インドシナ地域に認められる変成岩組織の多様性:アジア大陸形成テクトニクス解明への鍵
中野伸彦, 小山内康人, 大和田正明
メキシコBaja California Sur州Concepción湾周辺の地質,鉱床および熱水噴出孔
Concepción湾はバジャカリフォルニア半島の東岸に位置し,12〜6Maのリフト活動にともなって形成された北西—南東方向の正断層に沿って分布する. 主に島弧由来の漸新世〜 中新世のComondú層群が露出しており,これは当地域のカルクアルカリ火
山岩や火山砕屑岩シーケンスの主要部分を構成している.また,鮮新世〜第四紀の堆積岩,溶岩流,ドームや火山砕屑物も少量みられる.この地域の新第三紀火山活動は大陸の伸張とその後の海盆の拡大の影響により,島弧型からプレート内部型へと変化している.本地域には多くのMn鉱床がみられるが,これらは脈状,角礫状,あるいはstockworkとして産出し, Mn酸化物( pyrolisite ,coronadite,romanechite),ドロマイト,石英,バライトからなる.この鉱床はComondú層群の火山岩および局所的に鮮新世の堆積岩に胚胎されることから,中新世中期から鮮新世にかけて形成されたと考えられる.この鉱化帯は上述の正断層系に沿って形成されており.これはEl Boleo地域のCu-Co-Zn-Mn鉱床の特徴と類似している.湾周辺の陸上や海底には多数の温泉が存在するが,これらもまた同様の断層系の存在と密接に関連している.湾の南側での陸上および海底における高い地温は,最近の火山活動によるものであると考えられ,湾内においても潮間帯の温泉や浅海での熱水噴出により高い地温が確認されている.海底の噴出孔(深さ5〜15m,87℃)の周辺では,オキシ水酸化鉄の周囲に沈積した黄鉄鉱と辰砂が確認されている.一方,潮間帯の噴出孔(62℃)では,オパール,方解石,バライトおよびBaに富むMn酸化物が集合体を形成しており,その
表面はケイ酸塩—炭酸塩ストロマトライト様の温泉華によって覆われている.付近には,玉髄,方解石,バライトによって形成された,厚さ約10〜30cmの殻皮状形の脈もみられる.熱水の同位体組成を測定したところ,天水の高いd18O値と噴出口周辺の海水の値との混合値が得られた.以上の結果から,現在の噴出孔周辺にみられるBaに富むMn酸化物の沈積は,中新世〜鮮新世に形成された熱水性Mn鉱床の形成過程を示していると考えられる.
Key words : crustal extension, Gulf of California, Manganese, shallow submarine vents,volcanism.
韓国沃川帯南部,ゴハドのピッチストーンの地球化学,K-Ar年代およびSr-Nd-Pb同位体組成
韓国沃川帯南西部のゴハド地域(訳者注:木浦(モッポ)近郊の島)の白亜紀後期の火山礫凝灰岩と流紋岩中に貫入した岩株として産する塊状のピッチストーン(火山ガラス,松脂岩)の地球化学,Sr-Nd-Pb同位体の特徴,そしてK-Ar年代を報告する.このピッチストーンは非常に分化していて,SiO2は72 〜 73w t % であり,K2O/Na2O比は1.04〜1.23で,MgO/FeOt比が低い(0.17-0.20).このピッチストーンはややアルミナの過剰があり,ASI値(Al2O3/(Na2O+K2O+CaO)モル比)は1.1よりもかなり低い.またこのピッチストーンは一般的なカルクアルカリ岩の特徴を示しアルカリ含有量が多い.希土類(REE)組成は中程度に分化した性質を示し,(La/Yb)N比は11〜16である.コンドライトで規格化したREEパターンは重希土に対して軽希土の濃集を示し,中程度のEu異常を示す(Eu/Eu*は0.53〜0.57の間で変化).始原マントルで規格化した微量元素図においては顕著なNbの負異常が観察され,これは沈み込みに関連したマグマおよび地殻起源の花崗岩に特徴的である.これらは全て陸弧起源のIタイプ花崗岩の特徴である.このピッチストーンはZr含有量が98.5〜103.5ppmであり,ジルコン温度計は749-755℃(中央値752℃)を与える.代表的なピッチストーン標本のK-Ar年代測定により58.7±2.3と62.4±2.1Maの年代が得られ,その平均は61Maである.この岩石はほぼ一定の87Sr/86Sr同位体初生比(0.7104〜0.7106)を示し,143Nd/144Nd初生比も0.5120の一定値を示す.これらの岩石のεNd(61 Ma)値は−12である.枯渇マントルモデル年代(TDM)は1.54〜1.57 Gaの間である.鉛同位体比は206Pb/204Pb=18.522-18.552,207Pb/204Pb=15.642-15.680,そして208Pb/204Pb=38.794-38.923である.これらの鉛同位体比はゴハドのピッチストーンが陸弧の環境で,多分苦鉄質ないし中間質の,1.54〜1.57Gaの年代をもつ下部地殻物質の部分溶融によって形成されたことを示唆する.
Key words : continental arc, Okcheon Belt, pitchstone, South Korea, Sr-Nd-Pb isotope.
本宮山地域の塑性変形と紅柱石微細構造の発達:領家帯の変成作用とテクトニクスへの制約
足立容子, Simon R. Wallis
領家帯本宮山地域には変化に富む紅柱石微細構造が見られることが以前より知られている.この多様な紅柱石組織の成因を解くため,露頭レベルの変形構造から,微細構造,微細組織と全岩化学組成の関係を調査した.結果,複雑に見える紅柱石組織は,領家帯の広域変成作用時と近傍の花崗岩による接触変成作用時の二段階の昇温と広域変形時期の関係および全岩化学組成が連関して生じたものであることが判明した.また,広域変成作用から約10Myの時間間隔を置いた花崗岩の貫入が非常に広い接触変成帯を持っていることが明らかとなり,これは領家変成作用の及ぼした地殻熱環境の変遷を解明するための有効な制約条件となるであろう.
Key words : microstructures, Ryoke metamorphic belt, tectonics, whole-rock chemical compositions.
韓国の沃川褶曲帯東北部地域の朝鮮累層群に分布する方解石双晶の分析による古応力の推定
金準模,張普安,尾原祐三,姜聲承
韓国の沃川褶曲帯東北部地域の朝鮮累層群に分布する方解石双晶の測定を行い,堤川-丹陽地域の古応力の推定を行った.具体的には,堤川-丹陽地域で得られた方解石の双晶の方向,個数,厚さ,c-軸などを測定し,CSG法(Calcite Strain Gauge Technique)を用いて双晶の平均厚さ,平均密度,全体ひずみ,主ひずみと主方向を評価するとともに,双晶が生成された温度を推定した.さらに,最大圧縮方向は,時代とともに北東—南西から北北西─南南東あるいは北西─南東,最後に北─南に変化したことを示し,この三つの方向は,それぞれ古生代からジュラ初期の松林造山運動(Songrimorogeny),ジュラ初期からジュラ古期の大宝造山運動(Daeboorogeny),白亜紀の佛国寺造山運動(Bulgugsa orogeny)と関連があると推論した.
Key words : calcite twin, Jecheon-Danyang, maximum shortening axis, Ogcheon Belt, paleostress.
南部マリアナ弧・西ロタ海底火山の発達過程:海底地形,無人潜水艇による調査およびアルゴン年代からの証拠
Robert J.Stern,田村芳彦,Robert W. Embley,石塚 治,Susan G. Merle,Neil K. Basu,川畑 博and Sherman H. Bloomer,
3000kmに及ぶ伊豆小笠原マリアナ弧は典型的な海洋性島弧である.海洋性島弧における流紋岩の成因は大陸地殻の成因と密接な関わりを持っている.西ロタ火山(West Rota Volcano)はマリアナ弧南部ロタ島の40km西北西,現在噴火を続けているNW Rota-1の30km南に位置する海底カルデラ火山である.伊豆弧の北部のスミスカルデラとほぼ同様なカルデラを持ち,玄武岩から流紋岩の多様なマグマを噴出している.無人潜水艇による詳細な観察と採取された岩石の分析により,このカルデラの活動時期と噴火様式が明らかになってきた.55万年〜35万年前に安山岩質の成層火山として成長した西ロタ火山であったが,4-6万年前に流紋岩質の海底巨大噴火により海底カルデラを形成した.その後静かな噴火により2mに及ぶユニークな巨大流紋岩軽石を噴火し,玄武岩質の寄生火山を生じている.流紋岩の生成,カルデラの形成と南部マリアナの正断層,および地殻構造との関係も示唆された.
Key words : bimodal magmatism, hydrothermal mineralization, Mariana Arc, pumice, Quaternary volcano, submarine caldera.
エジプトの東砂漠に分布するMeatiqとHafafitコアコンプレックスの基盤岩のSr-Nd同位体と地球化学的特徴:原生代後期以前の地殻がArabian-Nubian楯状地の形成に関与した証拠
MeatiqとHafafitコアコンプレックスはエジプトの東砂漠に分布する広域的なドーム型上昇地域(swell)であり,これらのswellは二つの異なる主要構造層序学的ユニットからなる.構造的に下位のユニットは局所的に脆性変形を被った片麻岩質花崗岩及び高変成片麻岩と片岩からなる.構造的に上位のユニットはパンアフリカンのオフィオライト質メランジュナップからなる.これらの二つのユニットの境界は低角主衝上断層であり,マイロナイトは境界にそって発達している.主要元素及び微量元素の分析データは片麻岩質花崗岩が火山弧あるいはプレート内部起源のものであることを示唆する.一方,全ての片麻岩質花崗岩及び上部ユニットの岩石は低いSrの初生値(Sri)(<0.7027),また正のeNd(t)値(+4.9 to +10.3)及び原生代後期のNdモデル年代を示す(片麻岩質花崗岩試料では,TDM=592-831Ma).これらの値は比較的に若いとされるArabian-Nubian楯状地の他の地域で得られた値と調和的であるものの,片麻岩質花崗岩のεNd(t)値及び一部の不適合元素比を説明するために,マントル起源のみならず,より古い大陸地殻の影響も考えざるを得ない.著者の地質学的,Sr-Nd同位体及び地球化学的データと既存のジルコン形成年代を考え合わせると,東砂漠には原生代後期より古い,800Maまでに分裂した大陸地殻が存在したと推測される.後のリフトの形成やその他のイベントによって,海洋地殻が形成され,リフトから離れた大陸地殻にはプレート内部アルカリ玄武岩貫入した.これらの玄武岩質マグマの貫入は古い大陸の下部地殻における溶融を誘発した可能性があり,700Ma-626Maの間に貫入した花崗岩体はこのように形成したことも考えられる.古い大陸に分布する花崗岩体およびその他の岩石はパンアフリカンナップのoverthrustingによって変形を被っており,この変形は東部ゴンドワナランドと西部ゴンドワナランドの間の斜め収束に起因するであろう.Meatiq地域とHafafit地域,両方のコアコンプレックスに分布する片麻岩質花崗岩のRb-Sr同位体値は619±25Maのアイソクロン年代を示し,そのSriは0.7009±0.0017であり,またMSWDは2.0である.この年代はパンアフリカンのナップ形成・移動の時期を現していると著者は解釈する.NW-SE軸を持つMeatiqとHafafit 複背斜は継続した東・西部ゴンドワナランドの間の斜め収束に起因する可能性がある.
Key words : anticlinorium, core complexes, Gondwanaland,infrastructural rocks, island arc, juvenile crust, Nd model age,Pan-African orogeny, pre-Neoproterozoic crust.
韓国中西部・上部三畳〜下部ジュラ系藍浦層群の熱熟成度評価と熱史復元
江川浩輔,Yong Il Lee
韓国中西部に位置する忠南盆地の上部三畳〜下部ジュラ系藍浦層群の熱史を明らかにするため,イライト結晶度の測定および砂岩の顕鏡観察が行なわれた.藍浦層群は,変無煙炭に富む非海成堆積岩類から成る.同層群の構造的上位には,衝上断層を挟んで基盤岩類が分布する.イライト結晶度は,アンチゾーンからエピゾーンへと,下部ほど高くなる傾向を示し,埋没変成作用を示唆する.また,下部ほど砕屑粒子の変形度が高くなり,最下部層では延性変形組織が観察される.得られたイライト結晶度に基づくと,最深埋没時の温度は約340℃,埋没深度は約10kmと推定され,観察結果と一致する.忠南盆地やその周辺に藍浦層群より若い堆積岩類が分布しないことから,同層群の深部埋没作用は,ジュラ紀大宝造山運動時に生じた基盤岩類の衝上断層運動によるテクトニックな荷重に起因すると考えられる.その後の熱水変成作用により,地域的なイライト結晶度の異常や変無煙炭化が促進された.
Key words : Daebo orogeny, Early Mesozoic, illite crystallinity,Nampo Group, sandstone petrography, South Korea, thermal history.
四国西部,中央構造線沿いの暁新世の大規模正断層運動
窪田安打, 竹下 徹
西南日本の中央構造線(MTL)は,三波川変成岩類と上部白亜系和泉層群の境界断層として定義され,両者の接合は和泉層群の堆積後に生じた.筆者らは,詳細な野外調査と既往研究に基づき古第三紀のMTL沿いの運動史を復元した.和泉層群中には,MTLの北側約2km以内に,東西方向の大規模北フェルゲンツ褶曲が分布する.さらに,MTL沿いに最大層厚約400mのブーディン構造の発達で定義される擾乱帯が分布するほか,東西方向の北フェルゲンツ小褶曲が発達する.この地質構造は,MTLのtop-to-the-northの正断層運動により形成されたと推論される.正断層運動による三波川変成岩類の最終的な上昇は,下部始新統ひわだ峠層の堆積が示す三波川変成岩類の浸食前の暁新世に生じたとみられる.
Key words : kinematic history, Median Tectonic Line, normal faulting, Paleocene.
韓国南東部Gyeongsang盆地の下部白亜系Singdong層群の砂岩の続成作用:組成・古環境による支配との関連
クスにより生じた非海成堆積盆地である.堆積は盆地西縁に沿って分布するSindong層群に始まった.Sindong層群は3つの岩相層序ユニットからなる:すなわち下位よりNakdong層(扇状地成),Hasandong層(河川成),Jinju層(湖成)である.Sindong層群の砂岩は砕屑物組成により4つの岩石相(petrofacies)に区分される.岩石相Aは下部Nakdong層からなり平均組成Q73F12R15,岩石相Bは上部Nakdong層・下部Hasandong層からなり平均組成Q66F15R18,岩石相Cは中部Hasandong層〜中部Jinju層からなり平均組成Q49F29R22,岩石相Dは上部Jinju層からなり平均組成Q26F34R41である.砕屑物組成の変動はSindong層群の砂岩の続成鉱物組み合せに影響した.イライトとドロマイト/アンケライトは岩石相A・Bの重要な続成鉱物であり,方解石と緑泥石は岩石相C・Dの主要な続成鉱物である.続成鉱物の大部分は続成段階の前期の生成と後期の生成に区分される.前期続成時の方解石は,おそらく砂岩堆積時の乾燥〜亜乾燥気候により支配され,主に岩石相C
に生じており岩石相A・Bには見られない.後期の方解石はSindong層群の砂岩すべてに存在する.Caイオンは頁岩の続成作用とHasandong層・Jinju層砂岩の前期方解石の分解に由来するのであろう.岩石相Aと下部Bの唯一の続成粘土鉱物であるイライトは,深部埋没の間にカオリナイトが変化した生成物と推定される.これに先立つカオリナイトの存在はNakdong層堆積時の湿潤な古気候から推定される.岩石相C・Dの緑泥石はスメクタイト質粘土の変化物か,乾燥〜亜乾燥気候でのアルカリ間隙水からの沈殿物と解釈される.後期続成鉱物の出現は,堆積物組成と古気候に支配された前期続成鉱物の分布に大きく依存している.
Key words : continental basin, Cretaceous, paleoclimate, petrofacies, sandstone diagenesis
南極半島沖,南極−フェニックス海嶺下のマントルの不均質性
海嶺下のマントル物質の性質を理解するために,我々は南極海のドレーク海峡にある化石拡大軸の南極−フェニックス海嶺(APR)から得られた玄武岩のSr,Nd,Pb同位体組成を検討した.採集地点の近くにはホットスポットの存在は知られていない.我々はAPRの海嶺軸下の浅部マントルに小規模な同位体的不均質性を見出した.この地域では肥沃な(E型の)海嶺玄武岩(MORB)が通常の(N型の)海嶺玄武岩と共存する.このE型玄武岩は,(i)N型玄武岩に比べて年代が比較的若い,(ii)APRが活動を停止した後で噴出した,(iii)肥沃なマントル物質から低い程度の部分溶融によって形成された.APRの活動停止が恐らくこの地域の部分溶融程度の減少を引き起こしたのだろう.そして,この地域周辺の枯渇したマントル中に散在していた地球化学的に肥沃なマントル物質がまず最初に溶融する部分となってE型MORBを形成したと解釈する.
Key words : Antarctic-Phoenix Ridge, E-type MORB, heterogeneity, Sr-Nd-Pb isotopes.