Thematic Section: IGCP 516 Geological Anatomy of East and South Asia: Paleogeography and Paleoenvironment in eastern Tethys
Guest editors: K. Hisada and G. P. Yumul Jr
フィリピンにおける地殻の厚さとアダカイト産出:その関係は?
アダカイトは様々なテクトニックセッティングのもと,世界中で数多く認められる様になってきた.この火山岩の特徴的な化学組成の形成モデルは,沈み込んだ若くて熱い海洋スラブの部分溶融に始まり,斜め沈み込み,低角もしくはフラットな沈み込み,またはスラブの断裂に求められるようになってきた.アダカイト質メルトの生成を説明するため厚い地殻の部分溶融を指摘している研究者もいる.アダカイト形成場の概要を明らかにするため,本研究ではフィリピンにおけるアダカイトやアダカイト質岩の希土類元素比を用いた.試料採取地域の地殻の厚さ求めるため,地球物理データを組み合わせた.高Sm/YbとLa/Yb比は,アダカイトやアダカイト質マグマの生成において,角閃石およびガーネットの関与を意味する.残留相としての角閃石とガーネットの存在は,厚い地殻(〜30—45km)に相当する高い圧力を示唆する.沈み込む若い海洋地殻の溶融とは異なったプロセスで形成されたアダカイトやアダカイト質岩は,重希土類元素の特徴を説明のために30kmの形成深度を必要とする.もしマントル物質の関与がないとすれば,地殻の厚さはアダカイトやアダカイト質岩形成の最重要要素である.
Key words: adakites, amphibole, crustal thickness, garnet, Philippines, rare earth elements.
バギオ鉱床地域:フィリピン,北部ルソンの地質学的進化に関する海洋島弧の証拠
バギオ鉱床地域には,この地域の地質学的およびテクトニック進化を証拠づける,沈み込みに関連した縁海から島弧セッティングにいたる特徴を示す岩石が露出している.手元にある陸上および海域からのデータは,前期中新世(開始期)から中期中新世(発達期)にかけて起こった,東(プロト東ルソントラフに沿った沈み込みの終焉)から西(マニラ海溝に沿った沈み込みの開始)への弧の極性の反転と整合的である.地球物理学的モデリングと地球化学的データの解析から,この鉱床地域の地殻の厚さとして30±5kmという値が得られる.沈み込みに関連した複合的な弧の火成活動とオフィオライトの付加が地殻の厚化に寄与した.本鉱床地域にみられる漸新−中新統のジグザク層およびクロンダイク層に関する最近の知見から,これらの岩石が堆積した縁海には,それに隣接した,シリカに富む岩相により特徴づけられた地帯からの侵食物が供給されたことが明らかになった.さらに,おそらく鉱化したターゲットを見分けるために利用される探鉱マーカーであるアダカイト質岩石,高透水帯,伸張帯が,この鉱床地域には一般的である.この鉱床地域が被った地質学的進化過程は,一般的な意味で世界各地の島弧進化に共通しており,特に北部ルソン地域で際立っている.
Key words: crustal thickness, island arc, marginal basin, mineralization, Philippines, subduction.
ブルアンガ半島とアンティーク山脈:島弧-大陸衝突帯の特徴を有するフィリピン,北西パナイ(Panay)の2つの対照的地質体
ブルアンガ(Buruanga)半島は,付加コンプレックスの典型的ユニットである,石灰岩ブロックを伴ったチャート−砕屑岩シーケンスの繰り返しによって構成されている.本研究によって新しい岩相層序ユニット,ウニドス(Unidos)層(ジュラ系チャートシーケンス),サボンコゴン(Saboncogon)層(ジュラ系珪質泥岩-陸源性泥岩と石英質砂岩),ギボン(Gibon)層(ジュラ系?層状遠洋性石灰岩),リベルタット(Libertad)変成岩(ジュラ系-白亜系粘板岩・千枚岩・片岩),そしてブルアンガ層(鮮新統-更新統礁性石灰岩)が提唱された.ブルアンガ半島の最初の3つの堆積岩シーケンスは,ブスアンガ(Busuanga)島,北パラワンテレーンの海洋プレート層序と近い類似性(遠洋性石灰岩を伴う下部-中部ジュラ系チャートシーケンスが中部-上部ジュラ系砕屑岩によって覆われる)を示す.さらに,ブルアンガ半島,サボンコゴン層のJR5-JR6に相当する珪質泥岩は,中部ブスアンガ帯,グインロ(Guinlo)層のJR5-JR6に相当する泥岩に対比することができる.これらの発見はブルアンガ半島が北パラワンテレーンの一部であることを示唆している.ブルアンガ半島の岩相は,アンティーク(Antique)山脈の礁性石灰岩やアルコース質砂岩を伴う,中部中新統の玄武岩質〜安山岩質火山砕屑性および溶岩流堆積物とは明らかに異なる.これらによって,これまでに示されてきたパラワン小陸塊とフィリピンモバイル帯の境界,つまりはブルアンガ半島とアンティーク山脈の間の縫合帯が確証された.この境界は同様にそれらの間の衝突帯と考えられる.
Key words:arc-continent collision, Buruanga peninsula, Busuanga Island, chert-clastics- limestone sequence, North Palawan terrane, ocean plate stratigraphy.
中生代中−後期の東アジア大陸縁の古地理復元
東アジアの大陸縁の中生代古地理図は,韓国と日本に分布する堆積物の最近の研究成果によって書き直されてきた.韓半島と西南日本内帯は,中期−後期中生代の時期に堆積物供給の役目を交代していた.それは,活動的大陸縁における二国間の密接な古地理的関係を示唆するものである.中期ジュラ紀の初期から後期ジュラ紀の最初期の間に,海溝充填堆積物の供給源でありそして付加コンプレックスが付加した韓半島南東部に沿って,美濃−丹波海溝が発達した. 西南日本の飛騨外縁帯の手取層群下部白亜系石英アレナイト礫は,韓半島南部の中央や東部中央に分布する先中生代石英アレナイト層からもたらされた.それは手取堆積盆が石英アレナイト礫堆積時に,古地磁気学的データによればこれらの2地域が遠距離と思われていたことに反して,韓半島東部の中央が近接していたことを示唆する.韓半島南東部に分布する非海成Gyeongsang堆積盆の北部の後期白亜紀の前期の放散虫チャートの礫や砂は,西南日本に分布する隆起した美濃−丹波付加コンプレックスからもたらされた.それは美濃−丹波帯が,東部韓半島と地続きであったことを示唆する.これらの新発見は,従来の考えと対照的に,西南日本のテクトニック・ブロックのコラージュが,後期白亜紀の前期のあとに寄せ集まったことを意味するかもしれない.
Key words:active continental margin, East Asia, Mesozoic, paleogeography, provenance.
砕屑性クロムスピネルの産出から推定される韓国と西南日本の白亜紀前期の古地理
久田健一郎,高島 静,荒井章司,Yong Il Lee
Sindong層群は韓半島南部のハーフ・グラーベンのNakdongトラフに堆積した.Gyeongsang 堆積盆のSindong層群Jinju層からの砕屑性クロムスピネルの産出は,その後背地にマフィックから超マフィック岩が露出していたことを意味する.Jinju層からのクロムスピネルは,きわめて低いTiO2やFe3+で特徴付けられる.さらに,Cr#の範囲は0.45から0.80におよび,Mg#とともに単純なトレンドを形成している.クロムスピネルの化学組成は,クロムスピネルの供給源がマントルウェッジ起源のかんらん岩あるいは蛇紋岩であることを意味している.その源岩に束縛条件を与えるために,UlsanとAndongの蛇紋岩を岩石学的に検討した.Andong蛇紋岩中のクロムスピネルはJinju層のクロムスピネルとは異なり,Ulsan蛇紋岩はそれらとは部分的に類似する.さらにJinjuクロムスピネルは,西南日本の長門構造帯や東北日本の上越帯を含む飛騨外縁帯の中生代堆積物から産出した砕屑性クロムスピネルに似ている.これはNakdongトラフの主要断層や東側に位置していた基盤岩中に,かんらん岩や蛇紋岩が露出していたことを示唆する.すなわち,Nakdongトラフは,日本海形成以前には,飛騨外縁帯の岩石で境されていたと結論付けられるであろう.
Key words:circum-Hida Tectonic zone, detrital chromian spinel, Gyeongsang Basin, Jinju Formation, Nagato tectonic zone, Sindong Group
韓国,キョンギ地塊のユーグーかんらん岩の岩石学:起源と加水過程について
荒井章司,田村明弘,石丸聡子,角島和之,Yong-Il Lee,久田健一郎
韓国,キョンギ地塊のオクチョン帯との境界付近のユーグー地域に産するかんらん岩類はマイロナイトから強いポーフィリティック組織を呈し,多くはスピネル・レールゾライトである.そのほか少量のダナイト,ハルツバーガイト,ウェブスタライトがレールゾライトに伴っている.角閃石はネオブラストとしてのみ見られ,コアがホルンブレンド,リムがトレモライトという累帯構造を有している.ポーフィロクラストは1000℃程度の平衡温度を有しているのに 対し,ネオブラストは800℃と比較的低温を示す.かんらん石はレールゾライトではFo90-91,ダナイトやハルツバーガイトではFo91程度の組成を示す.スピネルのCr#(Cr/(Cr+Al)原子比)はかんらん石のFoとともに変化し,レールゾライトで0.1から0.3,ダナイトやハルツバーガイトで0.5前後となる.単斜輝石ポーフィロクラスト中のNa2O含有量は比較的低く,最も枯渇度の低いレールゾライトで0.3から0.5重量%である.ユーグーかんらん岩類はポーフィロクラストの鉱物組成の点で,大陸かんらん岩よりも島弧や海洋底のかんらん岩に類似する.組織や鉱物学的な特徴は,ユーグーかんらん岩が加水されつつ冷却し,マントルから地殻条件へもたらされたことを示唆する.ほとんどの単斜輝石と角閃石は同様のU字形の希土類元素パターンを示すが,後者の方が10倍ほど濃度が高い.加水化は,スラブ起源または地殻中の流体により,軽希土類元素の富化を伴って進行した.マントル・ウェッジまたは海洋底のかんらん岩が,キョンギ地塊の高圧変成帯を形成した大陸の衝突によりユーグーかんらん岩として貫入した. キョンギ地塊のかんらん岩は,同地塊の西方延長であると思われる中国のダービー・スールー衝突帯のかんらん岩(ざくろ石を含むこともある)より低圧を示している.
Key words: : alpine-type peridotites, continental crust, Korean peninsula, metasomatism, spinel lherzolites, Yugu
極東ロシア,白亜紀アニュイ変成岩体とジュラ紀サマルカ帯の地質学的関係
小嶋 智,束田和弘,大藤 茂,山北 聡,永広昌之,Cheikhna Dia, Galina Leontievna Kirillova, Vladimir Akimovich Dymovich and Lyudmila Petrovna Eichwald
白亜紀の変成年代を持つアニュイ変成岩体は,変成したチャート,結晶片岩,片麻岩,ミグマタイト,超苦鉄質岩からなり,サマルカ帯のジュラ紀付加体の北縁部中にドーム構造をつくって分布している.両者の関係は断層であるが,サマルカ帯とアニュイ変成岩体のチャートおよびその変成相中の石英の粒径,結晶度および岩相が徐々に変化することは,少なくともアニュイ変成岩体の一部は,サマルカ帯の変成相であることを示している.サマルカ帯の珪質泥岩から得られた放散虫の年代はTithonian(ジュラ紀最後期)であるので,その付加年代はそれよりもやや後であることがわかる.このことは,本地域の付加体が,サマルカ帯の中では最も若い地質単元の一つであることを示している.サマルカ帯とアニュイ変成岩体の関係や年代・岩相は,西南日本の丹波-美濃-足尾帯と領家変成岩体の関係に類似している.両地域とも,ジュラ紀付加体のより下位の(若い)部分が白亜紀後期の花崗岩質マグマによる貫入を受け変成している.太平洋型造山帯の地殻発達は,(1)海洋性堆積物と大陸からもたらされた陸源性タービダイトの付加,(2)高温低圧型変成岩の形成を伴う,その次の沈み込み・付加イベントによる花崗岩質岩の貫入というサイクルにより達成されてきた.
Key words: Anyui Metamorphic Complex, crystallinity index, Jurassic accretionary complex, low-grade metamorphism, radiolaria, Samarka terrane, Sikhote-Alin
シホテアリン南部に分布するジュラ紀後期〜白亜紀前期の付加プリズムであるタウハテレーンの構造的下部ユニットの構造と年代
Igor’V. Kemkin,竹谷陽二郎
本論は,ロシアのシホテアリン南部に分布するタウハテレーンの構造的下部ユニット(エルダゴウ層)中の堆積層の構造と年代に関する詳細なデータを提示する.ベネフカ川流域に露出するこのユニットの岩相を検討した結果,エルダゴウ層は,海洋プレート上の堆積層の変形した断片を現していることが判った.すなわち本層は,遠洋性堆積物(チャートと粘土質チャート)から半遠洋性堆積物(珪質泥岩)を経て大陸斜面堆積物(泥岩,シルト岩,タービダイト)まで,海洋プレート上のすべての堆積相を有している.その堆積層から得られた放散虫化石層序の分析から,チャートはオックスフォーディアン中期〜ベリアシアン初期,チャートと陸源堆積物(タービダイト)の漸移層である珪質泥岩はベリアシアン前期,陸源堆積物の下部はベリアシアン後期〜バランギニアン後期の年代であることが判明した.このデータから,この海洋プレートの付加はバランギニアン期の後に起こったと結論される.
Key words : Erdagou Formation, Late Jurassic-Early Cretaceous accretionary prism, Mesozoic period, Mesozoic radiolaria, Sikhote- Alin, Taukha terrane
飛騨外縁帯福地地域の下部ペルム系砕屑岩層とその西南日本における地帯間対比
栗原敏之,亀高正男
本論では,飛騨外縁帯福地地域の水屋ヶ谷層について放散虫化石による時代決定を行い,本層が西南日本の非付加体型地帯(島弧−前弧/背弧海盆のセッティングで形成された地質体)における下部ペルム系を代表する地層であることを示した.水屋ヶ谷層は,全体として厚さ300mを超える砕屑岩層からなり,下部層の珪長質凝灰岩や凝灰質砂岩泥岩互層にPseudoalbaillella u-forma morphotype I群集帯〜Pseudoalbaillella lomentaria区間帯およびAlbaillellasinuata区間帯の放散虫化石を含む.これまで水屋ヶ谷層を中部ペルム系とする解釈もあったが,本層がAsselian〜Kungurianの化石を含む凝灰岩・砕屑岩相の下部ペルム系であることが明らかになった.西南日本では同様の下部ペルム系が長門構造帯と黒瀬川帯から報告されている.いずれも火山弧に由来する珪長質凝灰岩が卓越する部分があり,前期ペルム紀における火山弧の形成は,これら非付加体型地帯群が共通して経験した広域的なテクトニックイベントである可能性がある.
Key words : Early Permian, Fukuji, Hida-gaien terrane, magmatic arc, Mizuyagadani Formation, radiolarians, stratigraphic correlation.
九州四万十帯付加コンプレックスの変成・冷却史:アウトオブシーケンススラストの活動時期との関係
原 英俊,木村克己
九州四万十帯付加コンプレックスにおいて,地震性アウトオブシーケンススラストである延岡スラストの上盤(三方岳ユニット)と下盤(神門ユニット)から,イライト結晶度,イライトK-Ar年代,ジルコンのフィッション・トラック年代を解析した.求められた変成温度及び変成・冷却の時期は,延岡スラストの発達に関係する付加コンプレックスの変成テクトニクスを明らかにする.イライト結晶度は,後期白亜系の三方岳ユニットが300−310℃,中期始新世の神門ユニットが260−310℃の変成を受けたことを示す.イライトK-Ar年代及びジルコンのフィッション・トラック年代は,三方岳ユニットの変成時期が46−50Ma(平均48Ma)であることを示す.また神門ユニットの変成は,堆積終了後の40Ma以降に起きたと考えられる.これらのことから三方岳ユニットは冷却が始まる48Maに,延岡スラストに沿って神門ユニットへ衝上をはじめ,そして少なくとも40Ma以降まで続いた.したがって延岡スラストは,約40−48Maに活動していた.これらの結果は,延岡スラストの活動期間が10myを超えることを示唆する.
Key words : illite crystallinity, K-Ar age, Nobeoka thrust, seismogenic thrust, Shimanto Belt, zircon fission-track age.
北中国,大麻坪のハルツバージャイト中のKとSiに富むガラス
朱 永峰
北中国,漢諾Hannuoba地域の大麻坪Damaping〔河北省北西部〕で採集された無水スピネルハルツバージャイト〔捕獲岩〕中の単斜輝石の海綿状リムにあるカリウムとシリカに富むガラス(SiO2=65.3-67.4%,K2O=7.1-9.8%)についての研究結果を報告する.単斜輝石の融食された表面形態及び(均質なコアと部分溶融したリムの間の)顕著な組成累帯構造は,初生的単斜輝石の分解溶融がこのシリカに富むガラスの形成に関与したことを示唆する.単斜輝石の溶融程度は15%より高かったと推定される.7.0〜9.8%のK2O含有量をもつガラスを,閉鎖系において単斜輝石の15%の部分溶融で形成するには,もとの単斜輝石のK2O含有量が1%以上でなくてはならず,これは大麻坪ハルツバージャイトが地球の非常に深い部分に由来することを示唆する.(〔〕内は訳者が補った)
Key words : Damaping, glass, Hannuoba, harzburgite, mantle xenolith.
鉱物の熱力学的データを用いた沈み込み帯における砕屑岩の脱水に関する理論的な解析
季 営,Hans-Joachim Massonne,Arne Willner,唐 紅峰,劉 叢強
K2O-Na2O-CaO-MgO-FeO-Fe2O3-Al2O3-TiO2-SiO2-H2Oの系において10〜35 kbar,300〜900℃の圧力温度範囲で算出した二つの異なる堆積岩試料及び一つの玄武岩試料に対するシュードセクションから,沈み込み帯における海洋地殻から放出されるH2Oの量に関する有用な情報が得られた.冷たい沈み込み帯(20kbar,300℃から35kbar,500℃)において,120kmの深さでも変堆積物中に3〜4重量%のH2Oを貯蔵する含水鉱物が存在する.一方,同じ条件下の変塩基性岩からは深さ100〜120kmの間で1重量%のH2Oが放出されるが,4.5重量%のH2Oはより深いところへ運ばれる.高温沈み込み帯(100km深さにおいて上記の冷たい沈み込み帯より300℃高温)の場合は,深さ50〜80km間の変堆積岩の脱水は緑泥石及びパラゴナイトの消滅に起因する.計算では,80kmより深いところでも唯一安定な含水鉱物であるフェンジャイトのモードはほとんど一定なので,さらなる脱水は起こらない.同じく高温沈み込みによる圧力温度経路を経てきた変塩基性岩は,深さ40〜80kmの間で連続的に脱水し,脱水量は3重量%H2Oである.深さ120km以上では,岩石中に残るH2Oは0.4重量%以下になる.現在活動する沈み込み帯の平均的なもの(地温勾配〜6℃/km)では,堆積物と玄武岩の主要な脱水はそれぞれ70〜10kmと80〜120kmの深さで起こる.120kmより深く沈み込んだ変堆積物と変玄武岩が貯蔵するH2Oはそれぞれ1.3重量%と1.6重量%である.今回の計算結果として示された堆積物の脱水挙動は,沈み込み帯における流体の沈み込み帯深部への移動が,冷たい沈み込み帯において最も効率よく起こるという一般的な見解に合致する.また,初期地球で予想される高温沈み込み帯では,海洋地殻中のH2Oの多くは120kmより浅いところで放出されるために,島弧火成活動には関与しなかったと考えられる.
Key words : dehydration of sediments, H2O, hydrous minerals, phase relationships, subduction zones, thermodynamic calculations.