Microchronology and Microchemistry: Problems, perspectives and geological applications
Guest editors: Tetsumaru Itaya and Simon Wallis
南インドの超高温変成岩に含まれるモナザイトの微細組織をもとにした年代学:ゴンドワナ大陸集合の時期について
M. Santosh,角替敏昭,堤 之恭,岩村誠之
南インドAchankovil剪断帯およびMadurai岩体最南部の超高温グラニュライトについて,EPMAによるU-Pb年代測定を行った.この超高温変成岩は,ざくろ石,菫青石(後退変成鉱物),石英,メソパーサイト,黒雲母,斜長石,Fe-Ti酸化物を含み,一部の岩石には斜方輝石や珪線石もみられる.また微量のジルコンとモナザイトを含み,珪線石はざくろ石の包有物としてのみ産出する.組織の詳細な解析から,ざくろ石,斜方輝石,スピネル,メソパーサイトはピーク変成作用時に形成された鉱物であり,菫青石±斜方輝石±石英や菫青石+スピネル+Fe-Ti酸化物のようなピーク後に形成された鉱物組み合わせもみられる.地質温度圧力計による解析結果から,ピークおよび後退変成作用の温度圧力条件は,それぞれ940-1040℃,8.5-9.5 kbar,3.5-4.5 kbar,720±60℃である.円摩された,おそらく砕屑性のモナザイトからは,原生代中期〜後期の幅広い年代が得られた.その中の若いものは660-600Maの年代を示すことから,原岩の堆積岩は600Maまでに堆積したことが考えられる.一方,多くのモナザイトは変成作用時の成長を示す,これらは原生代最末期〜カンブリア紀初期の年代を示し,533-565Maにピークをもつが,これがピーク変成作用の時期を意味するとはかぎらない.ピーク時に安定な鉱物と共生する均質なモナザイトの測定により,ピーク変成作用は580-600Ma起こったと考えられる.隣接するグラニュライト岩体の年代との比較から,インドにおけるゴンドワナ大陸の衝突時期は580-600Maであり,過去に報告されている500-550 Maの年代はピーク後の熱イベントを意味すると考えられる.
Key word : Gondwana, microchronology, monazite, southern India,ultrahigh-temperature metamorphism
西南日本四国中央部久万層中の三波川片岩礫の白雲母K-Arと40Ar/39Ar年代
Nguyen D. Nuong,板谷徹丸,兵藤博信,横山一巳
西南日本四国中央部久万層の礫岩には三波川片岩礫を含む.その変成度と原岩は様々である.泥質片岩中の白雲母のK-Ar及び40Ar/39Ar年代測定結果は低変成度から高変成度まで同じ年代(82-84Ma)を示した.その年代は四国中央部三波川変成帯の白雲母年代より明らかに古い.それは久万—三波川変成岩は汗見川-三波川変成岩より上昇時期が早かったことによる.また,上昇プロセスは関東-三波川における上昇プロセスと汗見川-三波川のプロセスとの中間的であった.角閃岩中の白雲母40Ar/39Arプラトー年代(103Ma,107Ma)は変成帯の上昇初期を示し,ピーク変成年代に近い.
Key word : 40Ar/39Ar age, argon closure system, exhumation tectonics, K-Ar age, Kuma Group, phengite, Sanbagawa schist clasts
韓国ヘミ地域のホンソン帯に産する中生代高Ba-Sr花崗岩の岩石学及び年代学とそのテクトニクス
中国北部大陸塊と南部大陸塊の衝突は韓半島ではペルム紀(290-260Ma)に始まった.キョンギ山塊内にあるヘミ地域ホンソン衝突帯,それは中国におけるDabie-Sulu衝突帯の東方延長と考えられているが,衝突後に形成された中間組成の捕獲岩を含む高Ba-Sr花崗岩からなる.その花崗岩は先カンブリアの岩石に貫入した産状を呈す.中間組成の捕獲岩はショショナイトに類似しているが花崗岩は高Kカルクアルカリ岩系列に入る.コンドライトに規格化されたREEパターンでは両岩石ともLREEに富むとともに顕著なEuの負異常を持たない.両岩石の化学的な類似性はその成因においてマントル起源物質が関わっていると言える.しかしながら,高Ba-Sr花崗岩の形成には地殻成分が深く関わっている.SHRIMPジルコンU-Pb年代測定からその結晶化年代は233±2Maであった.この年代はホンソン帯におけるトリアス紀衝突事件より僅かに若い.このように地球化学データー,ジルコンU-Pb年代,広域テクトニクスからヘミ高Ba-Sr花崗岩は衝突後のテクトニクスで形成されたと言える.その成因には中生代の衝突後に生じたリソスフェアの剥離モデルで説明できる.
Key word : High Ba-Sr granite, post-collisional, lithospheric delamination, Haemi, Hongseong Belt, Dabie-Sulu
東チベット高原バロー型変成帯で発生した広域過剰アルゴン波
板谷徹丸,兵藤博信,辻森 樹,Simon Wallis,青矢睦月,川上哲生,郷津知太郎
チベット高原の東部に分布するバロー型変成帯から系統的に採集した変成岩からの黒雲母と白雲母についてレーザー段階加熱法40Ar/39Ar年代測定を実施した.その結果,変成温度が600℃を超えた珪線石帯では,およそ40Maの冷却年代が得られた.しかし,その温度より低い変成域では,同様な試料から46-197Maの不一致年代が得られた.珪線石帯の変成ピーク年代はモナザイトCHIME年代(64Ma)やアパタイトSHRIMP年代(67Ma)から得られており,藍晶石帯までの変成岩からの黒雲母の見かけ年代(46-94Ma)は不完全な脱ガスによる母岩由来の過剰アルゴンに起因すると推察される.一方,藍晶石帯高温部では,黒雲母が130-197Maの見かけ年代を示す.藍晶石帯におけるこの異常に古い見かけ年代はおそらくより高温の珪線石帯の鉱物から脱ガスされ移動してきた過剰アルゴンを黒雲母が捕獲した結果であろう.この過剰アルゴンの起源は珪線石帯の白雲母が分解したとき生じたものと考えられる.また,共存する白雲母には異常な量の過剰アルゴンがみられないことから,研究地域は白雲母のアルゴン閉鎖温度以下まで冷却した後,黒雲母の閉鎖温度に達した段階でちょうど移動してきた過剰アルゴン波にさらされて黒雲母にだけ異常な量の過剰アルゴンが捕獲された.つまり黒雲母にだけ異常な量の過剰アルゴンを持つ藍晶石帯高温部は過剰アルゴン波の発生とその移動を記録している場所であると考えることができる.このように超高圧変成作用後の上昇冷却過程での白雲母の分解は超高圧変成帯でよく見られる異常に古いK-Ar年代を与える要因の一つと理解することができる.広域変成帯に発生する過剰アルゴン波を見いだしたのは今回が初めてであろう.この研究では,また,雲母類のアルゴン閉鎖温度は従来考えられてきたより十分に高温であり600℃近くまで達することもあり得ることが明ら
かになった.
Key words : 40Ar/39Ar analyses, Barrovian type metamorphism,closure temperatures, Eastern Tibet, excess argon wave,Longmenshan orogenic belt
後期白亜紀のアジア大陸東縁部における右斜め沈み込み時期:西南日本紀伊半島に分布する四万十帯付加体からの証拠
常盤哲也
古地磁気やホットスポット軌跡によると,コニアシアンからカンパニアンにおけるユーラシアプレートには,クラプレートよる右斜め沈み込みが生じていたと考えられている.しかし,このクラプレートの右斜め沈み込みについて,地質学的な証拠はない.そこで,本研究では,西南日本に分布するコニアシアンからカンパニアン前期の四万十帯美山層において,構造地質学的研究を行った.その結果,美山層のメランジファブリックは露頭および顕微鏡スケールのどちらにおいても右ずれを示し,マップスケールにおいて確認されたスラストシステムも右ずれを示すことが明らかとなった.このことは,コニアシアンからカンパニアン前期のアジア大陸東縁部において,クラプレートによる右斜め沈み込みが生じていたことを示唆する.既存の構造地質や時代に関する情報を合わせて考えると,西南日本における左斜め沈み込みから右斜め沈み込みの変換点は89Ma,右斜め沈み込みから左斜め沈み込みの変換点は76Maであったと考えられ,白亜紀の東アジア大陸縁におけるプレート運動の復元モデルと良い相関関係を示す.
Key words : accretionary complex, Cretaceous, mélange, plate motion, shear direction, Shimanto Belt, Southwest Japan.
ハイパーピクナル流の発生条件とそれに伴う陸源有機物濃集の意義:新潟平野完新統のエスチュアリー堆積物を例として
吉田真見子,吉内佑佳,保柳康一
タービダイトには斜面崩壊を起源とするものと洪水を起源とするハイパーピクナイトがある.本研究では,縄文海進に伴って形成された新潟平野完新統のエスチュアリー堆積物中に挟在されているハイパーピクナイトを対象に,エスチュアリー内の環境変化とハイパーピクナル流の発生との関連性や,それに伴う有機物の堆積作用を明らかにした.ハイパーピクナイトは,エスチュアリー堆積物の最上部(約5,000年前)に挟在され,上方粗粒化と細粒化のセットを繰り返し,陸源有機物と淡水生の珪藻化石を多く含むことを特徴とする.本研究の結果は,エスチュアリー堆積物最上部の堆積期間に淡水が流入する割合が増加し,それに伴ってラグーン内の塩分濃度が低下したことを示す.この塩分濃度の低下はラグーン内の水の密度低下を招き,洪水発生時にハイパーピクナル流を発生しやすい状況を作っていたと解釈できる.また,ハイパーピクナイトの最上部には,陸源有機物の濃集層が存在する.この特徴は,海成堆積物において,崩壊性タービダイトと洪水を起源とするハイパーピクナイトとを区別するための重要な指標になると考えられる.
Key words : diatom fossil, estuarine lagoon, hyperpycnite, Niigata Plain, organic matter, river floods.
アウトオブシーケンススラストの変形及び流体の移動様式−四万十付加体中に発達する延岡構造線を例に−
向吉秀樹,廣野哲朗,原 英俊,関根孝太郎,土屋範芳,坂口有人,徐 垣
アウトオブシーケンススラスト(OST:プレート沈み込み境界の深部から派生する大規模逆断層)における岩石の変形およびそこでの流体の移動様式を明らかにするために,かつてのOST(海底下7-9km相当)と解釈されている,四万十付加体中に発達する延岡構造線の野外地質調査を実施した.その結果,延岡構造線は下盤に厚い剪断帯を伴い,その厚さは岩相に依存して走向方向に100-300mと変化することが明らかになった.黒色頁岩主体の砂岩頁岩混在層からなる剪断帯は,厚さが相対的に薄く,直線的な剪断面に沿って,数mmから数cm厚の鉱物脈が産出する.一方,砂岩主体の砂岩頁岩混在層からなる剪断帯では,厚さが相対的に厚く,規則的に配列するレンズ状の砂岩ブロックを多く含み,微小クラックを充填する大量の鉱物脈がその砂岩ブロック中に含まれる.これらの鉱物脈の光学顕微鏡像およびカソードルミネッセンス像の考察より,砂岩優勢の薄い剪断帯中の鉱物脈は,剪断面形成と同時に高間隙圧の流体が流れた痕跡であり,頁岩優勢の厚い剪断帯中の鉱物脈は,微小クラックが形成されるたびに少しずつ流体を排出した痕跡であると考えられる.また,これらの深部OSTの剪断帯の特徴を先行研究による浅部OSTのそれと比較した結果,浅部OSTでは急激な滑りを伴う脆性破壊と局所化した流体移動の繰り返しが生じているのに対し,深部OSTでは岩相に依存して,脆性破壊および延性変形が共存し,様々な様式の流体移動を伴うことが明らかになった.
Key words : cathodoluminescence, fluid flow, illite crystallinity,Nobeoka Tectonic Line, out-of-sequence thrust, Shimanto accretionary complex.
中央インド楯状地,Bastar cratonの新原生代盆地の砂岩の岩石化学:古風化,給源,造構史に関して
Chandarpur GroupとTiratgarh Formationの新原生代の砂岩について,その給源,テクトニック・セッティング,風化環境を決定するために,記載岩石学的解析および希土類元素を含む主要,微量元素の化学分析を行った.砂岩のサンプルは全て石英に著しく富むが,長石や岩片に非常に乏しい.これらは,記載岩石学的および地球化学的に,subarkose,sublitharenite,areniteに分類される.Chemical Index of Alteration(CIA,平均値68)とTh/U比(平均値4.2)は,これら砂岩が中程度の風化を受けたことを示唆している.Post Archean Australian ShaleおよびUpper ContinentalCrustと比較すると,全ての砂岩サンプルは,概してSiO2以外の主要元素,Zrを除く微量元素,希土類元素に著しく枯渇している.鉱物構成,給源およびテクトニック・セッティングの決定に有効な元素比平均値[Al2O3/SiO2(0.02),K2O/Na2O(10),Eu/Eu*(0.67),(La/Lu)n(10.4),La/Sc(3),Th/Sc(1.2),L a/Co(0.22),Th/Co(0.08),and Cr/Th(7.2)など]は,これらの砂岩がフェルシックな給源をもち,非活動的縁辺域に由来することを支持している.これらの鍵となる元素比はSiO2の広い範囲にわたって大きな変動を示さないことから,石英に富む砂岩の原岩の特徴を決定する際の有意性も検証する.軽希土類元素に富みEuの強い負の異常をもつ希土類元素パターンも,これらの砂岩の給源がフェルシックであることに起因する.砂岩の原岩はBaster cratonの花こう岩と片麻岩で,ごく一部はBaster cratonのより古い表層部の岩石に由来するかもしれない.古原生代のSakoli schistsの主要元素は,新原生代の砂岩と比較すると,Sakoli schistsが塩基性の岩石に由来し,活動的縁辺域で堆積したことを示唆している.しかしながら,Sakoli schistsと原生代砂岩のCIA値にはほとんど差が無く,Baster cratonにおいて,原生代を通じて中〜高度の同様な風化環境が広がっていたことを示している.我々の研究は,給源およびテクトニックセッティングが,古原生代の苦鉄質な給源が卓越する活動的縁辺域から新原生代の花こう岩および片麻岩(珪長質な給源)が卓越する非活動的縁辺域へ変化したことをも示唆している.
Key words : Bastar craton, Neoproterozoic sandstones, Paleoproterozoic Sakoli schists, petrochemistry, provenance, tectonic history, weathering.
西ハンガリー,中央パノニアン盆地産かんらん岩捕獲岩中のシリケイトメルト包有物からみたマントル内におけるメルト− 母岩相互作用
西ハンガリー,Balkony-Balaton Highland Volcanic Field,Szigliget産の等粒状組織をもつ角閃石を含む二つのスピネルレールゾライト捕獲岩の組織ならびに地球化学的特徴を検討した.これらは,単斜輝石縁部に多数の初生シリケイトメルト包有物と,斜方輝石(稀にスピネル)の古い割れ目(healed fractures)に沿って認められる二次的なシリケイトメルト包有物を含む. シリケイトメルト包有物は,主にシリケイトガラスと二酸化炭素に富む気泡からなる.単斜輝石と斜方輝石は特にFe,Mg,Na,Al量に関して顕著な累帯構造をもつ.単斜輝石の核部は,初生マントル組成に近い微量元素分布を示し,縁部はTh,U,軽希土類元素(LREE),中希土類元素(MREE)に富む.捕獲岩試料Szg08中の角閃石は,異常に高いRb,Ba,Nb,Ta,LREE,MREEをもつ.シリケイトメルト包有物中のシリケイトガラスの組成は,玄武岩質粗面安山岩,安山岩からフォノライト組成まで広い範囲に及び,特にP2O5に富む.初生および二次的シリケイトメルト包有物は,共に不適合微量元素(主にU,Th,La,Zr)に著しく富み,わずかにHfの負の異常を示す.単斜輝石縁部での初生シリケイトメルト包有物の取り込みと同様に,累帯構造をもつ輝石は,おそらく熱い揮発性成分を含むメルトとマントルの壁岩との相互作用により,部分溶融とそれに続く単斜輝石の晶出後に形成された.このシリケイトメルトは斜方輝石の微小割れ目を埋め,その結果,二次的なシリケイトメルト包有物が形成された.
Key word : central Pannonian Basin, Hungary, melt-mantle interaction, mantle xenolith, silicate melt inclusion