中部日本,白山の甚之助谷地すべりでの活動中の基底すべり帯
川村喜一郎,小川勇二郎,北原哲郎,遠藤良太,安間了,大八木規夫
テーチス海と古太平洋間のつながりの観点から見た南シナ海と周辺地域の中生代の古地理
周 蒂,孫 珍,陳 漢宗,許 鶴華,王 万銀,龐 雄,蔡 東昇,胡 登科
中生代の間,南シナ海と周辺地域はユーラシア大陸の南東縁辺に分布していた.同地域における中生代の地質発達史に対するテーチス海と古太平洋のテクトニクスの影響について活発な議論がされてきた.本論文は6つの異なる時代に関する岩相分布図をコンパイルし,さらに変形と火成作用に関する情報を総括して,南シナ海と周辺地域の古地理とテクトニクスの関係を議論する.その結果,以下のような履歴が明らかになった.三畳紀初期に古期テーチス海はソンダ(Song Da)海峡を通して,東方へ本研究地域まで広がっていた.その後,研究地域の東部と西部はそれぞれ異なる地質学的な履歴を持つようになる.三畳紀後期に西部はインドシナ地塊と南中国地塊の衝突が原因であるインドシナ造山運動によって隆起し,ソンダ海峡は閉ざされた.一方,東部及び南東部では,古太平洋の海進が起こり,東広東(Guangdong)-北西ボルネオ海が形成された.ジュラ紀初期にその海進はさらに進み,西方に分布する中期テーチス海とつながるようになった.その結果,テーチス海域から大量の海水とともに多くの生物が流入した.ジュラ紀中期にテーチス海域の東方において短期間の海進が起こり,雲南(Yunnan)-ビルマ海が形成された.ジュラ紀後期-白亜紀初期の間,中期テーチス海及び古太平洋の沈み込みは調査地域に重要な影響を与えた.その結果,白亜紀中期または後期に大規模な「環東南アジア沈み込み付加帯」が形成された.本論文では,南シナ海北東部の新生代堆積物の下位に,同付加帯の延長が分布することを提案する.
Key words: Mesotethys, Mesozoic, paleogeography, South China Sea, South-east Asia, subduction zone, tectonic evolution, West Pacific.
沈み込み帯におけるスメクタイトの分解と流体の放出をコントロールする要素の評価: 南海トラフへの応用
スメクタイト属粘土鉱物のイライトへの変化は,沈み込み帯の運動学的・水文学的な振る舞いに影響を与える重要な過程とみなされている.このイライト化作用は、結合水の放出に伴う間隙流体の圧力の増加をもたらし,鉱物学的変化とそれに続くセメント化作用によって断層の滑り安定性が減少する間に,本来の摩擦強度が増加する可能性がある.また,放出された結合水は間隙水を清新にする役割を担っている.本研究では,南海トラフ周辺の2つの横断調査から得られたODPドリルサイトのデータとスメクタイトの分解の数値モデルを用い,(i) スメクタイトの分解の広域分布と海溝に沿った流体放出の定量化,および (ii) その水文学的・運動学的意義の評価を行った.紀南海山列(室戸沖の横断調査)の軸に沿って高い熱流量(約180 mW/m2)がみられたが,これは粘土鉱物の分解が海溝の外側で起こったことを意味している.一方,そこから100 km南西の足摺沖横断調査地域の低い高い熱流量(約70-120 mW/m2)は,沈み込み以前の軽微な続成作用によるものである.この結果は,足摺沖調査域に沿ってより多くの結合流体が沈み込んだことを意味している.足摺沖調査域の予測されるピーク流体ソース(約6-10 x 10-15/s)は,室戸沖調査域(約1.2-1.3 x 10-14/s)に比べてかなり高く,海溝から約10 kmシフトしている.より一般的に述べると,熱流量,付加プリズムの先端の角度,流入する堆積物の厚さ,およびプレート収束速度の全てが,海溝周辺における分解反応の進行と結合水の放出の広域的分布に影響を与えているといえる.以上のような流体放出の場所のシフトや流体量は,流体の通り道を抑制するために重要であり,粘土鉱物の分解と断層の運動を結びつけるための情報を与えてくれる.
Key words: clay transformation, fluid flow, pore pressure, smectite, subduction zones.
中国,青島地域の白亜紀後期の苦鉄質マグマ活動に対する沈み込んだ太平洋スラブの影響:その岩石学的証拠
張 瑾,張 宏福,英 基豊,湯 艶傑,牛 利鋒
中国,青島地域の劈石口(Pishikou)苦鉄質岩脈の産出は華北剛塊東縁の白亜紀後期(86-78 Ma)の苦鉄質マグマ活動の起源について重要な制約条件を与える.劈石口苦鉄質岩脈は青島地域の白亜紀のLaoshan(Laoは山偏に労,shanは山)花崗岩類の岩体中に分布し,かんらん岩質及びグラニュライト質の捕獲岩,捕獲結晶及び巨晶を含む.劈石口苦鉄質岩脈の岩石はベーサナイトで,低いSiO2(<42 wt%)とAl2O3 (12.5 wt%),高いMgO (>8 wt%), 全アルカリ(Na2O+K2O>4.8 wt%, Na2O/K2O>1), TiO2 (>2.5 wt%), CaO (>9 wt%),そしてP2O5 (>1 wt%)をもつ.微量元素含有量はイオン半径の大きい親石元素(LILEs)と軽希土類元素(LREEs)に著しく富み(ΣREE=339-403 ppm, (La/Yb)N=39-42),高イオン価元素(HFSE)の枯渇がない.これらの岩石は放射壊変起源のSrとPbに富みNdに乏しい[(87Sr/86Sr)i>0.7059, εNd=2.7-3.8, (206Pb/204Pb)i=18.0±0.1)].Nb/La, Nb/U, Nb/Thなどの重要な元素比は海嶺玄武岩(MORBs)及び海洋島玄武岩(OIBs)と対応する.従って劈石口苦鉄質岩脈は青島地域の白亜紀前期の苦鉄質岩脈とは完全に異なる地球化学的特徴を示すが,日本海の背弧海盆玄武岩とは類似している.この地球化学的特徴は劈石口苦鉄質岩脈がある種のアセノスフェア給源から形成されたが,それは沈み込んだ太平洋スラブ由来の物質に汚染されていたことを示唆する.従って,この苦鉄質岩脈の発見は,華北剛塊東縁の青島地域の白亜紀後期マグマ活動への沈み込んだ太平洋スラブの影響を示す岩石学的証拠を提供している.
Key words: asthenospheric source, contribution of subducted Pacific slab, Late Cretaceous,mafic dike, Qingdao.
九州南東部四万十帯の中期始新世付加体(日向層群)の急速な形成
斎藤 眞
九州南東部の四万十帯の始新世付加体(日向層群)の層序と地質構造を詳細に検討した.その結果,暁新世以前の海洋プレートに,暁新世〜前期漸新世の泥岩,珪質泥岩,中期始新世の前期の赤色泥岩,中期始新世の中頃の膨大なトレンチフィルのタービダイトの順に堆積した海洋プレート層序が認識できた.さらに後期始新世には付加体表層を覆うシルト岩が堆積したと考えられる.
このうち,中期始新世の前期の赤色泥岩は玄武岩の活動を伴い,大陸縁辺部から供給されたと考えられる珪長質凝灰岩を挟むことから,トレンチにかなり近い位置で玄武岩の活動と赤色泥岩の堆積が起きたと判断できた.また,中期始新世以前に付加は起きておらず,太平洋プレートの運動方向が大きく変わった時期とほぼ同じ中期始新世の中頃に,粗粒陸源砕屑物が一気に供給され,急速に日向層群の付加体の形成が始まったことが認識できた.推定される海洋プレートの年代や,赤色泥岩を伴う火山活動の年代から,日向層群が堆積したプレートはフィリピン海プレート北部の年代によく類似することが明らかになった.
また日向層群には,赤色泥岩にできた衝上断層を境として,それより上位の陸源砕屑岩が衝上断層で積み重なる構造が認められる.この地質構造は日本のジュラ紀付加体のチャート砕屑岩コンプレックスと極めてよく似た地質構造をもつ.すなわち,両者とも海洋プレートの直上でなく,海洋プレート層序の中間にデコルマができ,それより上部だけが覆瓦構造をなしている.このことから,日向層群は日本のジュラ紀付加体のチャート砕屑岩コンプレックスと同様の付加プロセスで形成されたことか明らかになった.
Key words: accretionary complex, Eocene, Pacific Plate, radiolaria, rotation, Shimanto.
北海道天塩中川地域に分布する後期白亜紀メタン湧水堆積物から産出した微生物活動起源のウーイド状被殻粒子
Robert Gwyn Jenkins, 疋田吉識,力石嘉人,大河内直彦,棚部一成
ウーイド粒子は,同心円構造をもつ球状微小炭酸塩粒子であり,熱帯浅海域の波浪影響下で形成されることが多い.今回,北海道天塩中川地域に分布する上部白亜系に挟在するメタン湧水堆積物中から,ウーイド状粒子の密集層を発見した.ウーイド粒子のメタン湧水環境下での形成は知られていない.そこで,メタン湧水環境下におけるウーイド状粒子の成因を明らかにすることを目的に,メタン湧水堆積物とウーイド状粒子の産状・薄片観察,バイオマーカー分析,EPMA分析を行った.その結果,今回発見されたウーイド状粒子は,嫌気性メタン酸化古細菌による嫌気的メタン酸化に伴う炭酸塩の沈殿が,海底面極近傍において起きたことによって形成されたことが明らかになった.
Key words: authigenic carbonate precipitation, biomarker, fluid flow, hydrocarbon seep, microbe, microbialite.
中央北海道・大夕張地域に分布する上部白亜系堆積物の古地磁気学的研究
玉置真知子・伊藤康人
ユーラシア東縁におけるテクトニクスを解明するため,中央北海道・大夕張地域に分布する上部白亜系蝦夷層群を対象に古地磁気学的研究を行った.段階消磁実験によって8地点から安定な特徴的残留磁化が得られ,褶曲テストによりこれらの磁化方位は傾動前に獲得したと考えられる.伏角誤差補正後の古地磁気伏角は,白亜紀以降有意な南北移動を被っていないことを示唆している.したがって,大夕張地域はシホテアリンを含むモンゴリア東部近隣の現在の緯度周辺に存在していたと考えられる.古地磁気偏角からは,大夕張地域と東アジア縁辺との間で差動回転を示唆する結果が得られ,大陸縁辺に沿った地殻ブロックの再配列を示唆している.
Key words: central Hokkaido, differential rotation, inclination shallowing, Late Cretaceous, paleomagnetism, Yezo Group.