Geological Anatomy of East and South Asia: Paleogeography and paleoenvironment in Eastern Tethys IGCP 516(Part 2)
Guest editors: K. Hisada and G. P. Yumul Jr
スマトラの地質構造,および東南アジアの形成とパレオテチスの閉鎖に対するその意義
東南アジアは,古生代に起こったリフトイベントでゴンドワナから分離し,海洋地殻の沈み込みにより古生代後期から中生代前期にアジアへ衝突した大陸地塊で構成されていることが一般に受け入れられている.マレー半島とスマトラは,東から西に3つの大陸地塊で構成されている.それらは,カタイシア型のペルム紀動植物群集を伴う東マラヤ地塊,氷海性ダイアミクタイトと解釈されている後期石炭紀−前期ペルム紀“含礫泥岩”を伴い,マレー半島西部とスマトラ東部を含むシブマス地塊,そしてふたたびカタイシア動植物群集を伴う西スマトラ地塊である.ウォイラナップとよばれるさらにもう一つのユニットは,白亜紀中頃に西スマトラ地塊上に衝上した海洋内島弧と解釈できる.シブマスと東マラヤの衝突,そしてパレオテチスの閉鎖の年代に関しては様々な意見がある.タイ国では,パレオテチスが中期三畳紀まで存在したという証拠が放散虫岩により示されている.一方マレー半島では,地質構造の証拠と花崗岩貫入の年代から,パレオテチスの閉鎖が中期ペルム紀〜前期三畳紀であったということが考えられている.西スマトラ地塊はカタイシアに由来し,激しい変形を被った地帯である中央スマトラ構造帯に沿う右横ずれ断層により,シブマスの西縁へと定置したことが指摘されている.これらの構造ユニットは東南アジアにおいてさらに北方へと追跡できる.東マラヤ地塊はインドチャイナ地塊の一部と考えられ,シブマスはタイ国から中国南部まで追跡できる.また,中央スマトラ構造帯はミャンマーのモゴック帯に対比され,西スマトラ地塊は中新世に広がったアンダマン海により切り離されてはいるものの西ビルマ地塊へと連続する.そして,ウォイラナップはミャンマーのマウギーナップに対比される.
Key words : Malay peninsula, Myanmar, Paleotethys, Permo-Triassic, Sibumasu, West Sumatra block.
タイ王国におけるチャート岩相に基づいたシブマスーパレオテチスの地体構造区分
鎌田祥仁, 上野勝美, 原 英俊, 一瀬めぐみ, Thasinee Charoentitirat, Punya Charusiri, Apsorn Sardsud,久田健一郎
岩相や含まれる化石相,さらにその層序をもとにタイ国において,2つのタイプのチャートを同定した.“遠洋性チャート”は密集する放散虫殻を含む隠微晶質石英の基質からなり,陸源性砕屑物を含まない.また,剪断を受けた泥質基質に異地性岩塊のブロックとして取りこまれている.“半遠洋性チャート”も微晶質石英が卓越する基質を持つ一方で,放散虫殻だけでなく有孔虫などの石灰質殻を含む.“遠洋性チャート”はデボン紀から三畳紀中世の堆積期間を示しているのに対し,“半遠洋性チャート”の堆積年代は三畳紀の中世から新世に限定される.岩相および層序学的特徴は,“遠洋性チャート”がパレオテチスを起源とすること,“半遠洋性チャート”はシブマス東縁で堆積していたことを示す.これらの“遠洋性”および“半遠洋性チャート”の分布は,南−北走向を呈して,2つの帯状地域に分かれる.このうち西側は,“半遠洋性チャート”や氷河性堆積物,さらにシブマスの構成岩類のみから成る先カンブリア系を覆う中・古生界で構成される.東側は遠洋性のチャートと石灰岩が,その構成岩類に含まれることからインタノン帯に比較される.このインタノン帯はパレオテチスの堆積岩類が分布するということだけでなく,パレオテチス構成岩類の構造的下位にシブマスの構成岩類が占めていることでも特徴付けられる.この意味でシブマスとパレオテチス分布境界は,シブマス地塊とインドチャイナ地塊の衝突に伴う南−北走向の低角逆断層である.
Key words : chert, hemipelagic, Mesozoic, Paleo-Tethys, Paleozoic, pelagic, radiolaria, Sibumasu, Thailand.
タイ国北部Chiang Khong 地域における三畳紀新世火山岩類の地球化学および地質年代学
Chiang Khong-Lampang-Tak火山帯のChiang Khongセグメントは,苦鉄質〜珪長質火山岩,火山砕屑岩,およびそれらに伴う貫入岩類で構成され,(NNE-SSW走向で)子午線状に分布する3亜帯に区分される.付随する堆積岩類のほとんどは,非海成の赤色層と礫岩である.Chiang Khongの3つの代表的溶岩は,三畳紀新世(223-220Ma)のレーザーアブレーションICP-MS法によるU-Pbジルコン年代を示す.Chiang Khong西亜帯と中央亜帯の珪長質岩卓越シーケンスは,高Kカルクアルカリ岩系列の玄武岩質〜珪長質溶岩で, まれに苦鉄質岩脈を伴う.西亜帯の溶岩は全ての分別レベルにおいて,中央亜帯の相当岩石より,HFS元素がわずかに低い.これに対して東亜帯はE-MORBと背弧海盆玄武岩の漸移的組成を示す苦鉄質溶岩と岩脈が卓越する.東亜帯の岩石は,高Kシーケンスの玄武岩類よりFeO*とTiO2に富み,軽希土類元素に乏しい.西亜帯と中央亜帯の玄武岩類およびドレライト質岩脈は,東亜帯の溶岩と岩脈の組成的に一致する.最近のChiang Khong岩類の地球化学的検討は,それらが大陸縁の火山弧のようなセッティングで噴出したと結論づけている.しかし珪長質溶岩が卓越すること,非海成堆積物を伴うことから,我々は対案として,衝突後の伸張的セッティングを起源とすることを提案する.三畳紀中世後期〜三畳紀新世初期の衝突・造山イベントが,タイ国北部から中国雲南地域において裏付けられた.Chiang Khong-Lampang-Tak火山帯には,この造山イベントに先行する三畳紀古世−中世の放射年代を示す火成弧の溶岩がみられないことや,Chiang Khong火山岩類の地球化学特徴が他地域の衝突後のマグマ形成場におけるものと良く似ていることを考慮すると,Chiang Khong地域は衝突後に急速に成長するベースンレンジ型の伸張場で形成される典型的火山帯の特徴を示す.
Key words : Chiang Khong-Lampang-Tak Volcanic Belt, Late Triassic volcanic rocks, postcollisional magmatism, Thailand tectonics.
タイ王国半島部プーケットおよび周辺諸島部におけるペルム系下部の氷河性堆積物
Tianpan Ampaiwan,久田健一郎,Punya Charusiri
東南アジアのシブマス・ブロックは氷河海成堆積物を含み,二畳紀前期にゴンドワナ縁辺域から分離したことが提唱されてきた.タイ王国におけるプーケットやその周辺島嶼におけるペルム系下部含ダイアミクタイト・シーケンスの相解析やドロップストーンとダンプ構造の認定は,堆積物が氷河海成・土石流堆積物起源であることを示唆している.研究地域のペルム系下部含ダイアミクタイト・シーケンスは,コ・シレ層とコ・ヘ層に対応し,両層とも三つの主要な層相で構成される;ダイアミクタイト,砂岩,細粒岩相.下位のコ・シレ層は400mの厚さを有し,葉理の発達した泥岩で特徴づけられる;Cruziana生痕相を伴ったドロップストーンとダンプ構造の存在は,氷河による影響を受けた沿岸域の氷漂流運搬堆積作用を示している.コ・シレ層はコ・ヘ層(層厚400m)のダイアミクタイト・シーケンスによって覆われる.再堆積の組織とともに板状そしてレンズ状の形態をした層理の発達が弱い,あるいは強いダイアミクタイトは,コ・ヘ層内のダイアミクタイトが土石流であることを示している.ダイアミクタイトやドロップストーン中の礫の似たような岩相はおそらく土石流ダイアミクタイトがかつて存在した氷河堆積物が再移動したものであることを示唆している.氷河によって影響を受けた沿岸環境の証拠は,シブマス・ブロックがおそらくゴンドワナの北西オーストラリア縁辺に位置していたのであろうとする古地理的解釈を支持する.
Key words : dropstone structure, dump structure, Early Permian, glaciomarine, Gondwana, Sibumasu block.
パレオテチス大洋型炭酸塩ビルドアップにおける楽平世(後期ペルム紀)有孔虫群集変遷:南西中国,雲南西部の昌寧−孟連帯に分布する石佛洞層の例
上野勝美,堤 聡依
この論文では,東アジアにおけるパレオテチス海の閉鎖域の1つと考えられている,南西中国,雲南西部の昌寧−孟連帯に分布する石佛洞層からの楽平世(後期ペルム紀)有孔虫群集変遷について検討した.石佛洞層は,この地帯にみられる厚い石炭−ペルム系炭酸塩岩の最上部を成す層序単元である.この炭酸塩岩は海洋島玄武岩からなる基盤上に発達したもので,パレオテチス大洋域の海山あるいは海台起源であることが知られている.本研究では,昌寧−孟連帯北部の耿馬地域に位置する石佛洞層の模式セクションにおいてフズリナ類16種と小型有孔虫類37種を見いだした.その層序分布に基づき,下位よりCodonofusiella cf. C. kwangsiana帯,Palaeofusulinaminima帯,Palaeofusulina sinensis帯の3フズリナ化石帯を設定した.これら3化石帯はそれぞれ,呉家坪期,前期長興期,後期長興期に対比される.このうち,呉家坪期の化石帯は昌寧−孟連帯の大洋型炭酸塩岩体から今回はじめて報告されたものである.石佛洞セクションにおけるPalaeofusulina sinensis帯上部の最後期ペルム紀有孔虫群集には,群集多様性の突然の低下と産出量の大幅な減少が記録されてはいるものの,パレオテチス遠洋浅海環境での有孔虫群集が楽平世のほぼ全期間にわたり基本的に高い多様性を保持していたことを本研究では明確に示した.また石佛洞層の群集は,南部中国などの環テチス海陸棚域でみられる群集と,多様性の高さにおいて比較できる.今回報告したパレオテチス大洋域の有孔虫群集は,西南日本のジュラ紀付加体中にある上村石灰岩産の群集で代表される同時期のパンサラッサ大洋域の群集よりも明らかに多様性が高い.パレオテチス大洋型ビルドアップは恐らく,古赤道遠洋域における有孔虫群集の発展にとって特に適した環境を提供していたことが示唆される.
Key words : Changhsingian, Changning-Menglian Belt, foraminiferal faunal succession, Late Permian, Lopingian, Paleotethys, Shifodong Formation, Southwest China, West
Yunnan, Wuchiapingian.
中国雲南省の昌寧-孟連帯に分布する石炭-ペルム系大洋型炭酸塩岩の堆積相:起源と堆積プロセス
中澤 努,上野勝美,王 向東
堆積年代がVisean(前期石炭紀)からChanghsingian(後期ペルム紀)に及ぶ巨大な炭酸塩岩体が,パレオテチス海の閉鎖域である中国雲南省の昌寧-孟連帯に分布する.炭酸塩岩体は玄武岩の基盤の上位に発達し,炭酸塩岩体内には陸源砕屑物質の挟在が全くない.これらの事実は,この炭酸塩岩体が,おそらくホットスポット起源の孤立した海洋島で形成されたことを示している.炭酸塩岩は浅海の炭酸塩プラットフォーム相とやや水深の大きい斜面相に分けられる.これらは同時異相であり,海洋島およびその周辺にかけての一連の炭酸塩堆積システムを構成している.このうち炭酸塩プラットフォーム相はプラットフォーム縁辺相,砂浜相,ラグーン相,干潟相に細分される.調査した魚塘寨セクションでは層序学的に下位から上位にむけて縁辺相から砂浜やラグーン相などの内側相へと変化し,炭酸塩プラットフォームがプログラデーションしていることが読み取れる.また下部石炭系には縁辺相の礁形成者としてワームチューブが認められるが,このような高エネルギー環境でのワームチューブの繁栄はこの時代には特異といえる.しかしその他の礁あるいはマウンド形成者の繁栄時期および干潟相の出現時期は,パンサラッサ海の秋吉石灰岩や青海石灰岩と同様であり,それらの産出はおそらく汎世界的なものであると考えられる.
Key words : Changning-Menglian Belt, Late Paleozoic, mid-oceanic carbonates, ocean island, Paleo-Tethys, sedimentary facies, Southwest China
中華人民共和国,揚子プラットフォーム北東部巣湖地域庵門口から産出した中期ペルム紀放散虫化石
亀高正男,永井ひろ美,朱 嗣昭,武邊勝道
揚子プラットフォーム北東部,安徽省巣湖地域の庵門口セクションにおいて中部ペルム系Gufeng層の放散虫生層序を検討した.Gufeng層は下部の含リン酸塩ノジュール泥岩部層(PNMM)と,上部の珪質岩部層(SRM)に区分される.前者は主にリン酸塩ノジュールを含む泥岩からなり,後者は主にチャート・珪質泥岩・泥岩の互層から構成され,ポーラスチャートを挟む.PNMM下部から産出するアンモナイトはWordianの年代を示す.SRMのチャート・珪質泥岩・泥岩からは放散虫と海綿骨針が豊富に産出し,それらはWordian-Capitanianの年代を示唆する.放散虫の群集構成はSRM下部ではAlbaillellariaが優勢だが,SRM中部から上部にかけてはEntactinariaやSpumellariaが優勢となる.これらの放散虫化石はPseudoalbaillella longtanensis-Pseudoalbaillella fusiformis, Follicucullus monacanthus, Follicucullus scholasticus-Ruzhencevispongus uralicusの3つの放散虫化石帯に対比される.これらの放散虫と海綿骨針の群集は,堆積深度が150〜500m程度の水深であったことを示唆している.Gufeng層の放散虫化石群集は,中期ペルム紀の東部Paleotethysにおける,熱帯域での相対的に浅い水深の放散虫群集の代表例と考えられる.
Key words : biostratigraphy, Gufeng Formation, Middle Permian, northeastern Yangtze platform, radiolarian, sedimentary environments, sponge spicule.
中部ベトナム・コンツム超高温変成岩体に認められるペルム紀-トリアス紀Barrovian-type変成作用:東南アジアにおける大陸衝突テクトニクスへの制約
中野伸彦,小山内康人,大和田正明,早坂康隆,Tran Ngoc Nam
超高温変成作用で特徴づけられる中部ベトナム・コンツム地塊から藍晶石や十字石を含む中圧型の変成岩を見出した.これらは,同地塊北部に分布する.ザクロ石—ゼードル閃石—藍晶石片麻岩の変成鉱物組み合わせおよび変成組織の解析から,620〜650℃・1.1〜1.2 GPaのピーク圧力条件と730〜750℃・0.7〜0.8 GPaのピーク温度条件および時計回りの履歴が明らかとなった.モナザイトU-Th-PbEMP年代は246±3Maをしめす.これらの温度・圧力履歴と変成年代は,コンツム地塊南部に分布する超高温変成岩体と類似する.従って,コンツム地塊に認められる中圧型の変成作用は,超高温変成作用の成因と考えられているインドシナ-南中国地塊の衝突に密接に関連すると考えられ,本論はアジアにおける小大陸集合テクトニクスおよびその際の中〜下部地殻の物理現象に制約を与える.
Key words : Barrovian-type metamorphism, continental collision, garnet-gedrite-kyanite gneiss, Kham Duc complex, Kontum Massif, Permo-Triassic age, Vietnam.
フィリピン,ルソンの南中央コルディレラにおける,横ずれ伸張場の断層データセットから求められる応力変化:鉱物産出との関係について
フィリピン,北部ルソンの南中央コルディレラのバギオ鉱床地域〜アンサン・チュバ・ベンゲット地域における構造的特徴は,NEからENE方向の断層により支配され,NNW-SSE方向の横ずれ伸張スリップを伴う.この長さ50km,幅25kmの長く伸びたテクトニックゾーンは,西はプゴ断層,東はテボ断層によって境にされる.これらの断層は,ともにフィリピン断層システムから分岐している.フラクチャーと鉱物脈システムの詳細な構造地質学的(特にマイクロテクトニックな)解析は,地域構造の方向に強く調和てきであることを示す.計算されたσ3方向の伸張ストレス軸は,平均N150°を示し,境界断層の走向に対しほぼ平行である.テクトニックストリップに関係した鉱床の存在とその産出見込みは,横ずれ伸張と鉱物産出との間に密接な関係が明らかである.
Key words : fault analysis, mineral occurrences, Philippine Fault System branches, South Central Cordillera, stress directions, transtensional strip.
インド中部・Sakoli Mobile Beltにみられるbimodal volcanismの成因とテクトニクス
インド中部・Sakoli Mobile Beltには,弱変成玄武岩および流紋岩が,変成堆積岩類とともに産する.玄武岩及び流紋岩の全岩化学組成は,それぞれ異なるトレンドをしめすが,両者とも高いREEおよびLIL元素の含有量で特徴付けられる.また,primitivemantleで規格化したパターンでは,U, Pb, Thの正の異常やNb, P,Tiの負の異常が認められる.これらは,典型的な大陸地域のリフト帯で認められる火山活動の特徴をしめす.Sm-Nd同位体組成により,1675±180 Maのアイソクロン年代が得られ,depleted mantleでのモデル年代は,玄武岩が2000〜2275 Ma,流紋岩類が2462〜2777Maをしめす.これは,流紋岩質マグマを形成した原岩が玄武岩質マグマのそれよりも古いことを表す.従って,Sakoli Mobile Beltに認められるbimodal volcanismの成因は,リフト帯におけるマントル起源の玄武岩質マグマの活動,および一部のマグマが地殻内にとどまることによって生じた地殻の部分溶融による流紋岩質マグマの形成で説明可能なのかもしれない.流紋岩中の比較的高いCrおよびNi含有量は,玄武岩との関連を示唆する.
Key words : bimodal volcanism, Central Indian tectonic zone, crustal contamination, enriched mantle source, magma underplating, rift tectonics.
イラク北東部ラヤト地域に露出するテティアン・オフィオライトの断片としてのクロミタイトおよびかんらん岩
Sabah A. Ismail,荒井章司,Ahmed H. Ahmed,清水洋平
オフィオライト帯であるザグロス・スラスト帯のイラク部分のラヤト地域から,初めてオフィオライト的な岩石(クロミタイトおよび蛇紋岩化したかんらん岩類)が岩石学的に詳細に調べられた.初生的な珪酸塩鉱物のほとんどは変質により消失しているが,クロムスピネルは残留しており,初生的な岩石学的性質の推定を可能にしている.蛇紋岩の原岩は単斜輝石を欠くハルツバーガイトであり,クロムスピネルのCr#(Cr/(Cr+Al)原子比)は0.5から0.6である.この性質を持ったハルツバーガイトはオマーンなどのテティアン・オフィオライトのマントル部分に最も普遍的に存在し,クロミタイトのホストとして最も適したものとされる.スピネルのCr#が0.6である一つのサンプルを除いて,クロミタイトのスピネルのCr#は0.7前後と高い.クロミタイト中のスピネルのCr#のこの程度の変化はオマーン・オフィオライトでも認められる.ラヤト地方のこのクロミタイト・ポッドを有するかんらん岩は,テティアン・オフィオライトの一つであるオマーン・オフィオライト(テティス海のリソスフェア断片)と同様な岩石学的性質を有するオフィオライトに由来する.これは,従来の地質学的な解析よりなされた解釈と整合的である.
Key words: chromitite, harzburgite, Iraq, Oman ophiolite, Rayat, Tethyan ophiolite.
北アンダマンースマトラ沈み込み帯の新生代地質構造発達史-最新の知見
アンダマンースマトラ縁辺域は,ジャワ海溝,外弧プリズム,スリヴァー断層,前弧,海膨群,島弧の内側の火山群,背弧(引張応力場にあり,拡大軸を有する)より構成されており,沈み込み帯-付加帯複合体という独特の場にある.本論文では,現在までの知見をレビューし,本地域におけるテクトニクスを明らかにするうえで重要な地表および地下地質に関するいくつかの新たなデータを検討する.海溝沿いの一帯では,沈み込みに起因する変形が白亜紀から継続的にあるいは断続的に起こった.斜め沈み込みにより,アンダマンースマトラ縁辺域の北部で横ずれ断層が生じ,これにより沈み込み帯と右横ずれ断層群の間に,スリヴァープレートが形成された.スリヴァー断層は始新世に生じ,スマトラ島沖の外弧リッジからアンダマン海を経て,北方のサガイン断層へと連続する.本地域では,地域的なプレート運動により,多様な堆積盆が形成・発達した.さまざまな層準に,始新世の海溝充填堆積物を伴った,南北方向に伸張した白亜紀のオフィオライト岩体が多数みられる.それらは,一連の東傾斜の衝上断層に沿って上昇してきたものである.南北および東西方向の横ずれ断層によりプレートの沈み込みが規制され,その結果として前弧海盆が発達し,そこには漸新世から中新世・鮮新世にかけての時期に珪質砕屑岩・炭酸塩岩が堆積した.アンダマン海の背弧の形成は,2つのフェーズに分けられる.すなわち,11Ma頃のリフティングと4〜5Maの拡大である.アンダマン地域における島弧内側の火成活動は前期中新世に広がり,同時期以降,火成活動は珪長質から玄武岩質へと組成が変化した.
Key Words : Andaman-Sumatra margin, forearc basin, oblique subduction, subduction-accretion complexes, trench-slope basin
インドネシア西ジャワ第四紀溶岩の島弧横断方向の地球化学変化:島弧玄武岩シミュレーターモデルによるマスバランスの検討
Yoga Andriana Sendjaja,木村純一,Edy Sunardi
インドネシア・スンダ弧はオーストラリアプレートとユーラシアプレートの収束帯にそって発達している.スンダ弧には20以上の第四紀火山が島弧にそって形成されている.西ジャワはスンダ弧の一セグメントであり10以上の火山が分布し,それらは和達・ベニオフ面深度120〜200kmの範囲と対応している.我々は6つの第四紀火山から採取した207試料の溶岩を検討した.溶岩は玄武岩からデイサイトの組成範囲を示す.液相濃集元素濃度は火山フロントから背弧にかけて増加し,それは低-カリウム岩系から高-カリウム岩系への変化と対応している.玄武岩溶岩のNd-Sr同位体組成は中央海嶺玄武岩(MORB)組成とインド洋堆積物(SED)組成の間に散開しており火山フロントの低-カリウム系列岩の方がより放射性のNdを多く含んでいる.このことは主としてインド洋堆積物起源の沈み込みスラブ由来のフルイドと,MORB起源マントル由来のメルトが混合して西ジャワのマグマが発生した事を示唆している.液層濃集元素の始源マントル規格化パターンは島弧横断方向わたって相互に類似しているが,背弧側ほど規格化パターンの傾斜がきつく,Srの正のスパイクが弱くなる.このことは背弧側マントルほど低い部分融解度で融解したとともに,SEDフルイド組成が火山フロントと背弧との間で変化していることを示している.フルイド組成の変化は,多成分微量元素組成とSr-Nd同位体組成を用いたフルイド付加部分融解モデルで説明が可能である.このようなスラブフルイドの組成変化は,スラブSED中のSrに富んだ含水珪酸塩鉱物,たとえばゾイサイト,がマグマ発生に関与しない浅い深度で選択的分解をおこす事によって説明可能である.背弧側玄武岩をつくるにはさらなるSrの枯渇とフルイド量の減少が必要である.このような島弧横断方向の組成変化は多くの島弧玄武岩に認められる.それらの原因は,スンダ弧と同じ成因である可能性がある.
Key Words : arc magma, Indonesia, slab fluid, Sr-Nd isotopes, Sunda Arc, trace element
極東ロシアに産するマントル捕獲岩の粒間微量元素組成:含水メルトによる交代作用
山本順司,中井俊一,西村光史,兼岡一郎,鍵裕之,佐藤佳子,奥村 輔,Vladimir, S. Prikhod’ko,荒井章司
極東ロシアに産するマントル捕獲岩の主要元素組成及び微量元素組成から粒間成分の存在を突き止めた.マントル捕獲岩の全岩微量元素組成には明らかな負異常がCe, Th及びHFSEに見られる.しかし構成鉱物の微量元素組成にはそのような異常は見られない.これは全岩組成を左右するほど微量元素に富んだ粒間成分の存在を示唆し,LA-ICP-MSを用いたその場分析によりその存在が確認できた.また,メルト包有物からも粒間成分と同じ微量元素組成が得られたことから,この粒間成分はマントル流体であることが判明した.さらに,顕微ラマン分光分析によってメルト包有物の内壁から含水鉱物が検出されたため,この粒間成分はマントル中の含水交代流体であると言える.
Key Words : intergranular component , LA-ICP-MS , mantle wedge , mantle xenolith , melt inclusion