勾配下で5 km以上である.テクトニック・セッティングを考慮すると,この上昇削剥は恐らく後期白亜紀以降のユーラシア・プレート下への太平洋プレートの沈み込みに関係している.
Key Words : exhumation, fission-track, late Cretaceous–Cenozoic, Pacific Plate subduction, Yanji area
地球化学・地球力学結合モデルに基づく伊豆・小笠原弧のマントルウェッジの水和における地球物理学的意義
Laura Baker Hebert and Michael Gurnis
本研究では,北部伊豆・小笠原弧の沈み込み帯に関する2次元力学モデルを用いて,地表の地形,重力,ジオイド異常と適合した,マントルウェッジ中に局在する低粘性(ηLV= 3.3 x 1019〜4.0 x 1020 Pa s)・低密度(周囲のマントルと比較して約-10 kg/m3)領域の形状を示す.この低粘性,低密度領域の形状を生じさせた水和構造は,地下150〜350kmにおけるウェッジマントルへの流体の放出によるものである.この結果は,北部伊豆・小笠原弧の沈み込み帯に関する地球化学・地球力学結合モデルや日本列島の下のマントルウェッジに関する非結合モデルによる検討結果と矛盾しない.流体の起源は,沈み込んでいくリソスフェアの蛇紋岩もしくはマントルウェッジ中の安定な含水相(蛇紋石や緑泥石など)であろう.本モデルを用いることにより,他の沈み込み帯においても,地表での地球物理学的観測値の異常を伴う特異な低粘性領域の存在を予測することができる.
Key Words : geoid , gravity, GyPSM-S, Izu–Bonin, low-viscosity channel, topography
エジプト東砂漠、Abu Meriewa-Hagar Dungash地域の新原生代蛇紋岩中のクロミタイト:造構的解釈と変成作用
Fawzy F. Abu El Ela and Esam S. Farahat
エジプト東砂漠のAbu Meriewa-Hagar Dungash地域において,ハルツバージャイトとダナイト起原の蛇紋岩中のクロミタイトと滑石-炭酸塩岩が,メタガブロ、変成火山岩類(枕状溶岩),変成堆積岩類と共に、パンアフリカン造山運動で形成されたオフィオライトメランジュを構成している.クロミタイトは散点的に分布し,塊状かつ球状の形態をもつ.クロミタイトを構成するクロマイトの核部は高いかつ限定された範囲のCr# 値(=0.65–0.75) とMg# 値(=0.64–0.83)をもち、元の組成が変成作用で改変されなかったことを示している.それ故,クロマイトの核部はクロミタイトを含む高度変成岩の初生マグマ組成および造構的関係を知る上での信頼できる指標として用いることができる.一方,縁部はCr,Fe,Mnに富む高Cr,低Fe3+のスピネルで,AlとMgに枯渇している(Cr#=0.75-0.97、Mg#=0.29-0.79).これは、緑色片岩相−角閃岩相(500-550℃)までの条件下の広域変成作用を受けたことによる.初生クロマイトの組成は、クロミタイトが,周囲の変成火山岩類と同様に,スプラサブダクション帯(島弧縁辺域)における高Mgソレアイト質、おそらくボニナイト質マグマに由来することを示唆している.Abu Meriewa-Hagar Dungash地域のクロミタイトは,メルトと岩石の相互作用によって形成されたものであろう.クロマイトの高いCr#値は,より深所での初生玄武岩質マグマとの相互作用とそれに続く混合による枯渇したハルツバージャイトの部分溶融を示唆している.このようなCrに富むクロマイトはエジプト東砂漠のクロミタイトに普遍的に産し,広範囲の熱異常を示唆しており,おそらくArabian-Nubian Shieldの発達における重要なダイナミックな特徴と関係している.このことは,プルームの相互作用に関係した,おそらくArabian-Nubian Shieldの初期の発達の際の弧状テレーンのoblique convergenceによるアセノスフェアの上昇を含むモデルについての興味を呼び起こす.
Key Words : chromitites , Egypt , Neoproterozoic , ophiolites , Pan-African , serpentinites
四国中央部別子地域三波川帯におけるアラゴナイトとオンファス輝石を含む変泥質岩の産出とその意義
纐纈佑衣, 榎並正樹
四国中央部三波川変成帯・別子地域の曹長石−黒雲母帯に属する変泥質岩から,アラゴナイトとオンファス輝石の産出を確認した.両鉱物は,パラゴナイトや石英とともにざくろ石の包有物としてのみ産する.一方,基質は,主にフェンジャイト,方解石,曹長石,石英から構成されている.ざくろ石中のアラゴナイト+オンファス輝石+石英の組合せの形成温度圧力は,P >1.1–1.3 GPa, T = 430–550 °Cと見積もられた.また,この試料や周辺の変泥質岩中のざくろ石に包有される石英は,三波川エクロジャイトのそれと同程度の高い残留圧力を保持している.これらの結果は,(1)アラゴナイトとオンファス輝石を含む変泥質岩やその周囲の岩石は,エクロジャイト相変成作用を経験した後に,より低圧の条件下で再結晶したこと,および(2)別子地域・三波川帯におけるエクロジャイト相変成作用を経験した領域は,従来の想定よりも広がることを示唆している.
Key Words : aragonite , eclogite facies , omphacite , Raman spectroscopy , Sambagawa belt
根田茂帯礫岩中の低温高圧型変成岩礫から復元された前期石炭紀前弧テクトニクス
内野隆之,川村信人
前期石炭紀付加体からなる根田茂帯から,低温高圧型変成岩礫や超苦鉄質岩礫を特徴的に含む礫岩を見出した.礫の堆積学的・岩石学的検討から,古アジア大陸東縁部における前期石炭紀島弧−海溝域のテクトニクスを復元した.低温高圧型変成岩礫の主要構成礫である含ザクロ石フェンジャイト片岩礫(モード比:8.4%)は,フェンジャイト冷却年代(347-317 Ma;40Ar-39Ar年代)・ザクロ石組成・鉱物組み合わせから蓮華変成岩に相当する.超苦鉄質岩礫である含クロムスピネル緑泥石岩(モード比:6.4%)は,クロムスピネル組成からオルドビス紀島弧型オフィオライトである宮守−早池峰超苦鉄質岩コンプレックスに相当する.礫の円磨度は,島弧(南部北上帯)起源の火山岩・深成岩などの礫が亜角礫〜超円礫であるのに対し,低温高圧型変成岩礫や超苦鉄質岩礫は角礫〜亜角礫である.この円磨度の差異は後者の原岩が,堆積場(海溝域)により近い位置に露出していたことを示す.このことに加えて,島弧浅海域で堆積した南部北上帯の礫岩に後者の礫はほとんど含まれていないことから,低温高圧型変成岩礫や超苦鉄質岩礫の原岩は前弧域に露出していたと考えられる.また,礫岩の堆積年代(前期石炭紀)と,礫となった低温高圧型変成岩の冷却年代とを考慮すると,低温高圧型変成岩が沈み込み帯深部域から上昇しはじめ前弧域で露出するまでの時間は,30 m.y.以内であった.
Key Words : conglomerate , Early Carboniferous accretionary complex , forearc ridge , high-P/T schist , Nedamo Terrane , tectonic model , ultramafic rocks
沈み込むマントル・ウェッジ由来のペリドタイト:三波川変成帯に産する東赤石超苦鉄質岩体の例
服部恵子,Simon Wallis,榎並正樹,水上知行
四国三波川変成帯に産する東赤石岩体は,沈み込み帯における超高圧変成作用を経験した希な含ざくろ石超苦鉄質岩体である。 この岩体は,およそ2 × 5 kmの大きさであり,主に蛇紋岩化を免れたダナイトと少量のウェールライト質岩から構成されている。ダナイトは,Irタイプ白金族元素とCrに富む全岩組成を有し,かんらん石はMgとNiに,そしてスピネルはCrに富む.一方,ウェールライト質岩は,Irタイプ白金族元素とCrに乏しく,易水溶性元素に富んでいる.そして,かんらん石はダナイトを構成するものと比べてNiとMg に乏しく,単斜輝石はAlに乏しい透輝石である.これらの全岩組成や鉱物組成の特徴から,ダナイトをはじめとするかんらん石に富む岩相は,部分溶融の程度が高い溶け残りマントルであり,ウェールライトなど単斜輝石に富む岩相は,島弧下のマントル・ウェッジが部分溶融することによって形成されたメルトの集積相であると考えられる.したがって,東赤石超苦鉄質岩体は,沈み込むスラブによる引きずり込みとマントル流動によって100 km以深にもたらされ高圧変成作用を受けた,前弧域下のマントル・ウェッジの一部であると解釈される.そのような,マントル・ウェッジの活発な流動は,三波川帯の形成が 沈み込み活動の初期段階であったため,スラブ上面に接するマントル・ウェッジが通常の沈み込み帯と比べて高温であり,そこには蛇紋岩が安定に存在せず大きいすべり摩擦が生じたことにより促進された.このような高温条件と活発なマントル流動は,三波川帯の沈み込みが開始した白亜紀当時の北東アジア大陸直下で起きた,アセノスフェアの上昇と東方への水平流動と関係している可能性がある.
Key Words : eclogite , exhumation , garnet peridotites , mantle flow , oceanic subduction , subduction