ケマテレーン:東シホテ-アリン地域の前期白亜紀Moneron-Samarga島弧系の背弧海盆の断片
ケマテレーンはシホテ-アリン地域のバレミアン期(?)-アプチアン期からアルビアン期の一連の火山岩-堆積岩類であり,Moneron-Samarga島弧系の背弧海盆の堆積物と考えられている.多様な堆積物の組成的特徴は,火山活動の影響下の斜面の堆積環境を示す.スランプ褶曲の方向の解析から,重力滑動による南東から北西への堆積物の集積が示された.陸源性岩石の組成の特徴は,エンシアリックな火山性島弧が砕屑物の主な給源であったことを示す.玄武岩質岩の岩石化学的特徴は,これらの地層が島弧の背後寄りに限られていたことを示す.
Key words: back-arc basin, basalt, Early Cretaceous, geodynamic environment, island arc, sandstone, Sikhote-Alin, terrane, turbidite.
四国中央部三波川変成帯におけるパンペリー石−アクチノ閃石相地域の細区分
坂口真澄, 石塚英男
四国中央部三波川変成帯に広く分布する低変成度岩類には,パンペリー石−アクチノ閃石相(PA相)を特徴づける鉱物組合せが産出する.本研究では,既報の地域と新たな8地域を対象として,パンペリー石-アクチノ閃石-緑簾石-緑泥石の鉱物組合せを用いた相対地質温度計の再検証と同温度計を利用したPA相地域の細区分を行った.その結果,上記の鉱物組合せにおける緑簾石のFe3+/(Fe3+ + Al)値は、緑泥石のFe2+/(Fe2+ + Mg)値の減少に伴い,わずかに減少する傾向があるものの,この変化は変成温度と良い相関が認められ,地質温度計の有効性が再確認された.そして,同温度計から,調査したPA相地域を3つの変成温度部に細区分した.出来上がった細区分の検討から,変成温度は,従来の泥質片岩でなされた結果と同じ傾向で,高変成度域から離れるにつれて低くなり,更に,細区分境界は別子ユニットと大歩危ユニットの構造境界を横切って連続していることが明らかになった.このことは,変成温度境界と構造境界の関係の見直しを迫るものである.
Key words: mineral compositions, pumpellyite–actinolitefaciesmetabasites, Sanbagawa Belt, thermal structure
舞鶴帯北帯の花崗岩類のSHRIMPジルコンおよびEPMAモナザイト年代:東アジアの古生代テレーンとの対比およびその地質学的意義.
藤井正博,早坂康隆,寺田健太郎
西南日本内帯の舞鶴帯北帯は花崗岩類と変成岩類からなり,付加体中に狭在する大陸地殻の断片であることが知られている.北帯の起源を明らかにするために,花崗岩類の年代測定を行った.その結果,北帯の西部岩体と東部岩体から,それぞれ,シルルーデボン紀(424 – 405 Ma)とペルムートリアス紀(249 – 243 Ma)のSHRIMPジルコン年代を示す花崗岩類の存在が明らかとなった.花崗岩類の貫入年代,ロシア沿海州と西南日本の地質学的類似性などから,前者はロシア沿海州のハンカ地塊に,後者は西南日本内帯の飛騨帯に対比することができる.また,舞鶴帯北帯の定置プロセスとして,舞鶴帯—飛騨外縁帯に沿うトリアス紀—ジュラ紀後期の右横ずれ運動を提案する.
Key words: dextral strike-slip movement, EPMA monazite U–Th–total Pb dating, Khanka Massif, Maizuruterrane, SHRIMP zircon U–Pb dating, South Kitakamiterrane, southern Primoye, southwest Japan.
フィリピン海プレート北縁の南海トラフにおける堆積層の層厚と種類の変化
池 俊宏, Gregory F. Moore,倉本真一, Jin-Oh Park,金田義行, 平 朝彦
本論は,南海トラフから四国海盆北部にかけて広域的そして局所的にも変化するベースメントの形状,堆積層の厚さ,堆積層の種類を示す. 反射法地震探査の結果を基に,サイスミック層序を解釈し,その相違により地域を三つに分けた.ベースメントの起伏は,概ね四国海盆西方で〜400m,中央で1500m以上,東方で〜600m.堆積物の厚さは,概ね西方で600m以上,中央で〜2000m、東方で〜1200mである. 堆積層の下部には、高振幅で連続性の良い反射面(LSB-T)があり,中新世タービダイトと解釈できる. 四国海盆東方は.タービダイトを含む,厚い半遠洋性堆積物から構成されており,これらの地域差は,伊豆小笠原弧の影響を示唆する.
Key words: basement topography, Nankai Trough, sequence stratigraphy
樫野崎海丘周辺のテクトニクスと堆積作用:南海トラフ東側の沈み込む地形的高まり
池 俊宏, Gregory F. Moore, 倉本真一, Jin-Oh Park, 金田義行, 平 朝彦
本論は,南海トラフ地震発生帯(NanTroSEIZE)のリファレンスサイト,樫野崎海丘の周辺で得られた反射法地震探査の結果を基に,南海トラフ沿いにある他2点のリファレンスサイトとの相違を示す.紀伊半島南東沖南海トラフの堆積物は,海洋地殻上面の起伏により,その厚さと種類が大きく変化する.堆積層の下部には、高振幅で連続性の良い反射面(LSB-T)があり,中新世タービダイトと解釈できる.その厚さは,約100-200 mと変化し,地形的低まりに多く分布する.その一方,樫野崎海丘の北西側斜面でも明瞭に確認され,タービダイト流のbody thicknessが,海丘の高さに匹敵していた可能性を示唆する.
Key words: Nankai Trough, ridge subduction, turbidite sedimentation
堆積年代により証拠づけられたメランジの底付け:四万十付加体のジルコンの ウラン-鉛年代測定
柴田伊廣, 折橋裕二, 木村 学, 橋本善孝
付加プリズムの成長は,前面での付加作用と付加プリズム基底面での底付け作用によりなされる.プリズムが厚くなり成長するにつれ,底付けされた地層群には海洋側・構造的下方へ若くなる系統的な年代極性が期待される.この仮説を検証し底付けの過程を解明するため,四万十帯の後期白亜紀-前期古第三紀の底付けしたメランジ群に含まれるジルコン粒子のU-Pb年代をLA-ICP-MSレーザー法で測定した.その結果はひとつの底付けメランジの中に系統的だが断続的な年代極性があることを明らかにした.このことは,底付けが数百万年間に間欠的に生じたこと,底付けしている時期の間には大量の堆積物が,底付けが生じる深さよりずっと深い所まで沈み込んでいたことを示す.
Key words: accretion, LA-ICP-MS, melange, Shimanto Belt, subduction.
トルコ西部Karaburun半島に産出するIタイプ花崗岩類の地球化学:古テチス海閉塞後の三畳紀大陸弧火成作用
アルプス造山運動の影響を被った変成岩地塊には,古〜新テチス海の形成に関連した三畳紀花崗岩類が広域的に産出する. Karaburun花崗閃緑岩は,トルコ西部にみられる古テチスのメランジに貫入した非変成深成岩体である. これは240–220 Maの年代を示し,2つの小さなストックに分かれて産出する.この深成岩体の組成範囲は広く,花崗閃緑岩からトーナル岩,閃緑岩に及ぶ.SiO2含有量は54–65重量%と幅広く,カルクアルカリ岩に分類される. また,これらは非アルカリ岩であり,モルAl2O3/(Na2O+K2O)比は0.74–1.00とメタアルミナスな特徴を示す.多くの岩石でノルムに透輝石が計算され(0.36–8.64), Na2O > K2Oである. コンドライトの化学組成によって規格化されたREEパターンでは,様々な程度でLREEに富む傾向を示し,LaN = 57.79–99.59、(La/Yb)N = 5.98–7.85であり,Euの負の異常(Eu/Eu* = 0.62–0.86)を示す. これら岩石は,海嶺花崗岩によって規格化された微量元素パターンではK、Rb、Ba、Th、Ceに富み,Ta、Nbに枯渇した傾向をもつことから,沈み込み帯におけるIタイプ花崗岩の特徴をもっている. 始源的マントルの化学組成によって規格化された多元素パターンでは,花崗閃緑岩にHFSE(Nb、Ta、Zr)、Sr、P、Tiの明らかな枯渇がみられる. Karaburun花崗閃緑岩の微量元素によるモデリングにより,この岩石は、沈み込みの影響によって組成が改変されたマントルウェッジの部分溶融によって形成されたと考えられる. また,その後の分別結晶化作用および若干の同化分別結晶化作用における地殻物質の関与もみられる. Karaburunメランジにおける典型的な大陸弧型花崗閃緑岩の産出は、沈み込み—付加モデルが妥当であることを示し,古テチス海閉塞後の三畳紀に活動的大陸縁辺部が存在していたことを意味している.
Key words: active continental margin, mantle wedge, Neotethys, Palaeotethys, Triassic, volcanic arc granitoids