イランに分布するザグロス造山帯の構造的発達における南東部Sanandaj-Sirjan帯の役割
ザグロス造山帯南東部に位置する南東部Sanandaj-Sirjan帯は、典型的な中央イランの層序学的な特徴をもつEsfahan-Sirjan Blockと古生代〜中生代初期の変成岩類に分けられる. Main Deep断層(Abadeh断層)は, 両者を分ける主要な断層である. 本論文の目的は、イランに分布するザグロス造山帯の構造的発達における南東部Sanandaj-Sirjan帯の役割を地質学的証拠に基づいて明らかにすることにある. 新しい形成モデルは, 石炭紀後期〜二畳紀初期に中央イラン・マイクロコンチネントがゴンドワナ大陸北東縁から分離したときにネオテチス1が誕生したことを示唆している. 三畳紀後期、新しい拡大海嶺であるネオテチス2が形成され、Shahrekord-DehsardテレーンをAfro-Arabianプレートから分離した. ザグロス堆積盆は,ネオテチス2の南西に位置する受動的な大陸縁で形成された。Naien-Shahrebabak-BaftとNeyrizの2つのオフィオライト帯は, 白亜紀後期におけるネオテチス1のリソスフェアの沈降に関係して, それぞれネオテチス1の北東部およびネオテチス2の南西部で発達した. 中央イラン・マイクロコンチネントの暁新世れき岩とザグロス堆積盆の鮮新世れき岩の堆積は, 大陸衝突による上昇運動と直接関係していると結論づけることができる.
Key words : Esfahan–Sirjan Block , Main Deep Fault , Sanandaj–Sirjan Zone , Shahrekord–Dehsard Terrane , Zagros Orogenic Belt
中部日本の阿寺断層における断層破砕帯の発達過程の復元
丹羽正和,水落幸広,棚瀬充史
不均質な構造をもった断層破砕帯の発達過程を復元する目的で,西南日本の阿寺断層の破砕帯を対象に,露頭〜顕微鏡スケールでの詳細な記載を言った.破砕帯は熔結凝灰岩,花崗岩及び苦鉄質火山岩類の岩片を含む断層角礫からなる幅約1.2mの断層コアを伴う.断層コアを挟んで発達するダメージゾーンは,西側では熔結凝灰岩の断層角礫,東側では花崗岩のカタクレーサイトで特徴づけられる.断層コアは特に,摩損・粉砕に伴う岩片の細粒化が顕著である.苦鉄質火山岩類の岩片は,破砕帯近傍に分布する1.6Maの年代を示す火山岩を起源とすると考えられ,断層コアの形成時期を拘束する証拠となる.断層コアの近傍には,地震時の細粒物質の高速注入による形成を示唆する脈が発達する.花崗岩カタクレーサイト中には,カオリナイトに富む粘土を主体とする基質中に,構成鉱物の著しい破砕を伴わない硬く新鮮な花崗岩の岩片を含む幅約30cmの副次的な断層コアが発達し,その特徴からは,露出する破砕帯の中で最も新しいすべり面を示していると解釈される.断層破砕帯における既往の地質学的・水理学的研究に基づくと,粘土に富む断層コアは,周囲のダメージゾーンに比べてより低透水であると考えられる.
Key words : asymmetry, Atera Fault, clay mineral, deformation structure, fault zone, Japan, repeated fragmentation
パラオ諸島における初期島弧のマグマ進化
James Hawkins, 石塚 治
北緯7度30分付近に位置するパラオ諸島は, 2500km以上にわたって連なる九州パラオ海嶺において, 唯一火山岩類が海面上に露出する地域である. 規模の小さい島々は主に礁成石灰岩からなるが, 大きい島々には玄武岩〜デイサイトさらにはボニナイトにわたる組成範囲の火山岩が分布する. 角れき岩がもっとも広く分布し, シル, 溶岩流, ダイクがそれに続き, 枕状溶岩はまれである. 一方パラオ海嶺から採取された岩石試料は,パラオ諸島陸上部に露出する岩石に加えて高Mg玄武岩を含む. 火山活動は後期漸新世に始まり, 前期中新世までに停止した. すべての火山岩類はlow-Kのソレアイト系列に属し, MORB組成の玄武岩類はない. 希土類元素及びHFS元素組成は, 枯渇したマントル起源であることを示している. LIL元素及び軽希土類元素に富む特徴は, 沈み込むスラブの脱水反応により供給されたフルイドの寄与を示す. Ce/Ce*及びEu/Eu*には, 島弧起源の火山砕屑物の寄与は認められない. プレート運動の復元と古地磁気データは, パラオ諸島を含む島弧が, 恐らく北上するトランスフォーム断層の延長上に形成され, その後90度時計回りに回転したことを示唆する.この過程で伸張場になった時期に, 枯渇したマントル中により高温のマントルが上昇し, 圧縮場に転じた時点で薄い遠洋性堆積物を伴った海洋地殻の沈み込みが開始したと考えられる.
Key words : Palau Arc , subduction initiation , West Philippine Basin evolution
3次元震探データおよび検層データに基づくバルバドス付加プリズム北部の構造,変形様式,流体挙動
沈み込みに起因する構造,変形,流体の挙動を明らかにするために,バルバドス付加プリズム北部における3次元震探データおよび掘削中検層データを検討した.海底地形の振幅およびコヒーレンスの解析結果は,衝上断層の方向が,衝上断層フロントでは北北東方向であるが,断層の約5km西方では北および北北西へと大きく変化していることを示している.これらの衝上断層群の間には,三角形の形状を呈し,顕著な断層が発達していない区域(静的区域)がみられ,それは堆積物の強度が弱い部分に相当すると思われる.デコルマ中には北東方向に伸び,静的区域を覆った,低振幅・高コヒーレンス帯がみられる.これは,いわゆるArrested consolidation(圧密が妨げられた)層に相当する.この事実は,圧密の妨げは,衝上断層が覆瓦構造を欠き,そのために付加プリズムにおける流体が垂直方向へ排出されていることと関連している可能性を示唆している.デコルマと沈み込みつつある海洋底地殻の先端部のフラクタル解析の結果は,デコルマの起伏は海洋底地殻の地形と対応することを示している.衝上断層下,海洋底地殻上に位置する堆積物の差別的圧密作用および海洋底地殻からデコルマまでを切る断層が,デコルマの起伏の形成や断層運動を引き起こす要因であるのかもしれない.
Key words : Barbados accretionary prism , coherence , décollement , fractal analysis , seismic amplitude
不整合,断層および接触変成作用に関連した北日本の堆積岩における「統計的熱変質指標(stTAI)」とビトリナイト反射率との関係
氏家良博
筆者は二つの有機熟成指標、統計的熱変質指標(stTAI)とビトリナイト反射率(RO)を利用して,不整合,断層および接触変成作用を受けた北日本の第三系と上部白亜系の地史を解明してきた.stTAIは顕微鏡下で観察されるマツ属,モミ属,トウヒ属等の有翼型花粉の明度を画像解析して得られる指標であり,初期ダイアジェネシスから前期カタジェネシス(石油生成段階の前半;RO≦1.0%)までの続成作用に適用できる.続成作用の進行につれて,堆積岩に含まれるビトリナイトの反射率は一般に増大傾向を示すのに対し,堆積岩中の化花粉のstTAIは減少傾向を示す.不整合または断層を挟む一連の堆積物層序において,stTAIはROよりも不整合や断層の影響を敏感に現す.この事実は,RO≦0.7%の前期続成段階でstTAIが急激に減少するのに対し,ROはRO≧0.8%の中・後期続成段階で急激な増大を示すことに由来する。接触変成作用では、火成岩岩脈に近づくにつれてROは徐々に増大するのに対し,stTAIは規則的な減少傾向を示さない.これまでの調査からは,stTAIはROに比べて被熱時間に敏感であり,逆にROはstTAIに比べて被熱温度に敏感であることが判明した.
Key words : contact metamorphism , faulting , organic maturation , statistical thermal alteration index , unconformity , vitrinite reflectance